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東の国の王

 一か月後、東方の各国は大国ベノン王イクリシュを盟主とした多国籍連合体を結成した。東方連合諸国と称し、政治的・軍事的・経済的な統一を目指した。盟主イクリシュは東方諸国だけでなくウィルヘルミナ王国やネテア王国、南方諸国にも共同して帝国の脅威に立ち向かうように求めた。また、全国家の首脳が一堂に会し、平和と発展のために協議しようと持ち掛けた。

「それどこでやるの?」

 シェルイはイクリシュの使者に問うた。

「東方諸国連合本部にしてベノン国王都であるランドゥイでの開催を予定しております」

 ベノン王国は東方諸国の中でも東の方にある。そこへ行くとなるとかなり長い間、ウィルヘルミナ王国を離れることになる。帝国という油断ならない敵がいるというのに国を長期間離れることはできない。

「遠い! ここは対帝国の最前線! 何で国を離れて世界の東端に行く必要がある。お前たちがここに来い。来ないなら話は終わりだ」

 使者を下がらせ、シェルイは傍らに立つディアナと意見を交わした。

「イクリシュ王はかなりの野心家かもしれないね。帝国への備えや利便性を考えたら主要街道が走ってて各国からのアクセスもいいこの国で開くべきだよ。でも敢えて各国首脳が集う会議を自分の本拠地で行おうとしてる。主導権を握るつもりじゃないかな」

「迷惑な話だな。これから獅子を殺さにゃならんのに牧羊犬の悪巧みに付き合わされるのか」

 青年は頭を掻いた。草原の統一は進んでいる。しかし戦力の温存のために可能な限り交渉での統一を行っているので効率はあまり良くない。帝国を倒すためにやらねばならないことは山積みだというのにこれ以上の面倒が増えるのは不愉快である。

 結局、各国首脳による会議、通称「東方世界平和会議」はウィルヘルミナ王国首都ザーラで行われることになった。各国の王や王族、宰相たちがザーラに集まった。各国は数千の軍を派遣し、ザーラは緊張状態に包まれた。

 シェルイがこの会談のために建てさせた急造りのそれなりに立派な建物で会議は行われる。一応、元々、ザーラには旧連合王国時代に建てられた木造建築物があるのだが政庁としての役割しか持たず、各国から来る王侯貴族をもてなすにはあまりに質素だったので予算を投入して建てさせたのだ。遊牧民の技術では豪奢な宮廷を建てることはできなかったが仕方ない。

 他国の王と話すのは初めてのことだ。ニコラウス王とも会ったことがない。舐められては余計な災いを持ち込む。シェルイは気合を入れ直した。

「初めましてシェルイ王」

 会議室に向かおうとしていたシェルイに一人の男が声をかけた。灰色の髪で背丈はシェルイよりも高く、細身だがしっかりとした筋肉に包まれている。かなりの武勇を誇る人物であることが見て取れる。男は人の好い柔らかな笑みを浮かべていた。

「ベノン王イクリシュだ。呼びかけに応じてくれたことに心から感謝する」

「初めまして。遠路遥々よく来てくれた。帝国の脅威が完全にないと言い切れないので国を離れるわけにもいかず無理を言ってしまった」

 シェルイは相手の人柄を探るべく会話に応じることにした。ベノン王に対して良い印象を持っていなかったがぞんざいに扱っては国の品を損なう。

「良い都市だ。良い草原だ。良い人々だ。来て良かった」

 イクリシュは笑った。

 二人は会議室に入った。中には三十二か国の代表者が集っていた。彼らは大きな円卓を囲んで座っている。代表者の背後には護衛と補佐官が立っている。シェルイとイクリシュは席についた。シェルイの後ろにはヘルとヴェレンが立つ。イクリシュの後ろには二人の男が立つ。

 イクリシュが立ち上がる。

「急な呼びかけであったが応じてこの地に集まってくれたこと感謝する。同時に各国の平和と成長を求め、帝国の暴虐を撥ね退けるために協力していきたいと思う」

 帝国の脅威はこの場にいる誰にとっても他人事ではない。皆、各々で戦ってはいずれ滅びることを悟っていた。とはいえどの国もこの会議で主導権を握り、自国に都合の良い方向に運ぼうと考えている。口にはしなくとも表情が雄弁に語っている。

