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始まりの終わりと終わりの始まり

 中央広場には処刑を見ようと群衆が集まってきた。シェルイを買い取った奴隷商人も彼を連れたままその群衆に混ざった。

 ウィアナは刑務官に拘束されて引き出された。彼女の体は地下で痛めつけられ、右手と左目がなくなっていた。

「ウィアナ!」

 ウィアナの右目がシェルイを捉えた。彼女は微笑んだ。

「シェルイ、貴方に私の夢を託すわ。たった一つ、貴方だけに話した夢よ。貴方だけが知ってる。きっとみんな私のことを忘れてしまう。でも貴方だけは私を、私の夢を忘れないで」

 シェルイは商人の手を振りきってウィアナの方へ走り出した。止めようとする衛兵の頭を蹴り飛ばし、彼女の元まで辿り着く。だが抱きしめることはできなかった。シェルイの手には枷がはめられていたから。ウィアナには腕がなかったから。

「シェルイ、貴方は大空を駆る大鳥。いつかきっと辿り着く。その時まで諦めないで。そして大切な誰かのために…精一杯走りなさい」

 衛兵が槍でシェルイを押さえつける。

 ウィアナは断頭台まで連行された。執行人が曲刀を構えた。

「待ってくれ。やめろ。頼む。代わりに俺を斬ってくれ。俺ならどうなってもいいからその人だけは助けてくれ! お願いだ! 俺を殺せ!」

 少年は喚いた。冷たく残酷な刃が振り下ろされる。ウィアナは最後にシェルイに優しく微笑んだ。

「どうか幸運を。愛してるわ」

 首が落ちた。瞬間、彼の時間が止まった。世界が凍り付く。ウィアナの首が胴体から離れて落下していく様子がゆっくりと見えた。

その首が転がってシェルイの前で止まった。シェルイはしばらく現実を理解できず硬直していた。広がる鮮血の赤が彼を現実に呼び戻す。喉の奥から声にならない声をあげ、震える手でその首に手を伸ばす。しかし衛兵が彼女の首を踏みつけ、何度も槍で突き刺した。唾を吐きつけ、小便をかける。彼女の首は原型を留めていなかった。

「あああああああああ!」

 少年は破壊され、汚された彼女の頭部に涙を零した。柔らかくて温かな日差しの臭いがした彼女の髪は今や尿と血の匂いしかしない。絹のように透き通る彼女の白肌と髪は泥で黒ずんでいる。

 少年は泣いた。

「魔女は死んだ! 魔女は死んだ! 神に背く愚かで卑劣な魔女は首を斬られて死んだ!」

「万歳! 万歳! 神に栄光あれ! 異教徒に死を!」

住民たちは魔女の処刑に歓喜の声をあげてシェルイに石を投げた。

 彼は群衆を睨んで叫んだ。

「覚えてろ! いつかお前らの神を踏みつけて地面を舐めさせてやる。十年、二十年かかっても俺はお前らを皆殺しにする。お前らとお前らの神を地獄の底に叩き落してやる!」

 彼は気を失うほどの暴行を受けた後、鉱山経営者に売り渡された。彼は毎日鉱山に潜っての重労働に従事することを強いられた。

 シェルイはそこで復讐を誓った。

「壊してやる。ヤルダバオート。全能の神を殺してやる。お前の国を跡形もなく焼き尽くしてやる!」

そこには十人の奴隷がいた。皆、シェルイと同じか年下くらいの年齢だ。彼らは痩せ細り、今にも死んでしまいそうな健康状態だった。食事は最低限しか与えられなかった。寝床は腐りかけた木の床。衛生環境は最悪で病気や栄養失調で仲間たちは次々と死んでいった。彼の後に新しく投入された奴隷たちも事故や病気、自殺等で減っていく。

 シェルイが買われて一年経った頃には彼以外に六人しか残っていなかった。しかしその頃にはシェルイは主人や監視員の信頼を勝ち取り、多くの仕事を任されるようになっていた。いつか来る脱走の時のために憎悪を抑えた。シェルイは同年代の奴隷のティンとディアナと共に脱走計画を練った。

それが実を結んだ。シェルイは料理を任され、台所に立っていた。

「おい、今日は良い肉が入ったんだ。間違っても焦がすんじゃねえぞ!」

「はい! お任せください!」

 少年は人の好い明朗な笑みを浮かべて調理に勤しんだ。しかしその笑顔の下には黒く濁った殺意が荒れ狂っていた。シェルイは彼らのために作ったスープにディアナが集めた毒草を混入させた。

「できましたよ」

 シェルイとディアナは黒パンやスープ、豆料理を監視員たちが待つテーブルに並べた。監視員たちはすぐに食事を始めた。硬いパンをスープにつけてふやかして食べる。一口食べればもう十分だ。男たちはすぐに苦しみだした。二人はかねてから用意していた家畜の骨を尖らせた武器を食器棚の裏から取り出すと監視員の首に突き刺した。大した物音もなく始末できた。主人たちの家族は上の階にいる。主人は街に出かけているので残っているのは主人の妻だけだ。

「俺がこの家を片付ける。ディアナは小屋から子供たちを連れてティンと合流してくれ」

「わかった」

 ディアナは走り去った。ティンは見張りを倒して馬車を手配するのが役目だ。彼はシェルイよりも背が高く、力が強い。まだ大人とは言えない年齢だが大人と戦っても負けはしない。シェルイは階段を駆け上がった。シェルイら奴隷が監視なく二階に上がることは禁止されている。階段を上ってきたシェルイを見て主人の妻イティアナは驚愕した。しかし次の瞬間、彼のナイフが彼女の心臓を穿った。イティアナの体は床に倒れ、永遠に活動を停止した。シェルイは彼女の服を剥ぎ取り、手枷の鍵と食料、金や金になる物を集めて馬車に乗せ、屋敷に火を放った。


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