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清は不思議な子だった。
学校に来てもいつも静かに窓の外を見ている。
そのくせ口を開けばマシンガンの様に言葉が飛び出し、教師ですらその場から逃げ出す。
彼は昔から孤独を好んだが、気まぐれに他人に接触する。
……時には微笑みを浮かべ、時には苦虫を噛み潰した様な顔で。
私は彼と幼稚園からの付き合いだが、その本質は全く理解出来ない。
時折そのミステリアスな一面に惹かれる事もあるが、友人が彼に御執心なので無視している。
人生史上、最も大切な友人だ。
私がその『友人』と親しくなったきっかけも、直接的ではないにしろ、やはり彼の所為と言って良かった。
「家に来ない? パジャマパーティー!」
髪の長い、円な目をした女の子が私に言ってきた。
いつも数人の女子と雑誌を見たりしながらお喋りをして、楽しそうな笑い声を教室に響かせている。
……はっきりと言って、私のスタンスとは対極にいる。
現に彼女が私にそう切り出した時に、取り巻きの連中は怪訝な顔で私を見ていた。
「あの子達は行くの? どうも私に御不満のようだけど?」
少し意地悪く微笑んで言った。
因みに私も、彼女自身には興味を持っていたが、その周りの子は嫌いだった。
すると彼女は少し頬を紅くして、
「清君って、どんな人なの?」
私に、小声でそう尋ねてきた、目は期待に満ちて輝いていた。
そういう事か、と内心私は楽しくて仕方がなかった、この女はあの取り巻きを捨ててでも彼の情報が欲しいのだ。
私と表面上だけでも仲良くする以上、あの取り巻きとは一緒にいられない。
……いられては困る。
今まであの下品な連中が、どれ程私を罵り、嘲り、愚にもつかない噂を流してくれた事か。
「そのパーティーは二人きりってわけね」
私の微笑みに、彼女はにっこりとした笑顔で応えた。
初めて彼女の部屋に案内された時、私はかなり驚いたものだ。
「どうかした?」
固まっている私を、彼女は振り返り見つめて来た。
「すごい部屋、全然予想と違ったから驚いたわ」
まず、壁が本棚で見えない、窓をさけるようにして、部屋の四方が本で埋まっている。
次に、机と椅子にはキャスターがついていてクルクルと部屋中を自由に移動出来る仕掛けになっており、その机上には鏡と沢山の小瓶が並んでいる。
……机を動かしたら倒れるのじゃないだろうか、私はそう思い注意深くそれを見つめた。
「なるほど、少し机に凹みがあるんだ」
私はその仕組みに気が付いた時に思わず声をあげてしまった。
「あっ、鏡の事? 瓶も同じ仕組みになってるんだよ」
私はその部屋の機能性に感服し、彼女は些細な質問にも嫌な顔一つせずに応えてくれた。
「君は不思議な子だ、世間は君を少女趣味でぬいぐるみに囲まれた生活をしていると思っている」
ベッドに横になって、彼女をみながらそう言った。
「そうね、その方が生きていく上で楽だもの」
彼女の瞳に、いつもの彼女にはない類の輝きが宿る。
「互いに同類と言うわけか」
私達は似たものどうしだった。
ただ、世間からの認知のされかたが全く逆だった。
私は小学校や中学校、はたまた幼稚園のアルバムまでを彼女に貸した。
私の知らない事や、気付かない様な事でも、きっと彼女なら探し出すだろう。
あいつの何が良いのか私には分からないが、とりあえず高ニの夏で受験まで後一年だった。






