第2章・5節:ガルドの忠告
夜、厨房に戻るとガルドさんが腕を組んで待っていた。
「リアム、お前、ギルドで霧の塔の話を聞いたんだろ」
「えっ、なんでそれを?」
「この厨房にも、昔の知り合いがちょこちょこ来るんでな」
ガルドさんは深いため息をついた。
「霧鐘の響き……あれは、触れちゃいけない代物だ」
「知ってるんですか?」
「ああ。軍時代、北部特別任務で“霧の塔”に接触した部隊がいた。全員、魔力枯渇症状で撤退したが……数人は帰ってこなかった」
「何が起きたんです?」
「塔は魔力を吸収する装置だった。何のためにかは分からんが……あの霧は生きている」
魔力を吸収する霧の塔。
それが、霜糖晶の異常とどう関係しているのか——。
「わかってます。でも、仲間が関わってるんです。放っておけません」
「……冒険者の血は抜けねぇな」
ガルドさんは苦笑し、手を差し出した。
「せめてこれを持っていけ」
渡されたのは、小さな金属製の調味料入れだった。
「これは?」
「塩だ。ただし特製のな。霧の塔の霧は魔力の粒子で構成されている。
この〈聖塩〉をまけば、霧を一時的に払える」
「ありがとうございます、ガルドさん」
「無茶するなよ」
「ええ、料理人に無茶は禁物ですから」
霧に潜む鐘の音を追って、俺たちは山へ向かう準備を始めた。