三章 死の街
改札を出た所の薬草店で香袋を買った。兄は誠の分と合わせて二人分、ラベンダーを。リーズはカモミール、ケルフはオレンジ。僕は気に入りのコーヒーをブレンドして持っている。四人は首からストラップで下げて服の中に入れた。
「ええっ!?」この街で起きている事を二人に話すと、当然この世が終わったかのように驚いた。
「ニュースじゃ言ってなかったぜ、一言も」
「情報統制してるんじゃない?流したら大パニックだよ、幾ら何でも」
兄は誠に着せた自分のジャケットのボタンを留めている。
「兄上、寒くない?」
「お前の家までなら平気だよ。こっちも意外と寒いんだな」
「まだ三月だもんね」
ペタペタ。歩く度誠が履いたウサギのスリッパが軽い音を立てる。流石に街中を裸足で行かせる訳にもいかず、宇宙船の船員に頼んでトイレ用を一足貰った。
「エルの家ってどんなだ?」
「うーん、本とコーヒー豆置き場って所かな、一人暮らしだし。一応キッチンはあるけど使うのはコンロと薬缶ぐらいだね」
「いっそ潔いな、そこまでいくと」兄は首を振り「まあ俺もスイーツ以外爺に任せてるけど」
「ウィルさんお菓子作れるんですか!?えっ、どんなのを?」
「偶にだぞ。普段は爺一人で作ってる。俺が最近作ったのは……ティラミスとガトーショコラ、ガナッシュもだったかな?バレンタインで俺も爺もチョコレート買い込んでたから、まあ安物適当に溶かして」
「買い込むってどれぐらいですか?」
「トータル……五キロはあったんじゃないか?全部食っちまったから分からないが」
チョコだけで一人二・五キロ。考えただけで胸焼けしそうだ。
「いいなあ。他にも作れるんですか?」
「まあな。道具は大体家に置いてあるし、作れない物は……思い付かないな。前は金平糖は家だと無理かと思ってたんだが」
「金平糖?あのトゲトゲの砂糖の塊の?」
「ああ。一週間ぐらい爺と交代でフライパン回しまくったら出来た。トゲはあんまり付かなかったけど、味は中々良かったぜ」
「その執念がもうちょっと他で生かされればなぁ」
僕のぼやきに「放っといてくれ」それから誠の頭を撫でて「まーくんが元気になったら何でも作ってやるからな」と宣言。当人は全く変化無し。
街を歩いてしばらくして、三人は鼻を押さえた。
「死体が徘徊しているってのは本当らしいな」
僕は慣れたけど、常人は中々耐えられないらしい。ここ二、三日他の星に逃げようとする住民も多い。
「もうすぐ火葬場の煙が街全体を覆う時間だね。政府館は近いから窓なんか真っ白だ」
ポケットの袋を取り出して鼻に当てる。
「気分が治るまで嗅いでいた方がいいよ。建物に入れば消臭剤が置いてある」
昼前だと言うのに人通りは少ない。店はほぼ閉まっている。
「食料の買出しとかどうしてるんだ?店、全然空いてないぞ」
「取り合えず正午ぐらいに各家宅配してるよ。一部を除いて皆引き籠ってるからね」
「まさか配給制限とかしてるのか?コーラはまだあるのか?」
「お兄ちゃん!お芋ばっかりとかなんですか?」
「おいおい。まさかスイーツも一切無いとか言わないよな?」
三人の発言が余りに日常的なので、思わず大笑いしてしまう。
「心配しなくても今の所普通だよ。肉や魚もちゃんとあるし、兄上のお菓子も、ケルフのコーラもあるよ」
「コーラは無くてもよかったかも」
「むしろ無い方がいいよな、本人のためにも」
「気が合いますねウィルさん」
「ああ。スイーツは無かったら困るが、炭酸飲料は別にいらないからな」
「二人共……酷」
会話に知らず知らず緊張が解かされる。
「それはそうと二人はホテルでも取ってるのかい?」
「いえ。先生は政府館に泊まるようにって」
「宿舎かな……いつもならいいけど、今は多分満室だよ。こんなバタバタしている時だし」
かと言ってホテルは無期限休業中。
「僕の家来る?政府館から歩いて五分。食事の支度や洗濯は自分でやってもらわなきゃいけないけど。取り合えず部屋は空いてる」
「そうだね。ありがとうエルさん」
「どういたしまして」
政府館に来るのはほぼ一年振りだ。宇宙を統治する場所らしく広くて白い四階建て。
途中エルの家に寄り、兄妹はそれぞれ案内された客室に荷物を降ろした。俺は誠が寝かされていた部屋で弟の指導の元、血圧と簡易キットによる血液検査をした。結果は貧血と低血圧。
