大樹
わしは大樹じゃ。
この町にずっと昔から生えている大樹。いつまでも若々しくのびのびとしておる大樹、それがわしなのじゃ。
わしはひたすらこの町のことを見てきた。
そんなわしはどんなことにもめげずに立ち続け、伸び続け、大きくなり続けた。
だからこそ、この町でも愛されるような大樹になったのじゃ。
だから今日もわしの前には沢山の人たちが集まり、わしを慕う者たちが何かの儀式をするのじゃろう。
だからわしは今日も楽しく見守るのじゃ。
さて、今日は何が始まるのじゃろうか。
***
「この野蛮な木は切らねばならない!!」
なんと?
すまん。わしは大樹。老木なのじゃ。耳の聞こえも悪い。
今なにか、わしを切るなどという妄言が聞こえてきた気がするのじゃが、空耳じゃろうな。ああ驚いた。
「そうだ! 切れ! 悪魔の木を切れ!」
何? 何を叫ぶんじゃそこの男。というか他の者達も賛同するんじゃない、ふざけた意見じゃろうが!
おおお?
わしは大樹。この町に昔から育つ木。皆から敬われる木。
なのにこのわしを切る?
何を言っているのじゃ、この者達は。信じられん。
今度は女性か。何かを言い始める気じゃ? ああ、彼女はどこかで見たことがあるようなきがするのう。誰じゃったか。
「この木! 喋ったんです!」
おお、驚いた。そんな叫び声上げるんじゃない、まったく。びくっとしたじゃろうが。
「喋っただと!?」
「そうなんです! 夜、私がこの木の傍で座っていたら、声が聞こえたんです。『こんな夜更けになにをやっているのじゃ、寝なさい』って。私、誰もいないものだと思ってたから驚いちゃって、よく聞いていると、この木が喋ったんです!」
「なんと! 本当に悪魔の木だ!」
「恐ろしい! そんな木は切ってしまうべきだ!」
「そうだそうだ!」
ちょっと待つのじゃ待つのじゃ。いやいやいや。確かにしゃべってしまったのは事実じゃ。
だけどな、ちょっと待つのじゃ。このわしにも意見がある。
木の意見をちゃんと聞かずに切るのを決定するなど、何という愚かな者達じゃ。
私はな、この女性が夜の寒い中、酔っぱらって外に出て寝ようとするから声を掛けただけじゃ。
このまま外に追ったらきっと寒さで凍死して居ったぞまったく。
とはいえ、そんなわしの思いには誰も気づきそうもないのう。
手にのこぎりだの斧だのを持っている始末。
……仕方ないのう。
『おぬしら!!!!!!!』
「!!」
全員の背中がびくりと跳ねる。その目はわしの方を見ていた。
『わしを切ろうなどとなんと罰当たりな者共よ。そのようなことをすれば、この地に禍をもたらすじゃろう。……分かったな?』
わしが精一杯の熱量で脅してやると、皆おどおどし始める。わかりやすい奴らじゃなぁ。
『ほれ! 禍をもたらされたくなければ、沢山水や肥料をもってこい! そうすればこの地に豊穣をもたらすじゃろう』
「はいい!!!」
その場にいた者たちはそう言うと、直ぐにその場を離れていった。
その後、わしはご神木としてこの町で大切に扱われることになった。
よしよし。結局わしは切られずに済んだし、水も肥料もたくさんもらえるし、いいことばかりじゃな、わはははは。
***
その後しばらく後、今度はまた集団がやってきた。
またか、しつこいのぉ。
わしは心が広いからなぁ。おとなしく話を聞いてやろう。なにせこの町のご神木じゃからな。
そうしていると一人の若者が出てくる。
「なあご神木ーー。あんたにあげる水や肥料が多すぎて、畑にあげる分が無くなったんだわ。このままだとみんな死んじまう。だからやめてええか?」
なにいい? ふざけたこと言いおって、適当なことを言っておるんじゃなかろうな。
「今回ばかりは死活問題なんだわ。ダメだったら切る」
……これは本気の目じゃな。やばい。周りの者達も前より殺気立っとる。やばいのぉ。
『分かった分かった。わしもそこまでは望んでおらんからのう。好きにせい』
「ありがとうご神木! やっぱあんたは神様の木じゃ!」
そんなわけでわしの水や肥料は取り上げられたのじゃった。なんということを、これじゃただの大樹に逆戻りじゃ……。
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