第6章・4節:焔牛の確保と霜月霊脈の影響
■ 霜月林・焔牛の確保
森の奥深く——俺たちはついに焔牛の群れを発見した。
そこは小さな霊脈の交差点になっているらしく、周囲の木々がうっすらと蒼白く光っていた。
「……やっぱり、焔牛は霊脈の影響を受けてるっぽいな」
俺が呟くと、フィオナが耳をピクリと動かしながら鼻をひくつかせた。
「はい……でも、なんだか匂いがいつもと違います。普通の焔牛なら、もっと熱を帯びた香りがするんですけど……この焔牛たち、冷たい匂いが混ざってます」
「冷たい匂い?」
「ええ、まるで雪の中に埋もれたような——」
その時、焔牛の群れの中でひときわ大きな個体がゆっくりと顔を上げた。
全長は約4メートル。通常の焔牛よりも明らかに巨大で、その角は薄く青白く光っている。
「……あれが群れのボスか?」リアムが警戒しながら低く呟く。
「見ろ。あいつの角……通常の焔牛は赤く発光するはずだが、青くなってる」ガルドが目を細めた。
「霜月霊脈の影響を受けてるのかもしれないな」
レオンが慎重に言葉を選ぶ。
「焔牛は元々、火属性に適応した魔獣のはず。それが霊脈の影響で変異を起こしてる可能性がある……下手に刺激すれば暴走するかもしれんぞ」
俺たちはしばらくの間、焔牛たちの様子を観察した。
しかし、群れは争うでもなく、ただゆっくりと霊脈の周りを徘徊しているだけだった。
「妙だな……通常の焔牛ならもっと縄張り意識が強いはずなのに、群れ同士の喧嘩もない」
ガルドが腕を組む。
「なら、なるべく静かに近づいて、1〜2頭だけ確保できれば十分か?」
「ええ。でも慎重に動かないと……」
フィオナがそう言いかけた瞬間——
——カーン……カーン……
霧の奥から、金属が共鳴するような鐘の音が響いた。
「また……!」
その音を聞いた瞬間、ボス個体の焔牛が突然、頭を振り上げて咆哮した。
その体が一瞬、青白く輝く——。
「リアム!伏せろ!!」
ガルドの叫びと同時に、焔牛の角から青白い魔力の波動が走った。
地面が震え、周囲の草木が一瞬にして霜に覆われる。
「くっ……!」
「焔牛が……冷気を纏ってる?」
焔牛の体温が一気に下がり、周囲の空気を氷点下まで冷やしていく。
「やばい、あれはもはや通常の焔牛じゃねぇ……!」
その瞬間——
「フィオナ、群れの外側にまだ正常な焔牛はいるか?」
「……はい!奥の方に、少し小さい個体が!」
「よし……暴走する前に、そいつを確保するぞ!」
■ 焔牛の確保作戦
「できるだけ静かに動くぞ」
ガルドの合図で、俺たちは慎重に群れの端へと向かった。
ボス個体の焔牛が霊脈の光を受けながら咆哮する中、群れの外側で比較的大人しい焔牛が2頭、草を食んでいるのを発見した。
「焔牛って、普通に捕まえられるんですか?」フィオナが小声で尋ねる。
「いや、難しい。通常なら暴れるが……今回は、霊脈の影響で動きが鈍ってるみたいだ」
俺たちは慎重に焔牛に近づき、ガルドが持参した特製の《魔獣鎮静符》を地面に設置した。
「こいつを使えば、一定時間だけ魔力を抑えて動きを鈍くできる。発動するぞ」
ガルドが符を起動すると、符から淡い蒼い光が放たれ、ゆっくりと焔牛を包み込んだ。
すると、焔牛の動きが徐々に緩慢になり、大きく息をつくように動きが止まった。
「今だ!」
リアムとフィオナが手早く麻布を取り出し、焔牛の目を覆う。
視界を塞がれると、焔牛は驚くほど大人しくなった。
「……いける?」
「ああ、鎮静符の効果が効いてるうちに、荷車まで運ぶぞ!」
俺たちは用意していた丈夫なロープで焔牛を固定し、手早く荷車へと誘導した。
「1頭目、確保完了!」
「もう1頭もやるぞ!」
同じ手順で2頭目も確保し、無事に焔牛の確保作戦を終えた。
■ 氷涙草の採取と帰還準備
焔牛の確保が無事に終わった後、俺たちは霜月霊脈の近くを調査することにした。
「フィオナ、さっき言ってた冷たい匂い、まだ感じるか?」
「はい……この先、少し進んだところに」
彼女の案内で奥へ進むと——そこには、うっすらと霜が張った草地が広がっていた。
その中央に、青白く輝く小さな植物が生えていた。
「……これが氷涙草か」
ガルドが慎重にその葉を摘み取る。
「予想以上に冷えてるな。普通の植物じゃねぇ……」
「でも、香りがすごくいいですね」
氷涙草は、清涼感のある独特の香りを放っていた。
「乾燥させたら、ハーブティーや料理の香り付けに使えそうですね」
「それだけじゃねぇ。氷涙草は、火属性の魔獣肉と相性がいいらしい」
「ってことは……焔牛ステーキにも?」
「試してみる価値はあるな」
慎重に氷涙草を採取し終え、俺たちは帰路につく準備を整えた。




