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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『「先生、やる気ないなら辞めてください」と生徒に言われた元勇者(最強)、魔法学園のFランククラスを担当する ~魔王を倒した俺が本気を出したら、校舎ごと吹き飛ぶけどいい?~』

作者: ナオムン

最強 × 無気力 × 学園モノ 銀髪の侍っぽい(本人は黒髪)、糖分好きな先生が暴れます。

【プロローグ:英雄の隠居生活(失敗)】

 世界を救うってのは、もっとこう、割のいい仕事だと思っていた。  富と名声、美女に囲まれたウハウハな生活。  魔王を倒した後には、そんなゴールデンな老後が待っていると信じていたのだ。


 だというのに。


「……ふわぁ。ねみぃ」


 俺、アレン・ウォーカー(28歳)は、教卓に突っ伏して大あくびをかましていた。  目の前には黒板。チョークの粉の匂い。  そして、冷ややかな視線を向けてくる30人の生徒たち。


 ここは王立魔法学園。  俺はなぜか、ここの教師をやっている。


「……おい、アレン。起きろ」 「あ? 誰がアレンだ。先生と呼びなさい、先生と。もしくは『糖分王』でもいいぞ」 「寝言は寝て言ってください! 授業中です!」


 バンッ!!  教卓を教科書で叩く音が響く。  俺は死んだ魚のような目をこすりながら、視線を上げた。


 目の前で仁王立ちしているのは、このクラスの委員長、リナだ。  栗色の髪を二つに結び、丸メガネをかけた真面目そうな少女だが、今は鬼のような形相をしている。


「1限目の『魔法理論』の時間ですよ! なんで先生が一番最初に寝てるんですか!」 「いやぁリナちゃん、春眠暁を覚えずって言うだろ? 今日の陽気は魔王軍より手強いんだよ。俺のMPはもうゼロよ」 「まだ朝の9時です! MP満タンで来てください!」


 教室中から呆れたような溜息が漏れる。  ここは1年Fクラス。  通称『落ちこぼれ(ファンブル)』クラス。  魔力値が低い、実技が下手、あるいは素行不良など、学園の掃き溜めのような場所だ。


 そして俺は、そんな彼らの担任として、学園長(かつての旅の仲間である大賢者ババア)に無理やり送り込まれたのだった。


「はぁ……。先生、みんな不安がってるんです。来週は『全学年合同・野外演習』があるんですよ? AクラスやBクラスに負けないように、特訓してくれないと……」


 リナが訴える。  他の生徒たちも、不安と諦めが入り混じった顔をしている。


「特訓ねぇ……」


 俺は小指で耳をほじりながら、気のない声を出した。  6年前に魔王をソロで倒した「元勇者」の俺からすれば、魔法なんてものは「気合」と「根性」だ。理論なんてあってないようなものである。


「お前らさぁ、教科書なんて読んで強くなれると思ってんの? 魔法ってのはこう、丹田にグッと力を入れて、毛穴からブワッと魔力を出して、ドカンと撃てばいいんだよ。イメージとしては、イチゴ牛乳を一気飲みした時の『クーッ!』ってくる感じ?」


「……感覚派すぎて参考になりません」 「ていうか、先生が魔法使ってるとこ見たことないし」 「どうせ魔力少ないコネ入社だろ」


 生徒たちがヒソヒソと陰口を叩く。  まあ、そう思わせておけばいい。  俺が本気で魔法を使えば、この校舎どころか王都の区画が一つ消し飛ぶ。  一般人に紛れて平穏に暮らすには、「無能なダメ教師」を演じているくらいが丁度いいのだ。


「はいはい、雑談終了。今日の授業は『精神統一』だ。要するに自習な。俺は夢の中で魔王と戦ってくるから、起こすなよ」


 俺は再び机に突っ伏した。  教室に響く失望の声。  だが、俺は知っている。  このFクラスの連中が、決して「無能」なんかじゃないことを。  あいつは魔力制御は下手だが出力はデカいし、こいつは身体強化のセンスがある。  教科書の枠に収まらないだけの原石たちだ。


(ま、俺が手取り足取り教えるまでもないだろ。子供は勝手に育つもんだ)


 そんな適当な教育論を枕に、俺は二度寝の海へと沈んでいった。


【第1章:エリートの嘲笑】

 昼休み。  俺は学食で「大盛りパフェ(いちご増量)」を突っついていた。  給料の半分は甘味に消える。これぞ大人の贅沢だ。


「あらあら、Fクラスのアレン先生ではありませんか。相変わらず優雅なご身分ですこと」


 背後から、ネチッとした嫌な声が掛かった。  振り返らなくても分かる。  Aクラス担任、キザでエリート志向のガイル先生だ。  銀縁メガネを光らせ、いかにも「私は優秀です」というオーラを出しているが、中身は生徒を見下す選民思想の塊である。