『三日前に輸血したばかりなのにね。どうする?僕等はこれから政府館に行くけど、ここで誠に付いてる?』
その時、握った彼の掌に力が篭った気がした。
『いや、まーくん寝てるのはもうこりごりみたいだ。連れて行く、何かの拍子に意識が戻るかもしれない』
弟は検査の値を確認し『そう?じゃあ輸血は夕食の時にしようか。この程度ならそう火急でもないし』
その後着替えさせ靴も替えた。後は精神面だけだ。
「適当に使って」
各々来客用のスリッパに履き替える。エルは自分の靴箱から革の茶色いスリッパを出した。
「まーくん、こっちに替えよう」
意思疎通した感触は無かったが、彼はすんなり履き替えてくれた。
「探しているのは……ああ、いた。アムリ!」
受付の側にいる小さい眼鏡を掛けた白衣の女に声を掛ける。彼女は振り返って、「エルシェンカ様?」と言った。
「丁度良かった。実は」
「……ビトスさん?あなた」
少女は大きく頷いた。
「ああ、やっぱり。今朝学校から電話があったの。他の生徒さんと行き先が入れ替わっている女の子が来るって」
「え?入れ替わってるんですか?」
「ビトスさんはええと……救命救護かな、分野?」
「はい。そうです」
「私、解剖医なの」
全然別だ。
「ああ、大丈夫。学校の手違いだから単位は少しくれるって」
「ズルいぞ、リーズ」
「お前みたいにサボってないんだ。偶にはいいじゃないか」
しかし彼女は「折角ここまで来たのに」と浮かない表情。
「あ、あの」
「何かな?」
「アムリさん。解剖、沢山しているんですか?」
「まあ……最近は昼夜を問わず、かな。二人だけだし。中央病院の方は気分が悪くなった患者で手一杯、解剖に回す余裕無いみたい」
「現役の方のお話を聞いてみたいのですが……忙しいですよね?こんな異常事件じゃあ」
アムリは目を丸くした。
「遺体の手続きの仕方なら一応勉強してます。解剖室の掃除とか手伝ってもいいですか?」
「も、勿論!分野は違うけど、ビトスさんみたいに向学心のある人に教えられるなんて光栄です」
「遺体のエンバーミングは?」
「必要無いです。写真撮って解剖したら火葬」
「よかった。私苦手なんですよ、あれ」
「エンバーミングなんてできるのかリーズ?」
そもそも医学志望だからって十四歳で死体を扱うのか?
「はい、授業でマネキン相手にやったぐらいで下手糞ですけど一応」
「何だ、本物じゃないのか。けど最近の学校って凄いんだな」
「全くだよ」
「そうだ。立ち話もなんですからこちらへどうぞ」
リーズは俺達に別れを告げ、アムリの後をトコトコ付いていった。
「こ、ここ死体あるのか?」義息が震える声で尋ねた。
「山のようにね。数が数だから彼女、ここの所家に帰ってないみたい」
確かに女医の目の下にははっきり隈ができていた。
「早く原因を見つけて休ませてあげないとと」
弟は顎に手をやる。
「後で栄養ドリンクでも差し入れしとこう。誠が本調子なら奇跡で元気にできるのにな」
「そうだな」
誠の力ならどんなに疲れ切っても復活するに違いない、が。
「却って働き過ぎて倒れそうだなそれ」
「やっぱり自然に休息が一番かな」
俺は再び死臭の街を歩いていた。隣には黒髪の彼。
『本番は日没過ぎてからだし、久し振りに街を見てきたら?夕方僕の家に集合って事で』
気を遣ってくれているのが分かったので『ああ』有り難く調査は二人に任せて政府館を出た。
「何か食べようか」
夢遊病で腹が減ったと言うはずもないが、この状態で何か口にしたとは思えない。
(元気の素は飯からだな。血糖値が上がれば意識が戻るかもしれねえし)何より俺自身空腹だ。朝は爺がテーブルに用意してくれてたサンドイッチしか摂ってない。
カランカラン。
あの食堂だ。中を見回して肩を竦める。
(いる訳、無いよな……)手前に一人だけいる老人は思わず絞め殺したくなる程血色が良い。
勿論生身のウエイトレスが「いらっしゃいませ」と言った。店が閉まってない所を見ると、まだそこそこ需要があるらしい。
窓際席に案内された。渡されたメニューを開く。ふむ、当店自慢スイーツは無いな。
「カシスのアイスクリーム二つと、フルーツサンド一つ」
「畏まりました」繋いだハンカチに一瞬奇異の目を向け、ウエイトレスは店の奥へ引っ込んでいった。
ここ、夢では誠の席だ。彼が座っている場所は、金髪だったか?
(ここから何が見えた?)
