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8.ギルドの洗礼

 しばらく家の前で待っていると、私服に着替えたピーラが窓から飛び出してきた。



「ごめーんね。待った?」


「びっくりした。どうして玄関から出てこないんだ」


「部屋からだと、こっちの方が近いんよ」



 慣れた風に言ってのけるのを見るに、この窓を割ったのは一度や二度ではなさそうだ。もっともそれは、それだけ邪な考えを持つ男がいたということであり、彼女のせいではないのだろうが。


 実際ピーラは、アイと遜色ない程の美形だ。あちらがお淑やかなキレイ系に属するならば、こちらは快活なカワイイ系。


 髪は可愛らしくツーサイドアップ。トップスもお洒落に決める一方で、下半身はスパッツ程度に生足をご披露してくれているのだ。その理由が蹴り技のための動きやすさ重視であると知らなければ――いや、知っていてもなお、不埒な輩の気を引いてしまうのかもしれない。


 行こっか☆と人懐っこい笑みに先導され、マモルは歩き出す。



「なあ、一つ、訊いてもいいかな?」


「んー、なんぞ?」


「その……太もものことなんだが」



 切り出すと、ピーラはぱっと身を翻し、ニヤニヤと小悪魔な上目遣いを向けてきた。



「へー、触れちゃうんだ。てっきりあんたは、後で思い出してむらむらしちゃうムッツリかと思ってた」


「違ぇよ!? いや、違わ……ない、けど」



 彼女のウソ発見器能力が脳裏をよぎり、白状する。



「にっしし、正直でよろしい」



 けらけらとからかわれ、マモルはそっぽを向いた。けれど、嫌な感覚ではなかった。



「俺が訊きたかったのは、太ももの模様のことだよ」


「ああ、これなー?」



 何の気もなしに、ピーラはスパッツを捲り上げて見せる。はしたないから隠しなさい。おじさん心配になっちゃうから。



「他に、似たような聖痕を持ってる人を知っているんだ」


「はえー。すてぃぐまって言うんだ、これ。ウチが物心ついた時からあるんだけどさ、親もいないし、誰も教えてくれなかったんだよね。コレなんなん?」


「それが……俺も知らなくて」


「知らないんかーい!」



 びったんびったんと背中を叩かれながら、マモルは思案する。


 アイはルミナス家に伝わるものだと言っていた。もしかしたら、ピーラも同様に両親から受け継いだものなのかもしれない。



――実はその舌での慰撫こそが、原始から続く治療魔法の起源。そして私の聖痕は、その効果を高めてくれるんですよ。


――ウチの脚はね、人よりちょいとばかし器用なの。



 アイは舌が。ピーラは脚が。何かしらの秘めた力を宿している。


 彼女たち自身が詳しいことを判っていないということは、この世界でも稀有な現象なのかもしれない。


 だとすれば。



「(【千里眼】は、聖痕を探すためのセンサーなのか……?)」



 それでいて、彼女たちはS級――いや、レジェンド級の美貌を持つ。美少女だから聖痕を持つのか、聖痕を持つから美少女なのか。



「(もう少し、サンプルが欲しいところだが)」



 異世界で生きることになったのはまだ戸惑いもあるが、こうして絶世の美少女たちと出会うことができるのなら、【千里眼】で彼女たちを探知しながらのんびり過ごすのもいい。



「(どうか、おっさんが出てきませんよーに)」



 期待と願いを胸に、マモルはギルドに向かう足を早めさせた。






   *   *   *   *   *






 ギルドに入ってマモルが抱いた第一印象は、故郷の『道の駅』を大規模にしたようなもの、だった。


 入って真正面に受付が構えられ、右手は食堂に酒場にと屯するスペースがずらりと並び、左手は冒険を補佐する武器防具から便利アイテムがよりどりみどりである。


 女性冒険者たちが囲んでつついている巨大スイーツや、すれ違った気弱そうな冒険者が大量に買い込んでいたカラーボールのようなもの、何故か武器屋に置いてあるフライパンなど、未知の光景に目移りしながら、マモルはピーラの後をついていく。


 受付に着くと、大層可愛らしいお姉さんが出迎えてくれた。



「お疲れ様です! ご依頼ですか? お引き受けですか?」


「引き受けー。5000ゴールドくらいパパっと稼げるイイ仕事、なーい?」


「プピラスさん、またですか?」



 希望額面だけで何かを察したらしい受付嬢が苦笑する。それにピーラも「そ、また」と肩を竦めて返していた。



「では、そちらの方と組まれるのでしょうか? ええと……」


「申し遅れました。常深まも――じゃない、マモル・ツネミと申します」



 つい仕事感覚で受け答えをしてしまうと、隣からぶふっと噴き出す音がした。



(かた)っ! 真面目か! それとも、クラークちゃんにホの字で緊張してんのか~? うりうり」


「それが……ギルドに来るのが初めてで」


「へ、マジ?」



 ピーラが目を丸くした。



「あら、そうだったのですね、改めまして、ようこそギルドへ!」



 彼女にとっては特段珍しいことでもないのだろう。クラークと呼ばれた受付嬢は、自然な手つきで引き出しから用紙を取り出した。



「ランクを決めたいのですが、戦闘経験はどの程度おありですか?」


「ありません。今朝方森で、オオカミを一匹倒したくらいで……」


「色は何色でしたか?」


「灰色です」


「それならグレイウルフですね。一先ずFランクにしておきましょうか」



 そう言って、クラークが用紙に色々と記入していく。



「なあ、一番下のランクは?」



 マモルが耳打ちすると、ピーラは「F」と即答した。



「一番上がSね、この町のギルドにはいないけど。そこまで行けたら超有名人よ」


「お前は?」


「ウチはD……」



 遠い目をするピーラ。世知辛そうだ。



「というか、あんた手ぶらだけど、武器は?」


「持ってない」


「じゃあ、ウチと同じ徒手格闘系ってワケだ」


「いや、格闘技なんてやったことない……」


「ええー……ちょっと大丈夫そ? じゃあどうやってオオカミを倒したんよ」


「それは――」



 マモルが自分のスキルについて説明しようとした時だった。



「おいおいおい! グレイウルフを倒せたくらいで、冒険者気取りかァ!?」



 野太い大声が、酒場の方から投げつけられた。


 声のした方を見ると、酒のジョッキを一気に煽って立ち上がった大男が、手の骨をボキボキと鳴らしながらやってくる。



「ランク決めなら俺様が手伝ってやるよ。ほれ、表へ出ようや」



 にたにたとこちらを見下してくる目から逃げるように半歩後ずさり、マモルはピーラに耳打ちした。



「……彼は?」


「あーそうか、あんたはギルド来んの初めてなんだもんね。あいつはマスキュラ。このギルド内で一番大きいパーティ『鉄の牙』のリーダーで――」


「冒険者ランクA! の、優し~い先輩だよ」



 ピーラの言葉を奪って、マスキュラはにぃ、と牙を剥いて嗤った。

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