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メリサンド姫 【児童書】

 先日のことです。

 2014年3月19日、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』がTV放送されました。

 自分も楽しく視聴しました。

 馬は強いし、ヒロインの長い髪も実に美しかった。

 アニメも原典もラプンツェルの特徴は、なんといってもその長い長い髪です。

 日本では「髪長姫」とも訳されました。

 さて、ここにもう一人名高い「髪長姫」が存在します。

 それが今回、御紹介するメリサンド姫です。




 ある時とある王国にお姫様が生まれました。

 母親の王妃様は大喜びで、洗礼式(命名式)の祝賀会を開かなくちゃとはりきるのですが、ところがどうしたことか、王様は渋い顔です。

 というのは、王族の洗礼式なんて厄介事の種だと昔っから決まっているからです。

 祝賀会など行えば、招待し忘れる妖精が出て、呪いをかけられるのがオチだとそういう理由。

 王様のひいおばあさまは百年のつむの眠りにつかされましたし(茨姫!)、王妃様も言われてはたと思い出したのですが、いとこの娘は喋るたびに口からガマガエルが飛び出してくるのでした。

 そこで、妖精は一人も招待せず、お姫様の命名は自分たちで行うことに決めました。

 しかし、王妃様は少し不安でした。妖精たち全員が怒りはしないかと。

 そしてそれは的中するのでした。

 洗礼式のあと、七百人からの怒れる妖精たちが押しかけて来たのです!


 哀れメリサンドと名づけられたお姫様は、一同の先頭に立つ年取った性悪な妖精マルヴォラによって、ハゲになる呪いをかけられてしまいました。

 続く妖精たちも、自分の「贈り物」をしようと我も我もとつめかけます。

 しかし、この王様なかなか強かで、賢く、おまけに弁が立ちました。きっと名君です。そして実際そうなのです。後ほど分かります。

 さて、最初のマルヴォラこそ、唖然とするあまり、押し切られてしまいましたが、演説によって(あるいは「そんな妖精らしからぬ振る舞いをしてみろ、おまえたちは消えてしまうぞ」という脅迫によって)二人目以降の妖精が呪いをかけるのを思いとどまらせるのに成功しました。

 調子の良いことに「結構な祝賀会でした」とぬけぬけと言いながら、妖精たちは帰っていきます。


 さて、実は王様、自分の名付け親の妖精から、結婚祝いに「願いごと」を一つもらっていたのです。

 メリサンド姫が成長して、自分の望みが分かる年頃になった頃、王様はそれを譲りました。

 メリサンド姫は、民が幸福であること、善良であることを願いましたが、それらは叶いませんでした。なぜならすでに十分幸福で善良だったからです。

 そこで、王妃様が言いました。「私の言うように願っておくれ――」


「1ヤードの金の髪が生えますように、それは毎日1インチずつ伸びて、切った場合には二倍の早さで伸びますように、そして――切るたびに量も二倍になるように」


 最後の願いは王様が慌てて遮ったので、叶いませんでしたが、それ以外は見事に叶えられました。

 メリサンド姫はそれはそれは美しい豊かな金髪を手に入れたのです。

 物語はそこから始まります。




 第一回目はE.ネズビットの「メリサンド姫」(原題:Melisande)。

 1900年にイギリスで書かれた妖精物語のパロディ小説。

 物語は「茨姫(眠れる森の美女)」に代表される「招かれなかった妖精の呪い」ではじまり、御伽噺の常道「問題を解決した者に姫を娶らせる」布告を経て、知恵ある王子と姫の結婚式で幕を閉じます。


 ですがそこはネズビットのことですから、一筋縄ではいきません。

 冒頭から王様は悪い妖精への対策をねっていますし、肝心の願いごとは注文の不備からおかしな具合に叶います。

 そして知恵ある王子も「姫から髪を切り離す」ことで髪が伸びることに気づいて「髪から姫を切り離す」のですが、それがまた新しい問題を引き起こしてしまいます。


 言葉通りに願いごとが叶ってしまうことから巻き起こる騒動は、『砂の妖精』でも見られたネズビットお得意の展開と言えるかもしれません。

 抱腹絶倒とまでは行かないですが、終始ニヤニヤできるユーモラスな、それでいて要所要所ではホロリとさせられる愛のお話です。



 さて、日本語訳は二つあります。

 もっとあるかもしれませんが、自分が知っているのは以下の二つです。


 風間賢二訳「メリサンド姫――あるいは割算の話」

 これはちくま文庫の『ヴィクトリア朝妖精物語』に収録されています。ただこれは絶版です。

 そのためしばらく読むのが難しかったのですが、今年の二月に新訳が出ました。


 灰島かり訳『メリサンド姫 むてきの算数!』(画:高桑幸次)

 こちらはメリサンド姫単独の、ほぼ全ページに挿絵の入った絵本に近い児童書。

 単位などはヤード・ポンド法からメートル法に換算されていました。

 ところで、この絵本、原書ではMalevolaであり、風間賢二氏は「マルヴォラ」と訳されている、姫に呪いをかける妖精を「ワルボラ」と訳しています。

 最初読んだときは誤字かと思ったのですが、はたと気づきました。

 Malevolaはつまりmalice(悪意)やmalevolent(悪意のある)の仲間だから意訳して「ワルボラ」にしてるんですね、これ。

 それで調べたら、イタリア語で「意地悪」を意味する形容詞malevoloの女性形がMalevolaなんだそうです。

 つまり「意地悪婆さん」や「性悪魔女」っていうことなんだと思います。

 ディズニー版『眠れる森の美女』で魔女がマレフィセント(Maleficent)と付けられたのと似たような感じでしょう。


 ちなみに、著作権は消滅しているので、"Melisande"で検索すれば原文は読めます。

 たとえば Wikisource でも公開されています。

 ですが、もしも髪……ではなく紙の本で読むならば、P. J. Lynchというイラストレーターさんが挿絵をつけた絵本"Melisande"を紹介します。

 これはとてつもなく美しい本です。

 好みの問題ではありますが、『むてきの算数!』よりも絵の美しさは数段上だと思います。

 王子の顔はのっぽさんかマ・クベみたいな顔ですが(笑)。



 なお原作者であるE.ネズビット。

 本名イーディス・ネズビット(Edith Nesbit)の作品と生涯については、


ニューファンタジーの会

『イギリス女流児童文学作家の系譜 第五巻 イバラの宝冠』

 透土社、1996年。


中野節子、吉井紀子、水井雅子共著

『根をおろすファンタジー (作品を読んで考えるイギリス児童文学講座3』

 JULA出版局、2011年。


に詳しいです。

 ちなみにこの二冊、著者は同じ人たちです。

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