同族との共栄の未来だろうか。あの表情に生者を歓迎する色は見受けられなかった。
(ま……嫌ってるのはこっちが先。疎まれるのは当然だ)
違う。彼は自ら歩み寄っていた。俺達とは逆に理解したい、友人になりたいと切に願っていたではないか。
『不死族って悪い人なの?』
何でもっとはっきり否定してやらなかった?彼は身を挺して証明したと言うのに。
(その証拠にこの身体は半ば俺の物ではない)
痛覚が半分麻痺していると気付いたのは一昨日だ。ちくり、とした時には果物ナイフが手の甲をザックリ抉りダラダラ流血していた。普通なら飛び上がる程の大怪我なのに、皮膚はまち針で突いたような感触しか脳に伝えない。
色々試してみたが、どうも不死になった訳ではないようだ(当たり前か)。生肉しか食べられない事も無く、夜目が利くようにもなっていない。勿論、傷も勝手に治らない。包帯は外してきたものの右手には一本の深い痕が刻まれたままだ。
但し検査の結果、一週間前にほぼ失ったはずの血液は完全に正常に戻っていた。輸血等していないにも関わらず。考えられる原因は一つ。彼はあの時血液が自己増殖する奇跡を使った。その副作用が感覚麻痺なら、奇跡自体も継続中である可能性は大。幸いなのは日常生活に支障が無い点か。
(いや、あくまで俺にはだ……落ち込んでいても仕方ないな)俺の氣が沈んでいたら連動して治りが遅くなりそうだ。大体今の状態じゃ守ってやれるのは俺しかいない。
カランカラン。
「いらっしゃいませ」奥にいたウエイトレスがさっきと同じように応対する。
黒い法衣を着た金髪の男。同じ色の帽子を目深に被っている。腰には左右に一本ずつ、長さの違う剣。
テーブルに案内しようとした彼女に小声で何かを伝える。
「分かりました。こちらです」
彼女は男を俺のテーブルの前まで案内した。
「私にはサンドイッチとコーヒーをお願いします」
「畏まりました」
堂々と夢の中の警官の席に座る男。帽子を脱ぎ、
「初めまして、ウィルベルクさん」
不自然な間を置いて左隣に目を向け「こんにちは、小晶 誠君」優しく話し掛ける。
「私はジュリト・マーキス、とある田舎で神父をしている者です。この街へは心を病んだ人々を慰めようと訪れた次第です」
朗らかに笑う。
「へえ。一人で?」
「ええ。微力でどこまで力になれるのかは分かりませんが」
どうも態度が嘘臭い。大体神父は帯刀したら駄目じゃなかったか?
「お二人で昼食ですか?」
「ああ」
「羨ましいです。私も連れがいれば話し相手に困らずに済むのですがね」
「だから合席に?」
「あの御老人は耳が遠いようですから。御迷惑でしたか?」
「まぁ……初対面の人間と打ち解けられる程社交的ではないな」
注文した物が運ばれてくる。紫色のアイスをスプーンで掬ってまず誠の口、滑り込んだのを確認して自分も一口。
(一回解凍後再冷凍したな……配合は良い線行ってるのに、勿体無い)
古くなりかけた乳脂肪分が舌の上でザラつく。カシスもフレッシュとは言い難い。この状況では食えるだけマシか。
「美味いか?」返事は無い。
左右交互にスプーンを運びアイス二つを完食。最中に運ばれたフルーツサンドも半分ずつ食べた。冷凍フルーツを使っていてこちらもイマイチだった。
(こんなに身体が冷たいのに、冷菓なんて食わしたらまずいか?)右手で再びメニューを開く。
「すいません、紅茶二つ追加で」
「ウィルさんも死体徘徊の件で来られたのですか?」
「いや……親友を」大嘘吐きだな、心の中で苦笑する。「連れ戻しに」
「目的は既に達成されたようですね。では事件は」
「興味無い。弟の方がそういうのは向いてる」
神父は運ばれて来たハムサンドを摘んでゆっくり咀嚼する。
「薄情な人ですね、貴方は」コーヒーを一口。
「知ってる」
「この五日で死者が二人出ました。事態の重さに比べれば奇跡に等しい少なさです。しかし、このまま事件が一ヶ月も続けばこの街は終わりです。それなのに貴方は」
「説教なんて沢山だ。俺は街がどうなろうと構わない。ただ、俺は」左側を見る。「彼を助けたいだけだ」
「何故です?」
「は?何故って……大事な、友達だから」
(違うな……もっとこう、大事で掛け替えがない感じ、なんだよな……)モヤモヤする。(だからこうなっちまったのを見てると苦しくて切なくて……何をしてでも笑顔を取り戻してやりたくなる)
「……もしも、その大事な友達の彼と、大勢の命を天秤に掛けなければならないとしたら」
奴は嫌味なぐらいにこりとした。