「おやガイル先生。あんたもパフェか? 糖分取らないと脳みそ腐るぞ」 「愚弄しないでいただきたい。私は貴方とは違う」


 ガイルは俺の向かいに座り、フンと鼻を鳴らした。


「来週の野外演習……Fクラスの生徒たちには『辞退』をお勧めしますよ」 「あん? なんで?」 「危険だからです。今回の演習地は『迷わずの森』。低ランクとはいえ、魔物が出ます。貴方のような無気力教師に育てられた落ちこぼれ達では、魔物の餌になるのがオチでしょう」


 ガイルの後ろには、取り巻きのAクラスの生徒たちがいて、ニヤニヤと笑っている。


「そうですね。Fクラスなんて魔法の一つも撃てないクズばかりだし」 「足手まといなんですよ。同じ空気吸うのも恥ずかしい」


 ……なるほど。  教師が教師なら、生徒も生徒か。  俺はパフェの最後の一口を飲み込み、スプーンを置いた。


「ま、ウチの生徒が魔物の餌になるかどうかは、やってみないと分からねぇよ。意外と、Aクラスの優等生ちゃんよりサバイバル能力高いかもしれねぇしな」


「ハッ! 負け惜しみを。……まあいいでしょう。演習当日、恥をかく準備をしておくことですね」


 ガイルたちは高笑いしながら去っていった。  俺は残された空のグラスを見つめ、ボリボリと頭をかいた。


「……たく、めんどくせぇ。あーあ、どっかから隕石でも落ちてきて、演習中止になんねぇかなぁ」


 そんなことを呟きつつも、俺の目は笑っていなかった。  俺の生徒をバカにするのは構わんが、その「慢心」がいずれ命取りになるってことを、エリート様は分かってないらしい。


 ――そして、運命の演習日がやってきた。


【第2章:遠足気分と嫌な予感】

 王都から馬車で数時間。  演習地『迷わずの森』の入り口には、全1年生150名が集結していた。


 快晴。絶好のダンジョン日和だ。  生徒たちは遠足気分で浮かれているが、Fクラスの空気だけが重い。


「……Aクラスの奴ら、めっちゃこっち見て笑ってるし」 「どうせ俺らは雑用係だよ……」


 リナたちFクラスの面々は、入り口付近での「薬草採取」と「テント設営」を命じられていた。  一方、AクラスやBクラスは、森の奥での「魔物討伐実習」だ。  完全なる差別。


「先生ぇ、俺たちも奥に行きたいっすよ」 「そうだそうだ! 私たちだって戦えます!」


 血気盛んな男子生徒が俺に詰め寄る。  俺はあくびを噛み殺しながら、木の幹に寄りかかった。


「バッカお前ら、ラッキーだと思えよ。奥に行ったら服汚れるし、汗かくし、危ないだろ? こっちは日陰で涼みながら、薬草摘んで昼寝。最高じゃねぇか」 「先生! 教師としてのプライドはないんですか!」 「プライドで腹は膨れねぇよ。ほら、リナ。その辺の草でもむしっとけ」


「むーっ!!」


 リナが頬を膨らませて怒る。  だが、俺の意識は別のところに向いていた。


 (……なんだ、この臭いは?)


 風に乗って、微かに漂ってくる鉄錆のような臭い。  そして、肌をチリチリと刺すような、不快な魔力の残滓。  この『迷わずの森』は、浅層にはゴブリンやスライム程度の雑魚しかいない安全なダンジョンのはずだ。  だというのに、このプレッシャーはなんだ?


 俺の「勇者としての勘」が、警鐘を鳴らしていた。  これは、マズいかもしれない。


「おい、ガイル先生」


 俺はAクラスを引き連れて森の奥へ行こうとするガイルに声をかけた。


「なんです? 今更、仲間に入れてくれとでも?」 「いや。……今日は奥に行くのはやめとけ。空気が悪い。なんか『ヤバいもん』がいる気がする」


 俺は珍しく真面目なトーンで忠告した。  だが、ガイルは鼻で笑った。


「ハッ! 臆病風に吹かれましたか? ヤバいもの? せいぜいオークの変異種でしょう。私のクラスの精鋭たちなら、赤子の手をひねるようなものです」 「……後悔するぞ」 「貴方の指図は受けません。行くぞ、Aクラス!」


 ガイルたちは忠告を無視し、森の深部へと消えていった。


「……はぁ。死に急ぎ野郎が」


 俺は溜息をつき、腰に差していた木刀**『筑波山』**の位置を直した。


「リナ。悪いが、今日は薬草採取は中止だ」 「え? どうしたんですか、急に」 「……遠足は終わりだ。ここからは『課外授業』に変更する」


 俺の目が、死んだ魚から、獲物を狙う肉食獣のそれに変わったのを、生徒たちはまだ気づいていなかった。


 その直後。  森の奥から、空気を震わせるような絶叫と、爆音が響き渡った。


 グオオオオオオオオオオオッ!!!!


