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7.健康的で暴力的な太もも

「ちぇえあああっしゃあ――――ッ!!」


「げぼはぶっ!?」



 盛大に蹴り飛ばされた不審者は、そびえる防壁の高いところへと叩きつけられ、そのままずるずると落ちていった。


 猫のように軽い身のこなしで着地した太もも――もとい少女は、Y字バランスのように足を持ち上げると、まるで銃口の煙にするように、ふっ、と爪先に息を吹きかける。



「にししっ、断☆罪」



 艶やかな黒い髪を揺らし、お日様のような瞳が満足げにほころぶ。


 その姿に、マモルの目は釘付けになった。


 バスタオルを体に巻いたままの姿だったから、タオルがめくれ上がった側面から、その魅惑的な中身が露わとなっていたからだ。


 カモシカのような足とはよく言うが、彼女のそれは遥か上に君臨していた。


 肉厚でありながら引き締まった臀部から続く太ももは流麗な曲線美を描き、膝できゅっと絞まったかと思うと、刀のように鋭いふくらはぎの弧へ変化する。


 翼の付け根かと錯覚するようなアキレス腱とくるぶしから伸びた足は穢れの一つも介在せず、しなやかな指の一本一本が、白鳥の羽根のように踊っていた。


 筋肉が彩る、優雅で力強い美の結晶だ。



≪スキル【解析眼】が解放されました≫


「そうか、この子だったのか」



 マモルは確信した。そして、天に感謝した。


 やはり【千里眼】が視るのは、彼女やアイのような『別格』の美少女なのだ!



「……およ?」



 脚をおろした少女がこちらに気付く。


 マモルは咄嗟に背を向けた。



「見てません覗いてませんごめんなさい!!」



 諸手を上げて敵意がないことを示し、微動だにせずに沙汰を待つ。



「へーえ? ほーお? ふーん?」



 一歩、また一歩と、少女の舌なめずりが近づいてくるのがわかる。



「……にゅふふ。えいっ☆」



 首筋を悪戯な吐息でくすぐられたかと思うと、マモルの首は脚に巻き付かれていた。


 衝撃もなく、するりと。蛇のように滑り込んだもちもちな素足が隙間なく首回りに吸い付き、対男性特攻の甘酸っぱい麻痺毒(フェロモン)を放ってくる。



「な、何を……?」


「そんなに怖がらなくていいよおにーさん。ちょっと質問に答えてもらうだけだし」


「質問……?」


「そそ。ウチの脚はね、人より《《ちょいとばかし》》器用なの。こうして話を聞けば、その人が嘘を言っているかどうかも判っちゃうワケ」



 マモルは息を呑んだ。それが、彼女の持つスキルの力なのだろうか。



「第一問。どーしてここにいるの?」


「ギルドに行く途中……ま、町を散歩していたら、さっきの男が窓から覗いているのを見かけたんだ」



 危うく、ギルドに行く途中で『道に迷った』という嘘を言いかけたが、咄嗟に無難な答えへと切り替えることができた。


 マモルの頬を伝った汗が、彼女の膝裏へと吸い込まれて消える。水分を得たことで麻痺毒がさらに芳しく花開き、クラクラする。空気を求めるほど、脳が砂糖漬けにされていくようだ。


 息ができないほど強く締め付けられているわけではないものの、彼女の呼吸に合わせてむにむにと鳴動する弾力に揉まれては、マモルの気道はあっけなく、蓄えた酸素を吐露させられてしまう。



「ふーん? じゃあ第二問」



 ジャッジの結果を伝えてくれることなく、彼女は続けた。



「見ぃた?」


「み、見てません」



 マモルが体を震わせると、少女はけらけらと笑って、脚をほどいてくれた。



「そっかそっか。こっち向いていーよ、おにーさん」



 引きがてらの爪先で肩を回され、なされるがままにマモルは振り返る。


 サンストーンを嵌めたような橙色の双眸が、お前ほんとは見てただろうと問いかけるように覗き込んでくるのを、マモルは目を逸らして逃げた。



「ま、邪気は一つしか感じなかったし、信じましょう!」



 そう言って彼女は、また「にしし」と歯を見せて笑った。



「邪気……それも脚で探知するのか?」



 マモルがそう訊ねると、少女はきょとんと目を瞬かせ、やがて噴き出した。



「あっははははは、そんなわけないっしょ! 邪気や殺気を感じ取ることができるのは、ウチが武を修めてきたから。面白いねおにーさん!」



 びたんびたんと肩を叩きながら、腹を抱えて笑う。その度に揺れる胸がバスタオルからこぼれ落ちそうになるのだから、マモルは気が気でなかった。


 ひとしきり笑うと、ひーひーと目尻を指で拭い、彼女は言う。



「ウチはプピラス・ベーヤス。魔物ハンターやってんだ。名前は呼びにくいから、ピーラでいいよ。おにーさんは?」


「マモル・ツネミです」


「うん、マモルね。おぼえた」



 何かの縁だし、上がっていかなーい? お茶出すよー? なんて笑いながら振り返って――



「やっばー!? 窓の修繕費用稼がなきゃ~!」



 自分の家の惨状に、ピーラが頭を抱えて座り込んだ。



「ね、ね! ギルドに行くんだったら、ウチもついていっていーい!?」


「あ、ああ……構わないけど」



 マモルは上擦った声で返す。大股を開いたままこちらを向くものだから、またもバスタオルが開き、ややもすると大事なところまで見えそうになっているのだ。


 これは指摘するべきか、しない方が彼女のためなのか。



「ありがど~!」


「あ、ああ……大したことじゃない、よ」



 迷っていると、そこでまた、マモルは目を奪われた。


 先の太ももウソ発見器にかけられたら危ういかもしれないが、決して、ピーラのアソコが見られることを期待したわけではない。


 見つけてしまったのだ。


 露わになった彼女の内ももに、アイの舌にあったものと似た『聖痕』が刻まれているのを。

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