「どうします?」
運ばれてきた紅茶をスプーンで一口彼に含ませて、言ってやった。
「んなの知った事か」
四氏にメールを出した後、ケルフを伴って街に出た。
「さっきのメール何だ?」
「ん、ああ。まだ誠は無事保護したって伝えてなかったんだ。天宝で消えてからアイザが街中随分探し回ったそうだし、これで安心してくれるといいな」
電話を掛けて来た時もかなり心配していた。『悪い奴に誘拐されてないといいけど……』
「四のおっさんとはメルアド交換してるんだな」
「彼は無口だから。付き合って数年になるけど、声は一度も聞いた事無いよ。どうして急にそんな話を?」
「ああいや。誠が俺達の所にいる時、リーズとそんな話になって」
「あれ教えてなかった?ちょっと待ってて」携帯を操作。数秒後、彼のジーンズのポケットからクリーミオのバラードが流れ出す。彼も携帯を取り出し蓋を開く。「それで登録しておいて」
「サンキュー。リーズには俺から教えておくよ」
半分休業した雑貨店の前で学生が参考書を購入している。確かに家で勉強するには最高の状況だ。
「ケルフも籠って作曲したら?」
「生憎ギターを持って来てねえんだ。あれ弾かないと無理。大体そんな事してる場合かっての」
「冗談だよ当然。……話は変わるけど警官とホステスの殺人、あれは同一犯かもしれない」
「?外を歩いてる死体が殺したんだろ?」
「あの死体達を動かしているのは多分“泥崩の術”だ」
「何だ。分かってるならすぐに止めに行けばいいじゃん」
「説明しよう」
北区を離れると腐臭は大分薄れる。
「死体徘徊被害は六日前からだが――彼らは歩き回るだけで人を喰わない。つまり、“泥崩”は“腐水”と違って極めて殺傷能力に乏しい術だと言える。元から人を襲うプログラムは無いんだと思う。つまり殺人には別の“死肉喰らい”が関わっている」
「え?でも喰わないと身体を維持できないんじゃないのか、その」
「誠みたいに?」
「そう。その内無くなっちまうだろ?元から腐ってるし」
「そうだね。確かに毎夜毎夜歩き回ってたら腐敗は加速的に進行する。骨になっても動けるけど、保って三ヶ月かな」
「それなら皆どこかに避難して、全滅するの待ってりゃいいじゃん」
「無理だよ――――被害が広がるだけだ」
「え?」
「文献を調べた限り、“泥崩”の正体はある特定の音波。それも半径二メートルにも満たない短波だ。この音波を受信し感染した死体が基地局の役割を果たし、さらに二メートル先の死体に向けて発信する。感染した死体自体も次の日からは発信局となり、より広範囲に被害が広がる訳さ」
「?でもここは孤島だぜ?要は死体さえ船に乗せなきゃいい」
「定義が若干違うんだよ。死体って言うより、死んだ細胞の方が分かってもらえると思う」
「細胞……?」
「人間の身体には約六十兆個の細胞があると言われている。そしてそれらは日々新陳代謝を繰り返して」
「はあっ!?エル。ま、まさかお前……」
樹なら落ち葉、花なら散った花弁、動物なら抜け落ちた毛や歯、垢等身体中の細胞。それらは部分的ではあるが“死体”と定義できる。
「“泥崩”は生物全てに感染する。思い出してみなよ。僕等が乗ってきた船、誰も乗せなかっただろ?」
「え?でもお前は出てたじゃないか?誠も」
「死体は日没から日の出まで行動する。なら、音波も同じ時間帯に出ているはずだ。それまでに戻ってくれば他への感染は無い。誠が行った先で騒ぎが起きていないと言う事は、多分完全な不死族に“泥崩”は感染しない。まあ僕も髪の毛やフケぐらいは落としただろうから、そこから感染が広がる可能性もゼロとは言い難い。けれど効果範囲を考えれば充分許容内」
「ま、待ってくれ!?」
ケルフは頭を抱えた。
「じゃ何か!?このまま日没までいたら、俺やリーズや義父さんも感染しちまうって事かよ!」
「うつっても特に体調が悪化したりはしないよ。どうする?帰るなら船を手配するけど」
「感染したら当然ここから出してくれないよな?」
「発生源を突き止めない限りは。そう長くは掛からないよう努力はする。但し街にいれば凶暴な“死肉喰らい”に襲われる危険性がある」
青年は一分程唸った後、顔を上げた。
「でもさ、どっちにしろお前はもうここから出られないんだろ?義父さんだって誠が治るまで帰んないだろうし。仲間を見捨てて逃げる、なんて格好の悪い真似俺に出来ると思う?……リーズにも訊いてみてくれよ。あいつは課題で来ただけだ。帰りたいなら帰してやらないと」
「分かった」
