第3章・5節:幻のスイーツとガルドの挑戦①
厨房の中央で、青白く光る〈月光リンゴパイ・蒼華〉を囲んで、俺たちはしばし沈黙した。
「……本当に、きれいだな」
リーナが感嘆の声を漏らす。
銀色の月光リンゴが焼かれたパイの表面で淡く輝き、まるで夜空に浮かぶ霜の花のようだった。
「味、どうするんですか? こんなにきれいなパイ、食べるのもったいないですよ!」クラリスが躊躇する。
「食べてみるしかねぇだろ」
ガルドさんがフォークを手に取り、静かにパイの端を刺した。
サクッ——という軽い音が響き、中から月光リンゴの果汁がじわりと溢れ出す。
「いただきます」
ガルドさんがひと口パクリ。
「どうですか!?」クラリスが前のめりで尋ねる。
ガルドさんは目を閉じて噛みしめ、数秒後に微笑んだ。
「……あの時の味だ」
「えっ!?」
「甘さ控えめで、ほのかに冷たい舌触り。なのに口の中でふわっと広がる、月光リンゴの爽やかな香り……まさに蒼華だ」
クラリスとリーナが目を輝かせる。
「これ、収穫祭で出せば大人気間違いなしですね!」
「いや、問題がある」俺が苦笑する。
「問題?」
「これ、狙って作れるかわからない」
「え……」
俺はパイの魔力を探知し直した。
「霊脈の微妙な影響で偶然できるんだろうけど、材料や調理条件を再現するのは難しい。まさに“幻のスイーツ”ってやつだな」
「そ、そんなぁ……!」クラリスがショックを受けてへたり込む。
「まあ、簡単に作れりゃ“幻”になんねぇからな」ガルドさんが肩をすくめる。
「でも、これを収穫祭に出せたら話題になりますよね?」リーナが尋ねる。
「ああ。だからこそ、あと数回は試作するぞ」
「やる気満々ですね、リアムさん!」
「料理人は好奇心が命だからな」
全員が笑顔で頷き、俺たちは再びリンゴの仕込みに取りかかった。




