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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

熟れた椿の花だけが最後の嘘

作者: 遊元 もえ

一応ボーイズラブです(ほとんどわかりませんが)。苦手な方はご注意ください。

何です?あの人だかり。

何?アンタ知らないの?今日は花魁の身請けの日なのよ。

え?今日になったんですか!?

そうよ。冬で天気の悪い日が続いたからね。今日は珍しく晴れたから今日やってしまうことにしたらしいわよ。先方も早くにしたかったみたいだしね。

へぇ。めでたいッスねぇ。わぁ・・・すげぇ綺麗だなぁ・・・!

・・・めでたいなんて言ってるアンタの頭がめでたいわよ。

あ、ねぇねぇ、花魁が銜えてるあの花は何ですか?

・・・椿の花よ。

椿?


ここでは身請けが決まったら、嫁入りと称した花魁道中をするのよ。店から先方の屋敷までの、ね。その間中、ずっと、あぁやって椿の花を銜えとくのよ。

?何の意味があるんスか?

主への忠誠、よ。

花魁道中の間、花魁は他の男と言葉を交わすことは禁じられているのよ。自分を身請けしてくれた主だけのもの、になるわけだからね。

それで・・・しゃべれないように、椿、を・・・?

身請けが幸せだなんて、私は思わないわ。だって、他の男と会えなくなるじゃない。

えー?不特定多数の相手をするよりはよくないですか?


・・・だからアンタはめでたいって言うのよ。

ぐ・・何でですか?


一人の男の懐に入ってしまったら、もう、好いた男とは会えないじゃない。

・・・え?

自分の身請けをしてくれる相手が、自分が好意を寄せる相手だとは限らないのよ?

・・・。

ここは花街・色街。好いた惚れたは、ご法度だとは言え・・・そううまく、回るはずないじゃない。

・・・花魁、も・・・?



・・・あの椿にはね、もう一つ、意味があるのよ。

・・・もう一つ・・・?





ざぁ






 大きな風が、突然、その場を襲い。

 飛び散った雪の華が、空を舞う。

 人々が、目を瞑りその風をやり越す。


 花魁道中の、足が、止まった。





 ちゅ、う。

 がっしりと、その頬を掴み。

 その、唇を塞ぐ。


「お、い・・・!花魁ッ!」

 慌てて唐傘を降ろし、周りからの視界を遮断しながら付き人がその名を呼ぶ。


 ちゅ。


 角度を変えて、まるで噛み付くかのような、それは。接吻というにはあまりにも、稚拙であまりにも、悲しい。




「・・・好きにさせてやれ」

 慌てて二人の間に割り込もうとした付き人を、別の付き人が制した。

「で、もよ、花魁道中の最中に他の男とキスしたなんて・・・不味いだろ・・!?」

 落ち着いた声で自分を呼ぶ付き人に、違うか!?と声を荒ぐ。



 風が、舞い。


 雪の華が、舞う。


 その、唇は、名残惜しそうな音を立て離れた。



「これが、最後なんだ。花魁だってわかってる。・・・好きに、させてやれ」







 逃れられないことくらい、わかっている。

 自分の立場は、痛いほど、知っている。


 頬にかけられた手が、離れた。









「・・・じゃあな」








 潤んだその瞳が、その艶やかな笑みに感情を生む。







 最後、なんだ。

 最後、なんだ。








 風が、やんだ。






「・・・い、今、の・・・」

 楼閣の二階から階下の道中を見下ろしていた二人にはその光景はくっきりと見えた。

「・・・椿の花の、もう一つの意味よ」

「・・・え?」


 花魁道中の最中は平素、花魁は他の男と言葉を交わすことはない。

 その口には、身請け先の主に対する忠誠の証である椿の花を銜え決して声を発しない。

 

 あつらえた着物も、あつらえた飾り物も、すべて。

 莫大な額にのぼる花魁道中の費用は身請け先の主が持つ。

 その、主への忠誠。





「もしも、身を焦がすほどに愛した男がいるのならば、その椿の花を取って声をかければいい」

 




 それは、説明をしなくてもそれだけでわかる、愛の告白。

 忠誠を破ってでも、伝えたい思いがあるのならば。





「それは、花魁に許された最後の告白の方法なのよ」



 風がやみ。

 雪の華は、舞うのをやめ。


 静かに、何事もなかったかのように、その列は再び歩を進め始めた。


 その、花魁の口には何事もなかったかのように紅い花が咲く。


「幸せであるはずなんて、ないのよ・・・この、花街で生きてきて」

「・・・」

 どこか、涙声で話すその言葉が深く耳に残った。


 


 しゃん


 しゃん




 鈴の音と、人々の歓声だけが、その場を支配し。

 晴天の下、その豪華な道中は続いていく。



 











「まったく、お前は本当にドラ息子だな」

「ハハ、そんなに怒らないでくださいよー」

「花魁を一人身請けしただなんて、本当にお前は何を考えているんだ・・・」

「ちゃんとこれからは真面目に働きますってば」

「本当だろうな?」

「本当です、本当です」

 信用ないなぁ、と苦笑する、その男。


 花魁道中は、その大きな屋敷の前で止まった。



「やぁ、花魁、今日も綺麗だね」

 嬉しそうに、その男は花魁へと近づく。


 その、紅い花を、取る。









 嗚呼。

 これで、終いだ。



 





「待っていたんだ。嬉しいよ」

 来なかったらどうしようかと思ったよ、そう言いながらころころと変わる、笑顔。









 終い、なんだ。








 花魁は、笑顔で男に応えた。







 白と黒が混ざり合い。

 光と影が混在し。

 花と色とが夜を彩り。

 好いた惚れたはご法度だと、それだけがここのすべて。

 

 好いた惚れた、ただそれだけが。


 ご法度。













 熟れた椿の花だけが最後の嘘。





以前HPで掲載したものを手直しした作品です。好きな作品だったので、ここにも載せてみました。花魁とか大好きなんですが、いろいろ捏造しています。

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