携帯で医務室の内線へ掛ける。三コール目で少女が出た。
『エルさん?どうしたんですか?』
「大事な話なんだ。いいかい、落ち着いて聞いて」
僕は“泥崩”の感染の事を伝えた。
「だから家に帰るなら日没までだ。どうする?」
『お兄ちゃんと同じです。私も帰りません』
彼女らしい決断だ。しかし一応もう一回確認しておく。
「いいのかい?危険かもしれないよ」
『そんなに驚かないで下さい。どうせ誰かがやらなきゃいけない事ですから。あ、でもそれならアムリさんに学校へ連絡入れてもらわないと』携帯の奥で『アムリさーん、ちょっといいですか?』と声がする。
『今から掛けてもらいますね。調査の方は宜しくお願いします』
「ああ。ありがとう」
ブツッ。
「君等兄妹は本当に仲が良いね。でもどうして?」
「?」
「君達は一般人だ。政府員としては危険を冒すような真似をして欲しくない。それに君等は僕の……」
「仲間だろ俺達?」
「そう、だけど……」
「エルは街のため、義父さんは誠のため、俺達は皆のために出来る事をする。それがたまたま全員街に残る方がいいって事になっただけじゃん。な?」
「でも僕は……皆に怪我をさせた。君の脚も、大事な妹も、アイザも。僕がもっと先に手を打っておけば、危険を事前にきちんと伝えていれば、誠はあんな夢遊病みたいにならなかった。そうだろ?」
僕は“あいつ”みたいに冷酷にはなれない。
「僕は……皆が傷つくのを見たくない」
「……安心した」
「えっ?」
「俺も同じ事考えた。リーズの怪我でババアには何度も拳骨喰らって、こっちも怪我人だってのに手加減無しでタンコブできるぐらいボコボコにされた。でも、俺がババアなら絶対立ち上がれなくなるまで殴ってたと思う。血の繋がりが無くても大切な娘の一人だし」
彼には珍しく自嘲気味に笑う。
「俺がしっかりしてないせいで皆は怪我したんだって思った。ババアの怒りは尤もだって」
「違う!僕が……」
「でもさ、俺達は誰一人死ななかったんだぜ?怪我は魔術で治ったし、誠も時間は掛かるかもしんないけどいつか治る日が来る。取り返しが付くんだ、だって皆まだ生きてる」
僕の肩をぽんぽん叩く。
「俺もお前も仲間が怪我するのを見たくない、だから戦う。それでいいじゃん」
ちょっと逞しくなった青年を見ながら、僕は心に強い芯を感じた。だけど……。
(そうだ。生きてるなら取り返せる……でももし死んでいたら……それでもどうにかなるんだろうか……)
彼女の幻影が脳裏を過ぎった。
三時に家を出て、政府館医務室のドアをノックする。日没まではまだ大分時間がある。
母の事を姉に相談するつもりだった。父の侵入事件以来、精神病棟は活発な患者を中心に騒がしさを増していた。母はうわ言を口にするようになったが、相変わらず会話は成立していない。今後更に事態が深刻化すれば病棟を移る必要が出てくる。そうなれば医師である姉に移転先の打診を頼まなければならない。
「アムリ?入るぞ」
キィッ。
熊髭の男は白衣を着たままソファで爆睡していた。姉の唯一人の同僚だ。
奥からキーボードを叩く音が聞こえてくる。そちらに足を向けた。
「……あれ?あなたは」
パソコンに向かっていたのは若い娘だ。姉は解剖が終わって机に突っ伏しスヤスヤ寝ている。
「お前、新しく派遣されてきた医者か?」
「いえ。私は医療関係志望の学生で、リーズ・ビトスと言います」
(この娘、どこかで会わなかったか?)
「私はシャーゼ・フィクス。アムリ・フィクスの弟だ。何をしている?」
少女はパソコンで死体鑑定書のインプットをしていた。既に半分近いカルテの打ち込みが終わっている。
「アムリさん達疲れているみたいだから……パソコンは学校で使って慣れています」
「部屋も掃除したのか」散乱していた書類やゴミが綺麗に無くなっている。「礼を言う」
「そんな。解剖以外で出来る事をしただけです」
好感の持てる娘だ。やはりどこかで――。
「小晶 誠、だ……」
「え?誠君?」
会ったのは確か“蒼の星”の軽食店。
「あ、シャーゼさんって……前に会いましたよね?そうだ、誠君もその時一緒に」
「奴はどこだ?聞きたい事がある」
「今はウィルさんと一緒のはずです。でも夢遊病状態でとても話なんて」
あの状態が現在も続いているということか。
「シャーゼさん。誠君は何も悪い事なんてしてません」
娘は幾分緊張した面持ちで言う。
「素直で優しい子なんです。だから捕まえたりしないで」
「勘違いするな。事情を聞くだけだ」
父の邪光は消えた。奴は一体何をした?