 鳥たちが一斉に飛び立つ。  大地が揺れる。  ただの魔物の咆哮ではない。これは――「ドラゴン」の咆哮だ。


【第3章:エリートの崩壊】

 森の奥から響いた咆哮。  それは、演習の空気を一瞬で凍りつかせた。


 ズシン、ズシン……。  地響きと共に木々がなぎ倒され、巨大な影が姿を現した。  全長20メートル。全身が鋼鉄のような赤黒い鱗に覆われた、陸戦の覇者。  『エンシェント・レッドドラゴン』だ。  討伐推奨レベルは100以上。国家認定のSランク災害である。


「ひ、ひぃぃぃっ!?」


 最前線にいたAクラスの生徒たちが、腰を抜かして悲鳴を上げた。  彼らは優秀だ。だが、それはあくまで「教科書の上」での話。  本物の殺気、本物の「死」を前にして、彼らの足は震え、詠唱すらままならない。


「な、なんだあれは……! ありえない! こんな浅層に、なぜ古代竜が!?」


 引率のガイル教師が、青ざめた顔で後ずさる。  彼の眼鏡はズレ、いつもの冷静さは微塵もない。


「先生! た、戦ってください! 先生は元宮廷魔術師でしょう!?」 「そ、そうだ! 先生なら勝てるはずだ!」


 Aクラスの生徒たちがガイルにすがる。  だが、ガイルは生徒たちを突き飛ばした。


「ば、バカを言うな! あんな化け物に勝てるわけがないだろう! 私の専門は理論だ! 実戦など……っ!」


 ガイルは踵を返した。


「に、逃げるぞ! 全員退避だ!」 「え? でも、足の遅い女子が……」 「知ったことか! 自分の命は自分で守れ! 私は救援を呼んでくる!」


 言うが早いか、ガイルは風魔法『ヘイスト』を自分にだけかけ、生徒を置き去りにして一目散に逃げ出した。


「せ、先生ぇぇぇ!?」 「うそでしょ!?」


 見捨てられたAクラスの生徒たちはパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。  だが、ドラゴンは獲物を逃さない。  ギョロリとした金色の瞳が、逃げ遅れた女子生徒を捉えた。


 グオォォォッ!


 ドラゴンが大きく息を吸い込む。  ブレスだ。


「いやぁぁぁ! 来ないでぇぇ!」


 女子生徒が涙を流してうずくまる。  誰の目にも、彼女が炭化する未来が見えた。


 ――その時。


「『アース・ウォール(土壁)』!!」


 ドゴォォン!!  女子生徒の目の前に、巨大な土の壁が隆起した。  ドラゴンの炎が直撃し、壁は一瞬で赤熱して崩れ去ったが、直撃だけは防いだ。


「へ……?」


 呆然とする女子生徒の腕を、誰かが強引に引いた。


「立て! 逃げるぞ!」 「走って! 死ぬ気で走って!」


 そこにいたのは、泥だらけになったFクラスの生徒たち――リナや、その仲間たちだった。


【第4章:落ちこぼれ(ファンブル)の意地】

「な、なんで……? Fクラスのあんたたちが……」 「無駄口を叩いている暇があったら足を動かして! エリート様なんでしょ!」


 リナが叫ぶ。  Fクラスの連中は、入り口での待機命令を無視して、Aクラスの救援に駆けつけたのだ。  彼らは魔力こそ低いが、普段からアレン(俺)に「理不尽な雑用」や「校庭100週ランニング」をさせられているおかげで、足腰と根性だけは鍛えられていた。


「陣形を組んで! 盾持ちは前へ! 魔法組は牽制をお願い! 決して倒そうとしないで、時間を稼ぐの!」


 リナが指揮を執る。  Fクラスの男子生徒たちが、震える足を踏ん張って前に出る。


「うおおおおお! 雑魚だとなめるなよトカゲ野郎!」 「俺たちの粘り強さを見せてやる!」


 彼らは必死だった。  Aクラスを守るため? 違う。  ここで逃げたら、あの「やる気のない担任」に一生バカにされる気がしたからだ。  『ほら見ろ、やっぱりお前らは口だけか』と、あの死んだ魚のような目で笑われるのが、死ぬより嫌だったのだ。


「『ファイアボール』!」 「『ウィンドカッター』!」


 Fクラスの魔法がドラゴンに着弾する。  だが、ドラゴンの鱗には傷一つ付かない。蚊に刺された程度だ。


 グルルルル……。


 ドラゴンは鬱陶しそうに鼻を鳴らし、尻尾を薙ぎ払った。    ドガァァッ!!


