第5章・4節:夕暮れの厨房 現地調達計画
ルーク・フェルディナンドとの契約を終えて帰ってきた俺たちは、厨房の中央テーブルを囲んでガルドさんに報告をしていた。
「で、ルークさんが、収穫祭が終わった後に“特製料理”を条件に引き受けてくれることになりました!」クラリスが得意げに言う。
「ほぉ、あのルークがな……あいつ、基本的に面倒くさがりなんだが、料理のためなら動くんだな」
「料理好きらしいですよ。特に焔牛ステーキに感動したとか」
「焔牛ステーキ? ああ、昔、限定メニューで出したやつか。覚えててくれたとはな」
ガルドさんが懐かしそうに頷く。
「で、衣装は青と銀の月夜イメージで、星の刺繍を入れてもらうことになりました!」
「よし、見栄えはバッチリだな」
俺たちは一安心して、コーヒービーンミルクを飲みながらくつろぎ始めた。
ところが——。
「……さて、そんじゃ俺は収穫祭が終わったら、ちょいと食材の現地調達に行ってくるわ」
「えっ?」
その瞬間、全員が同時に固まった。
「え? ガルドさん、今なんて?」クラリスが聞き返す。
「だから、現地調達だよ。霜月林までな」
「霜月林って……学園から南に二百キロ以上離れてる、あの?」リーナが目を丸くする。
「そうだ。霜月林の奥に自生してる〈氷涙草〉をな、調達してくる」
「ひ、氷涙草!? あれ、寒冷地でしか採れない超希少ハーブですよね?」セレナが驚いて声を上げる。
「うむ。あれを乾燥させて粉末にすると、独特の清涼感が生まれるんだよ」
「えっ、えっ、えっ!? そんなの、どこで使うんですか!?」クラリスが慌てる。
「ルークへの報酬料理に使う。あいつが気に入るスイーツを作るなら、特別な香りが必要だろ」
「……マジですか」俺が頭を抱えた。
「本気だ。霜月林までは片道四日、往復で八日。収穫祭が終わってから出れば、日程的にはギリギリ間に合う」
「いや、ガルドさん、あの林って魔氷熊とかいるじゃないですか!?」リーナが心配そうに声を上げる。
「おぉ、あいつらは肉が硬ぇけど、シチューにすると意外とイケる」
「そういう問題じゃないです!」
「まあまあ、心配すんな。昔、軍時代に何度か行ったことあるしな」
ガルドさんはどっしりと椅子に座り、腕を組んで笑った。
「それに、霜月林で採れる氷涙草を使えば、〈月光リンゴクレープ〉に特別な香りが加わるはずだ。クレープ好きのあいつも唸るだろうぜ」
「うぅ〜、なんかもう話が壮大になってる……」クラリスが頭を抱える。
「でも……確かに面白そうですね」セレナが眼鏡をクイッと押し上げた。
「えっ、先生、賛成するんですか!?」
「だって、氷涙草は魔導植物学的にも極めて珍しい素材です。学術的価値もありますし、クレープに清涼感のある香りが加わるなら、収穫祭後の特製メニューとして話題性抜群ですよ」
「ぐぬぬ……セレナ先生、完全に“クレープ目線”だ……」クラリスがぼやく。
しかし、この話はそこで終わらなかった。
「なぁ、ガルドさん」俺が口を開く。
「ん?」
「流石に、一人で行くつもりじゃないですよね?」
「おぉ、もちろんだ。焔牛の肉も仕入れるつもりだからな。俺と同行するヤツを決める必要がある」
「そ、そうですよね!? あの林、獣が出るって話ですし……」
クラリスがホッと胸をなでおろす。
「で、誰が行くんです?」リーナが尋ねる。
「俺と……リアムは確定だな」
「……やっぱりですか」
「当たり前だろ。料理人がいなきゃ、食材の確認もできねぇ」
「……ですよね」
まぁ、予想していた。
「で、もう一人くらい連れて行ければいいんだが……」
「じゃあ、私が行こうか?」
クラリスが手を挙げかけたが——すぐにガルドさんが首を横に振った。
「ダメだ、お前は厨房に残れ。収穫祭後も、食堂の仕込みは忙しいだろう?」
「あっ、そっか……確かにそうですね」
「学食の運営を止めるわけにはいかねぇしな」
「うぅ〜……行きたかったけど、仕方ないですね」
クラリスはしぶしぶ頷いた。
「じゃあ、三人目は誰に?」
「……まだ決めてねぇ。誰か適任がいれば誘うが、見つからなきゃ最悪二人で行く」
「えぇ!? 二人はさすがに危険じゃないですか!?」
「まぁな。でも、予定がタイトだから悠長に探してる時間もねぇんだよ」
ガルドさんは渋い顔で腕を組む。
「収穫祭が終わるまでに誰か適任を見つける。いなかったら、リアムと俺の二人で行く。それで決まりだ」
「……わかりました」
俺も納得せざるを得なかった。
こうして、収穫祭後の冒険は「ガルドと俺+α」という未確定の形で決まったのだった——。