コンサートはタダだ。今回は最初からゆっくり聴くつもりだ。
最初は学生四人組みのバンド、既成音楽のアレンジ。次は中年の男の演歌。風邪だったのか、始終咳き込んでいた。
最後に彼女が一人で舞台に立った。先生は今夜はいないようだ。
弾き始めたのは牧歌的な曲だった。どこかで聴いたような旋律を優しいタッチで奏でる。
三分ほどで曲は終わり、観客に会釈して退場した。
帰ろうと出入口のドアを潜る。
「少し……いいでしょうか?」
階段の所で待っていたらしい彼女は控えめに言った。手は相変わらず後ろに回している。
「あの……先週から聴きに来ていた方ですよね?道でも一回」
「ああ。エルシェンカ。エルでいいよ」嘘を吐くべきかと思ったが止めた。「政府の仕事でホールの利用状況を調べている。あの男の人、今日はいないの?」
「あ、はい。ちょっと体調を崩しているらしくて……あの、お時間ありますか?」
「うん。どこに行くんだい?」
「私の家に……」
連れ込みかと一瞬思ったが、彼女にそんな度胸があるとは到底思えない。案の定こちらが黙っていると「やっぱりごめんなさい。お忙しいですよね?」
「別に構わないよ。そろそろ利用者にアンケートを取ろうと思っていたし。相談に乗るついでに協力してもらえると嬉しいな」
「はい、勿論」
アルバスル墓地の入口は魔力の鎖で封印されていた。死体が出て来られないようにしているのだろう。
「そろそろ夕方だ。エルの所に帰らないと―――まーくん?」
墓地の方を見つめたまま彼の目は瞬きすらしない。
「どうしたんだ?何かあるのか?」
半日連れ回してこんな反応は初めてだ。
(確かめるか?茂みを突っ切ればどうにか入れそうだが……いや、でも)そろそろ約束の時間だ。
「まーくん、後で皆揃って来よう。輸血もしないといけないし」
俺の意思が通じたのか凝視が止む。
「よし。良い子だ」
資料にあった殺害現場も見てきた。二人共家のすぐ脇で被害に遭っている。自宅はどちらも墓地に近い北区。無差別殺人と言えなくもないが、夢の中で話していたのは共通項になるだろうか。
(だとすると他の連中を探して……だが、シャバムは広いぞ)
店はほとんど開いていないし、通行人の姿も無い。これでは探しようが無い。
(何か無いか……誰でもいい。身元に近づける手掛かりは)
服?容姿?会話?――――そうだ。
(ラベンダー。あれはどこから来たんだろう?)
五人の行動を思い出す。
(警官とホステスが乳繰り合っていて、金髪が……あ)
煙草だ。金髪が吸い始めた煙草を、隣の中性女が投げ捨てた。匂いの発生源はあれしか考えられない。
(多分アロマパイプって奴だな。だとすると……)
この街で購入しているかもしれない。香袋を買ったあの店で訊いてみるか。急げば日没までにまだ間に合う。
しん、とした通りを歩く。時折宅配で足りなかった材料の買い出しらしき主婦と、夜の準備に急ぐ政府員とすれ違う。四天使像の前には誰も待ち合わせていない。
店の軒先には大量の消臭剤が置いてあった。大特価だ。
「いらっしゃいませ」
奥から店長と思しき四十代の男が出てくる。
「これ、いいですよ」一個掴む。「玄関に置くだけで外の臭いを吸収してくれます。政府館の方でも発注頂いている当店の人気商品ですよ」凄い商売人魂だ。
「ああ、いや俺は」
「店長!」
棚の陰から若い男が顔を出す。……金髪だった。
「これ幾ら?」
手にしていたのは一見煙草だ。しかし店長の言った値段は定価の約半分。
「ありがと」
金を払い、店を出ようとする金髪に俺は「ちょっといいか?」と声を掛けた。
「うん?」
「それがアロマパイプって奴か?」
「そうだけど」
「ああ、良かった」誠を指差し「この子、寝る前にそれ吸わないと上手く眠ってくれなくてさ、探してたんだよ」
「へえ。丁度いいぜ。安眠効果ならそこのラベンダーだよ、あと二カートンしかない。あんた運がいいよ」
金髪は少し首を傾げ「彼、精神障害者?病院の処方箋は?」と尋ねてきた。
「いや、掛かりつけは“碧の星”の病院なんだ。騒動でこっちに閉じ込められちまって、中央病院に行ったらここで買えって言われた」
「そうだな。発狂した連中で中央は手一杯らしいし。けど薬は足りるのか?」
「ああ、抗鬱剤はまだ一週間分はある。飲み始めで効いているかはイマイチだがな」
「鬱の薬なら効果が出るのは早くて二週間。ちゃんと毎回欠かさず飲ませないと駄目だぜ」
「それ医者にも口酸っぱく言われた。あんた詳しいんだな」
「詳しくて当然さ、こいつは薬剤師だ」店主が口を出してきた。「その坊や鬱病なのか?可哀相に、よりによってこんな時にシャバムに来るなんてなぁ。悪化しなきゃいいんだが……そうそう」
店主はアロマパイプ一箱の上に、何故かデフォルメされた人間が描かれた薄い冊子を乗せた。『初心者でも分かりやすいツボ押し』
「知り合いがこいつで治したんだ。サービスで付けとくよ」
「あ、ああ。ありがと」おいおい……まぁ、輸血の合間にでもやってみるか。
会計の後も店長のアドバイスは続く。やれどこそこの温泉がいい、患部を温めれば大抵の病気は治る、腰痛治療法かっての!