「ぐああっ!?」 「きゃああっ!」


 前衛の男子たちが吹き飛ばされ、木々に激突する。  圧倒的な質量差。  精神論でどうにかなる相手ではない。


「くっ……まだ、まだよ……!」


 リナは杖を構え直す。だが、彼女の足もガクガクと震えていた。  魔力は空っぽ。仲間たちはボロボロ。  そして目の前には、無傷の絶望。


 ドラゴンが、今度こそ終わらせようと、喉の奥で極大の炎を練り始めた。  さっきの比ではない。この一帯を森ごと消し飛ばす気だ。


(あ、死ぬ……)


 リナは悟った。  走馬灯のように、家族の顔や、学園での日々が浮かぶ。  そして最後に浮かんだのは、いつも教卓で居眠りをしている、あの情けない担任の顔だった。


(先生……。最後に一発、あの寝癖頭を引っぱたいてやりたかったな……)


 彼女はギュッと目を閉じた。  灼熱の熱波が迫る。


 ――その時。


 ヒュンッ。


 どこからともなく飛んできた「何か」が、ドラゴンの鼻先にコツンと当たった。  それは、小さな石ころだった。


「……あ?」


 リナが目を開ける。  ドラゴンの気が逸れた。  そして、森の木陰から、気だるげな声が響いた。


「おーい、トカゲちゃん。食事中に悪いんだけどさぁ」


 カツ、カツ、カツ。  場違いに軽い足音と共に、一人の男が現れた。  ボサボサの黒髪。だらしない着こなしのシャツ。そして、この世の全てをどうでもいいと思っているような、気だるげな瞳。


 28歳、独身。  アレン・ウォーカーだった。


「せ、先生……!?」 「なんでここに……逃げてください! 死にますよ!」


 生徒たちが叫ぶ。  だが、アレンはあくびを噛み殺しながら、ポケットに手を突っ込んで歩いてくる。  その手には、通販で買った木刀**『筑波山』**が握られていた。


「いやぁ、お前らがうるさくて昼寝できねぇんだよ。……それに」


 アレンはチラリと、ボロボロになった生徒たちを見た。  恐怖に震えながらも、仲間を守ろうと立ち向かった彼らの姿を。  そして、生徒を見捨てて逃げたガイルが消えていった方向を一瞥し、フンと鼻を鳴らす。


「……合格だ、お前ら」


「え?」


「Aクラスの連中を守って、ここまで耐えた。上出来じゃねぇか。見直したぜ」


 アレンがニカッと笑った。  その笑顔は、いつもの「適当な笑み」ではなく、どこか頼もしさを感じさせるものだった。


「せ、先生……でも、ドラゴンが……!」


 リナの警告を遮るように、ドラゴンがアレンに向かって咆哮した。  雑魚が邪魔をするな、と。  ドラゴンは最大火力のブレスを、アレン一人に向けて放出した。


 ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!


 全てを灰にする紅蓮の炎。  生徒たちが絶叫する。


 だが、アレンは動かなかった。  魔法障壁も張らない。回避もしない。  ただ、面倒くさそうに左手をかざしただけだった。


「……あー、熱い熱い。今の時期、日焼けは禁物なんだよ」


 パチンッ。


 彼が指を鳴らした(デコピンした)瞬間。  ドォォォォォンッ!!  不可視の衝撃波が炸裂した。


 ドラゴンの極大ブレスが、まるでロウソクの火を吹き消すように、一瞬で霧散した。  それどころか、余波で森の木々が数百メートルにわたってなぎ倒され、雲が真っ二つに割れた。


