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掌編

大樹

作者: 綴 詠士
掲載日:2025/12/25

 わしは大樹じゃ。


 この町にずっと昔から生えている大樹。いつまでも若々しくのびのびとしておる大樹、それがわしなのじゃ。

 

 わしはひたすらこの町のことを見てきた。

 

 そんなわしはどんなことにもめげずに立ち続け、伸び続け、大きくなり続けた。

 

 だからこそ、この町でも愛されるような大樹になったのじゃ。

 

 だから今日もわしの前には沢山の人たちが集まり、わしを慕う者たちが何かの儀式をするのじゃろう。

 

 だからわしは今日も楽しく見守るのじゃ。

 

 さて、今日は何が始まるのじゃろうか。


***


「この野蛮な木は切らねばならない!!」


 なんと?


 すまん。わしは大樹。老木なのじゃ。耳の聞こえも悪い。


 今なにか、わしを切るなどという妄言が聞こえてきた気がするのじゃが、空耳じゃろうな。ああ驚いた。


「そうだ! 切れ! 悪魔の木を切れ!」


 何? 何を叫ぶんじゃそこの男。というか他の者達も賛同するんじゃない、ふざけた意見じゃろうが!


 おおお?


 わしは大樹。この町に昔から育つ木。皆から敬われる木。


 なのにこのわしを切る?


 何を言っているのじゃ、この者達は。信じられん。


 今度は女性か。何かを言い始める気じゃ? ああ、彼女はどこかで見たことがあるようなきがするのう。誰じゃったか。


「この木! 喋ったんです!」


 おお、驚いた。そんな叫び声上げるんじゃない、まったく。びくっとしたじゃろうが。


「喋っただと!?」


「そうなんです! 夜、私がこの木の傍で座っていたら、声が聞こえたんです。『こんな夜更けになにをやっているのじゃ、寝なさい』って。私、誰もいないものだと思ってたから驚いちゃって、よく聞いていると、この木が喋ったんです!」


「なんと! 本当に悪魔の木だ!」


「恐ろしい! そんな木は切ってしまうべきだ!」


「そうだそうだ!」


 ちょっと待つのじゃ待つのじゃ。いやいやいや。確かにしゃべってしまったのは事実じゃ。


 だけどな、ちょっと待つのじゃ。このわしにも意見がある。


 木の意見をちゃんと聞かずに切るのを決定するなど、何という愚かな者達じゃ。


 私はな、この女性が夜の寒い中、酔っぱらって外に出て寝ようとするから声を掛けただけじゃ。


 このまま外に追ったらきっと寒さで凍死して居ったぞまったく。


 とはいえ、そんなわしの思いには誰も気づきそうもないのう。


 手にのこぎりだの斧だのを持っている始末。


 ……仕方ないのう。


『おぬしら!!!!!!!』


「!!」


 全員の背中がびくりと跳ねる。その目はわしの方を見ていた。


『わしを切ろうなどとなんと罰当たりな者共よ。そのようなことをすれば、この地に禍をもたらすじゃろう。……分かったな?』


 わしが精一杯の熱量で脅してやると、皆おどおどし始める。わかりやすい奴らじゃなぁ。


『ほれ! 禍をもたらされたくなければ、沢山水や肥料をもってこい! そうすればこの地に豊穣をもたらすじゃろう』


「はいい!!!」

 

 その場にいた者たちはそう言うと、直ぐにその場を離れていった。


 その後、わしはご神木としてこの町で大切に扱われることになった。

 

 よしよし。結局わしは切られずに済んだし、水も肥料もたくさんもらえるし、いいことばかりじゃな、わはははは。


 ***

 

 その後しばらく後、今度はまた集団がやってきた。


 またか、しつこいのぉ。


 わしは心が広いからなぁ。おとなしく話を聞いてやろう。なにせこの町のご神木じゃからな。


 そうしていると一人の若者が出てくる。


「なあご神木ーー。あんたにあげる水や肥料が多すぎて、畑にあげる分が無くなったんだわ。このままだとみんな死んじまう。だからやめてええか?」


 なにいい? ふざけたこと言いおって、適当なことを言っておるんじゃなかろうな。


「今回ばかりは死活問題なんだわ。ダメだったら切る」


 ……これは本気の目じゃな。やばい。周りの者達も前より殺気立っとる。やばいのぉ。


『分かった分かった。わしもそこまでは望んでおらんからのう。好きにせい』


「ありがとうご神木! やっぱあんたは神様の木じゃ!」


 そんなわけでわしの水や肥料は取り上げられたのじゃった。なんということを、これじゃただの大樹に逆戻りじゃ……。




 

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