「まずは各国の戦闘行動の停止が先決だ。争いが続いていては相互の協力は不可能だ」

 ウィルヘルミナ王国は帝国以外の国家と戦争状態になく、小さな草原の諸部族との抗争が発生しているくらいだ。南方諸国はそれぞれ国同士で争っているし東方諸国のうち数か国が南方諸国の一部と戦争をしている。

 イクリシュは上手く各国の首脳を説得し、休戦協定を結ばせ戦争状態の終息を約束させた。そこで手を挙げたのはネテア王国のニコラウス王だ。

「我が国はどこの国家とも戦争を行ってはいないがウィルヘルミナ王国に支払う戦争賠償金と穀倉地帯の失陥により厳しい財政状態にある。そこでシェルイ王にお頼みしたい。賠償金の支払いを免除していただけぬか」

 あまりにも恥知らずな要求にシェルイは目を細めた。

「諸侯たちは講和会議の際に結んだ条約に不満を持っている。このままでは内乱が起きかねない」

「そんなこと俺が知るか。先に攻めてきたのはお前たちだ。あのまま侵略を続けて国土全域を焼き尽くしても良かったんだ」

 ウィルヘルミナ軍は広大なネテア王国領の南部の一部を占領したに過ぎない。しかし軍総司令官は捕虜になり、残った軍は烏合の衆だ。一挙に国土全域に攻め込んで王国を滅ぼすことも不可能ではなかった。

「しかし…」

「俺が即位した時、あんたに同盟を結ぶ使者を送ったはずだ。あんたはそれに同意した。それを反故にして攻め込んできたくせに負けて金を払わされたら文句を言うのか。戦争をしたいなら付き合ってやる。今度は和解はなしだ。お前たちが滅ぶまでやるぞ」

 シェルイの声に怒りが滲んでいる。両王国は帝国領に隣接しているため国交を結び、協力して帝国に立ち向かうべきだと考えたシェルイはネテアに同盟を持ち掛けた。ネテアはそれを承諾し、国交が開かれたが一か月と経たずに同盟を破棄してウィルヘルミナ王国に侵略を開始した。

 二人の間に割り込んできたのはイクリシュだった。

「落ち着いてほしいシェルイ王。今は帝国に立ち向かうため我々は一丸とならねばならない。ここは過去の遺恨を水に流すべきじゃないか?」

「ネテアは信用できない。同盟国に攻め込む帝国以上の畜生だ。多額の賠償金は軍事行動の抑制でもある」

 シェルイは机を叩いて答えた。彼はネテアが支払いに対して誠意を見せればそれなりの対応を用意していた。この場でも賠償金について触れると予想していたが賠償金の減額ではなく免除を求めてきた。

「賠償金を免除してほしいならネテア王国はウィルヘルミナの属領に降れ。その場合、ニコラウス王には退位してもらうし諸侯制も廃止する。こちらが派遣する総督に管轄統治させる」

「あまりに無体ではないか!」

 ニコラウス王は髭を震わせて叫んだ。

「お前たち盗賊の理屈で語るなよ。ウィルヘルミナ王国は信義をもって立つ国だ!」

 しかし各国の王たちは賠償金の免除に賛同し、反対したのはウィルヘルミナ王国のみであった。

 侍従として控えていたヴェレンは怒りに任せて行動するシェルイを止めようとしたができなかった。血気盛んで激情に逸るところがあるこの若獅子を止めることは誰にもできない。

 交渉は決裂し、各国の代表は帰っていった。得られるもののない会議であった。元から茶番でしかないと思っていたが想像以上の時間の浪費であった。

 またネテア王国や東方諸国連合は秘密裏に戦争の準備を始めた。ウィルヘルミナ王国もその気配を察知して兵を招集する。

 一か月の後に東方諸国連合とネテア王国は軍を起こし、ウィルヘルミナ王国に対し宣戦布告した。


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