「……は?」 「え……?」


 リナたちの目が点になる。  アレンは「ふぅ」と息を吐き、木刀『筑波山』を肩に担いだ。


「さて。課外授業の時間だ、クソガキども。よーく見とけよ」


 アレンの雰囲気が変わった。  死んだ魚のような目に、かつて世界を救った「英雄」の光が宿る。


「魔法ってのはな、こうやって使うんだよ」


 伝説の元勇者が、6年ぶりに本気を出す瞬間だった。


【第5章:勇者の授業参観】

 アレンが右手を軽く前に突き出した。  詠唱はない。  杖もない。  構えすら、散歩のついでに虫を払うような適当さだ。


「えーと、なんだっけ。教科書に載ってる一番最初のやつ。……ああ、そうそう」


 アレンがボソリと呟く。


「『初級魔法・ファイアボール』」


 その言葉と共に、彼の手のひらに小さな火の玉が生まれた。  生徒たちが授業で習う、ソフトボール大の火球だ。  ――はずだった。


 ゴウッ!!!!


 生まれた火種は、一瞬にして膨れ上がった。  1メートル、10メートル、50メートル。  それはもはや「火の玉」ではなかった。  地表に出現した、灼熱の「太陽」だった。


「へ?」 「な、なにこれ……?」


 リナたちが口をあんぐりと開けて見上げる。  巨大な熱量に、周囲の空気が歪み、地面がドロドロに溶け始める。  ドラゴンも、その圧倒的な魔力の塊を前にして、本能的な恐怖で後ずさった。  『逃げろ』と、最強生物としての勘が警鐘を鳴らしているのだ。


 だが、遅い。


「ほい」


 アレンが軽く腕を振った。  巨大な太陽が、音速を超えて射出された。


 ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!


 光と熱が世界を白く染めた。  爆音で鼓膜が麻痺する。  リナたちが慌てて伏せると、頭上を暴風が通り過ぎていった。


 やがて、土煙が晴れると。  そこには、何もなかった。  森の一部が地形ごとえぐり取られ、一直線に伸びるクレーターができているだけだ。  エンシェント・レッドドラゴンの姿は、鱗一枚残っていなかった。蒸発したのだ。


 静寂。  誰も言葉を発せない。  ただ、アレンだけが「あーあ、やりすぎた」と頭をかいている。


「力の加減って難しいな。……ま、教科書通りだろ?」


「どこがですかァァァァッ!!」


 リナが絶叫した。  生徒たちが一斉にアレンに詰め寄る。


「先生、何者!? 今の何魔法!?」 「初級魔法って言いましたよね!? 詐欺だ!」 「ドラゴン消えましたよ!? ワンパン!?」


 興奮する生徒たち。  アレンは面倒くさそうに耳を塞いだ。


「うっせーな。たまたま急所に当たっただけだって。運だよ、運」 「嘘おっしゃい! 運で地形が変わるもんですか!」


 リナはアレンを睨みつけたが、その瞳にはもう、以前のような軽蔑の色はなかった。  あるのは、深い尊敬と、信頼。  そして、少しの「憧れ」だった。


【エピローグ:最強のFクラス】

 その後、応援の騎士団とガイル先生が戻ってきた時、彼らは目を疑った。  ドラゴンは消滅し、無傷のFクラスの生徒たちが、アレンを囲んで談笑していたからだ。


「な、なんだこれは!? ドラゴンはどこへ行った!?」 「ああ、なんか腹壊してたみたいで、勝手に帰りましたよ」


 アレンは鼻をほじりながら適当な嘘をついた。  ガイルは狐につままれたような顔をしていたが、Fクラスの生徒たちはニヤニヤしながら口裏を合わせた。


「そうそう、なんか急に飛んでっちゃいましたよねー」 「先生の強運のおかげですねー」


 彼らは理解したのだ。  自分たちの担任が、とんでもない化け物であることを。  そして、この先生についていけば、何か面白いことが起きるということを。


「……先生」


 帰り道。リナがアレンの隣を歩きながら、小声で話しかけた。


「あの木刀、『筑波山』って彫ってありましたけど、ダサくないですか?」 「バッカお前、これがイキでいなせなんだよ。男のロマンだ」


 アレンは木刀を撫でながら笑った。


「次の授業、楽しみにしてますからね。……ちゃんと起きててくださいよ?」 「善処する」


 こうして、学園一の「落ちこぼれクラス」と「無気力教師」の評価は一変した。  後に、このFクラスからは宮廷魔術師や騎士団長など、数多くの英雄が輩出されることになるのだが、それはまた別の話。


 今はただ、帰りの馬車で爆睡するアレンの寝顔を、生徒たちが呆れながらも見守っていた。


続く・・・??

「先生強すぎ!」 「デコピンでドラゴン倒すとかw」


と少しでも思っていただけましたら、 【ブックマーク】や【評価(★)】をいただけると嬉しいです。 執筆の励みになります!

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