第2章・14節:帰路と焚き火の夕飯
山を下る頃には夕焼けが空を染めていた。
「いやー、疲れましたね……」リーナがぐったりと歩きながら言う。
「普段、治療室にいる人が山道歩けばな。よく頑張った」俺が笑う。
「それにしても、魔力を吸う霧とか霊鍵とか……すごいことに巻き込まれましたね」
「まあ、霊脈異常に気づけたのは良かったけどな」
歩き続けたせいで、全員の顔には疲労の色が浮かんでいた。
山道の途中、見晴らしの良い小さな広場を見つけ、ガルドさんが「ここで休憩だ」と声をかけた。
「もう歩けねぇ……」クラリスが崩れるように座り込む。
「ふぅ、私ももうダメです」リーナも同じく座り込む。
「おい、料理人、腕の見せどころだぞ?」ガルドさんがニヤリと笑う。
「へいへい、任せてください」
俺は荷物袋から鍋と調理器具を取り出した。
「今日は特製〈森茸と乾燥肉の山ごはん〉を作る」
「わーい!」
「クラリス、火魔導炉に魔力をちょっとだけ入れてくれ」
「了解です!」
クラリスが手をかざし、小型の魔導炉がぼんやりと赤く光る。
「まずは森茸を薄切りにして……乾燥肉をほぐして鍋に投入」
ジュウッと香ばしい音が響き、肉とキノコの匂いが空気を満たす。
「わー、いい香り!」リーナが目を輝かせる。
「森茸は火を入れすぎると香りが飛ぶ。中火でじっくりがコツだ」
鍋に魔導スープベースを加え、煮込んでいく。
「最後に〈星見草の粉末〉をひとつまみっと……」
青白い香草が鍋に舞い落ち、すぐに爽やかな香りが立ち上った。
「完成だ。はい、召し上がれ」
「いただきまーす!」
クラリスとリーナがスプーンを手に取り、口に運ぶ。
「うっま!森茸の旨みがスープに溶け込んでる!」
「はぁ〜、疲れた体に染みわたる……」
彼女たちが幸せそうに食べるのを見て、俺も満足する。
ガルドさんがゴクリと喉を鳴らした。
「さすがだな、リアム。山でこのクオリティはなかなか出せねぇぞ」
「冒険時代に鍛えられましたからね」
全員で食事を囲むこの時間が、何よりも心を和ませる。
「ねえ、次はどんな料理作るんですか?」リーナが笑顔で尋ねた。
「そうだな……学園に戻ったら、秋の収穫祭があるからな。〈月光リンゴのパイ〉でも作るか」
「やった!手伝います!」
「私も!」
「ガルドさんも手伝ってくださいよ」
「おい、俺は総料理長だぞ?」
「でも、料理好きでしょ?」
「……ま、たまにはな」
火の光に照らされながら、笑い声が響く。
霧の塔の不安も、今はこの温かな夕飯が消し去ってくれた。
——魔力の霧が何を意味するのか。
——霊鐘の次の鐘がどこで鳴るのか。
謎は残っている。
けれど、今は仲間と囲む食卓の幸せを噛みしめる時間だった。
これでこの章は終わりです。
その内、関連間話を作る予定ではいます。予定では…




