第3章・4節:ガルドの思い出
「おーい、リアム!」
厨房の奥からガルドさんが顔を出した。
「何か面白いもんでも焼いたのか?」
「ちょうどいいところに来ましたね、ガルドさん」
俺は光るパイを指差した。
「これ、見てくださいよ」
「ん? パイが光ってる……?」
ガルドさんが近づいた瞬間、目を見開いた。
「こ、これは……!」
「何か知ってるんですか?」
ガルドさんは呆然とパイを見つめ、しばらく黙り込んだ後、低い声でつぶやいた。
「〈月光リンゴパイ・蒼華〉だ……」
「蒼華?」
「ああ。月光リンゴは魔力を微量に含んでる。だが、ごく稀に霊脈の影響で魔力濃度が高くなることがある。
そのリンゴを使って焼き上げると、こうして青白く光るパイになる」
「そんな現象があったなんて……」
「魔導学者でも詳しい原理はわかってねぇ。記録上、学園で最後に確認されたのは十年以上前だ」
「そんなにレアなんだ……」クラリスがパイを覗き込む。
「一説には、魔力が凝縮されてるから、食べると心が穏やかになる“癒やしの効果”があるとかないとか」
「ロマンありますね!」リーナが目を輝かせる。
ガルドさんはパイを見つめながら、遠い目をしていた。
「……そういや、昔俺もこのパイを焼いたっけな」
「え?ガルドさんが?」
「ああ。若ぇ頃、霊脈調査任務で山に行った時、偶然この蒼華ができてな。
驚いて調べた後、家に持ち帰って——嫁さんに食わせた」
「奥さんに?」
「……俺、料理人になる前はガサツな軍人でな。付き合ってる時も、甘いもんが苦手だった」
「意外!」クラリスが目を丸くする。
「けど、嫁さんが甘いもん好きでな。そのパイを渡した時、めちゃくちゃ嬉しそうに笑ってくれたんだ」
ガルドさんが苦笑する。
「それから何度も挑戦したんだが、二度と焼けなかった」
「じゃあ、このパイ……すごい奇跡なんですね」リーナが感嘆の声を上げる。
「ああ。収穫祭にこれが出せたら、学園中が驚くだろうな」
「よーし、俄然やる気出てきました!」クラリスが拳を握る。
「俺もだ。〈月光リンゴパイ・蒼華〉、再現してみせるぞ!」
パイが青白い光を放つ中、俺たちは収穫祭への新たな挑戦に向けて盛り上がるのだった。