「あ、ああ今度試してみる。そろそろ日が傾いてきたし帰るよ」
「そうだな。アレイア、お前も死人共が起きない内に帰りな」
「分かってる」
奴がいなくなったのを見計らって店長に彼の事を尋ねた。名前はアレイア・チュラ。個人経営のクリニックで薬剤師として働いている。今日は休みらしい。
二階建て木造の建物、ドアの前でエルは止まった。横に立て掛かけた看板には“シャバム新聞社”とある。
「げ!?もしかして調べ物……」
「出掛ける前に言ったはずだけど?」
ドアを開け、中に入る。ムワッ、と新聞の匂いがした。玄関に十部近い新聞ホルダーが掛かっている。
「連絡していた政府館のエルシェンカです。新聞を―――!」
エルの口が固まる。受付嬢を凝視したまま。
「どうなされました、お客様?」
化粧の薄い二十歳前後の女。髪の毛はショート、女性っぽさを抑えている。胸元には“詩野 美佐”と書かれたネームプレート。
「どうして………?」微かにそう聞こえた。
「?お客様?」
「ああ、いや……知人が君とよく似ていて。驚かせて済まない」
詩野さんはいぶかしげな顔をしたが「そうですか」と呟いた。
「資料室は階段を上がって最初のドアです。持ち出しはできませんので、中のコピー機をお使い下さい」口元を押さえ「ゲホッゲホッ!」
「酷い咳だな、大丈夫かお姉さん?」
「はい。どうも夜の肌寒さで風邪を引いてしまったらしくて……ゲホッ!」
「そうか、お大事に」そう言って受付の奥へ。
「あれ、殿下ー!」
雑然と並んだデスクで誰かが手を挙げる。あ、こないだの新聞記者。
「何だヤシェ。こんな日にまで仕事かい?ご苦労様」
「こんな日だからだよ。家に帰っても臭いで滅入るだけだしねぇ。ここなら新聞紙が吸収してくれる」
「色々書いてくれたね。警察は低能で、政府は無能だって?」
「明日の原稿は猿以下ですけど。いや、私も貶しネタなんてやりたくないんだよ?でも部数がねぇ……売れないとお話にならないし」
「ほう。じゃあ事件が終わったら真っ先に君を週刊誌に売ってやるよ。疾風のトルクは嘘八百を書いているってね」
「で、殿下ー!?私と殿下の仲じゃないですか!そんな殺生な」
「大規模メディアで中傷する方がよっぽど殺生だよ!只でさえ毎日山ほど非難の手紙が送りつけられているってのに」
しばらく罵り合いをした後、俺達は資料室に入った。
新聞が整然と入れられた棚の前を通り、木製の大きなデスクに設えられた椅子に座る。上には準備してくれたらしく最近の新聞が山と積まれていた。
「で、何を調べればいいんだ?」
エルは何故かうわの空。俺はもう一度呼び掛けた。
「あ、ああ……ごめん」
「どうしたんだ?疲れてるなら俺が調べてる間寝てていいぜ」
「いや……ちょっと気になる事があっただけだ」
こめかみを押さえた後、「本来の目的に取り掛かろう。最初の騒動が起こる以前、ここ二、三ヶ月の広告で事件に関係した物があるはずだ。それを探そう」
「具体的にはどんな?」
「多分魔術同好会、又はサークル員募集」
活字は苦手だが広告のチェックならできる。エルは流石、俺が三日分を確認する間に早くも一週間分終えていた。
「さっきの気になる事ってのは?」
「……受付の彼女……名札には詩野 美佐って書いてあったよね?」
「ああ」
眉間に皺を寄せる。
「彼女――偽名、なんじゃないのかな……」
「は?お前知り合いなのか?」
「二、三ヶ月前に仕事の関係で何度か会ったんだ。でも今の彼女、顔はそっくりだが僕の知っている詩野さんと明らかに違う。ただ、どうして名前を偽っているのかが分からないんだ」
どうやら別人と確信を持つ根拠があるらしい。
「それに最後に会った時、様子がおかしかったんだ。まるで……」蒼褪ながら言葉に詰まる。「事件とは関係無い話をして済まなかった。早く調べて家に戻ろう。兄上達やリーズを待たせたら悪い」
全然気が晴れていない様子でそんな風に言われてもなあ……こっちまで余計に気になるじゃんか。
「なあ、俺がそれとなく訊き込んでこようか?」
目をぱちくりされた。「何で?今は非常事態だよ、そんな暇無い」
「詩野さんだって緊急事態かもしれねえぜ。助けを求めたくてもできない状態なんだとしたら」
