第1章・1節:食堂に響く「ただいま」
「おはようございます、リアムさん!」
朝の学園食堂に、クラリスの明るい声が響く。
「おはよう。今日もよろしくな」
厨房の窓を開け放つと、冷たい朝の風が魔導火炉の熱気を和らげる。油の香り、パンの焼ける匂い、そして「今日も一日が始まる」という高揚感が胸を満たす。
ここは〈アストレリア学園〉の食堂。
俺の名はリアム・クロフォード。元ギルド冒険者で、今はこの学園で料理を作っている。
「さあ、朝食の準備だ。今日は〈森茸オムレツ〉と〈星見草スープ〉。クラリス、スープ鍋の火加減頼む」
「了解です!」
カラン、と鍋の音が鳴るたび、ふと思う。冒険者時代は生きるために料理を作っていた。今は誰かを笑顔にするために作っている。そのきっかけになったのは、仲間だったエリオットの言葉だった。
——「リアム、お前の料理が命を救った。料理ってのはさ、人を笑顔にするためにあるんだよ」
「リアムさん?どうしました?」
「ああ、なんでもない。さあ、火を強めるぞ」
エリオットとはあれ以来、連絡が途絶えている。今どこで何をしているのか——それは俺自身、気になっていることのひとつだった。