身を乗り出す。
「最悪もし彼女が今回の事件に巻き込まれてるとしたらどうだ?見殺しにするのか?」
「随分突飛な発想だねケルフ。……その可能性は低いだろうけど、調査の必要はあるかもしれない。彼女からの預かり物もあるし、ね」
言うが早いが俺は新聞を預けドアを開けた。
「じゃあ取り合えず何時からここに勤めているのか、それとピアノは弾けるかを訊いて来て」
「詩野さんってピアニストなのか?」
「一応プロだ」
「分かった。そっちは任せたぜ」
一階へ降り、真剣な表情でデスクの上の原稿用紙と睨み合うヤシェ記者を発見した。さっきまでいなかった三、四人の記者達も同じ状態だ。
「ちょっと訊きたい事があるんだけど、時間いい?」
顔を上げた。
「構わないよ、後は校正だけだし。殿下にお遣いを頼まれたのかい?」
「いや、俺が自主的に。あのさ、受付の詩野さんって何時からこの新聞社にいるの?」
「二週間ぐらい前じゃないかい。求人見て来たらしい。?あの子がどうかしたのかい?」
眉を寄せ訝しげな表情。マズいな、俺と詩野さんは初対面だしどう切り抜けるか……そうだ。
「彼女ああ見えてクリ―ミオのファンクラブの子なんだ。一週間前のライブに来てなかったから心配になってさ。そっか、新しい仕事で忙しかったんだな」
「へぇ、真面目そうな子なのにロック好きなんだ。でも確かに音楽はやってるみたいだね」
「何か弾けるの?」
「この前の休日に楽器屋でピアノを買っているのを見たよ。中古の」
「うわ、凄いな!詩野さんピアノ弾けたんだ!演奏会とか出てるのかな?」
「かもねぇ……あの子いつも残業せずに帰るから、案外どこかのホールで弾いてたりして」
クククッ。
「顔を覚えてる程のファンの割に、さっきは全然反応しなかったねぇ」ギクッ!「まあ私にはどうでもいい事さ」
「あ、いやその……」
「別に言いやしないよ。他に訊きたい事は無いのかい?」
記者は意地悪な笑みを浮かべ、「何なら履歴書のコピーでも持ってこようかい?パスの番号も書いてあるし、大抵の事は用足りるはずさ」
「え?で、でもいいのかよ?個人情報漏洩じゃあ……」
「私と殿下の仲だからねぇ。ネタのために恩を売っておくのさ。どうするんだい?」小声で囁く。
(調べるならとことん、だな)
「頼む、新聞記者さん」頭を下げた。
「OK。ちょーっと待ってておくれよ」
「どうぞ、召し上がって下さい」
両手で出されたダージリンを受け取る。紅茶は飲み慣れないが中々美味しい。
「まずは弾いてみてよ」
「!はい……」
ピアノを弾き始める彼女。
「最初は“菜の花”、次に“おお神よ”を弾きます」
代表的ワルツと賛美歌だ。確かに全体的にまとまってはいる。でも。
「ねえ。今日の曲はオーディションのプログラムに使わないのかい?君、好きなんじゃないあの曲」
「……迷っているんです。先生の言う通りこの二つで受けるか、それともどちらかをあの“もぐらさんは毎日進む”にして弾いてみるか」
「曲のとおりの可愛いタイトルだね」
「はい。昔……私の大切な人が作ってくれた曲なんです」
僕はしばらく考えて、言った。
「君が入れたければ是非相談するべきだよ。多少衝突するかもしれないけど、君の熱意は本物だ。彼は必ず納得してくれる。僕が保障するよ」
「あ、ありがとうございます」
彼女は安堵の息を吐いた。実に女の子らしい表情だ。
「今度は私の番ですね。アンケートをすればいいんですか?」
「そうだね。僕が質問するから答えてもらえるかな?」
「はい」
毎日の利用時間に始まり、人数、利用目的、満足・不満な点を事細かく尋ね、返答を書類に写した。最後の欄が埋まった時にはアンケートを始めてから一時間も経っていた。
「紅茶のおかわりはどうですか?それとも別の飲み物が宜しいでしょうか?」
「コーヒーあるかな?インスタントでもいいんだけど」
「はい。すぐ用意しますね」
数分後、豊かな香味を立ち昇らせたカップが運ばれてきた。一口。
「良い豆だね。程良い苦みと香りがいい」
「この間先生が置いて行ったんです。私は紅茶の方が好きなので偶にしか」
「勿体無い。結構高いよこの豆」そう言って一気に啜った。