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39.闇の中でも輝くもの

「開いた……」



 マモルはぽかんと口を開いた。一体何がトリガーとなっていたのかが判らないからだ。



「これも罠なんでしょうか?」


「うーん、『我が子ら』って言ってたよね」


「古代の人々の子孫と考えれば、あながち間違いじゃないのかなあ」



 アイたちも、どこか不安そうに立ち惑っている。



「進んでみよう」



 マモルは意を決し、歩き出した。このままこの部屋に留まっても意味がないのだ。


 奥の部屋は、先ほどの広間と比べると幾分か狭く感じた。無骨ながら研究室のような雰囲気で、中央には執務机があり、床には本や資料が散乱している。


 特徴的なのは、部屋の片隅に鎮座している金属の柱である。外観は、貯水タンクを小さくしたものに近いだろうか。目に見えるレバーやスイッチの類もなく、正体は謎だった。



「文字が薄れて読めないねえ」



 ピーラが足下の紙を拾い上げて、少し落胆したように言った。



「うっすらと見えるのは……古代文字かな? さっきの端末と同じ文字」


「端末と同じ文字?」



 マモルもリュネルの横から資料を覗き込んだ。



「セフ……ト……画?」



 辛うじて視認できた見出し文字を声に出してみる。



「ガ、カク……ああ、計画か。」



 文字配分と仮設が合っていれば、『セフ〇〇ト計画』という配置だった。しかし、マモルの持ちうる語彙には、空欄を埋めるに適当なものは見当たらなかった。


 謎の計画の詳細に当たる内容も、文字が擦れすぎてほぼ解読不能である。


 そうして睨めっこをしていると、不意に、声をかけられた。



『私の秘密の部屋へようこそ、諸君』



 顔を上げると、執務机に老年の男が座っていた。


 だが視線は微妙にこちらを捉えきれていない。よく見ると、壁からの光によって映し出された幻影であることがわかった。



「この人は……?」


「わからない。これはホログラムといって、記録された映像のようだから。古代人かもしれないな」



 思わず発する声のトーンを抑えてしまう。


 そんなこっちのリアクションを想定してか、微笑みを絶やさずたっぷりと間を取った老人は、おもむろに先を続けた。



『私はエヴァグリオス。君の祖先に当たるしがない男さ』


「「エヴァグリオス!?」」



 ピーラとリュネルが声を上げた。アイは口元を覆って驚きを堪えている。


 一方、マモルは戸惑っていた。エヴァグリオスと名乗る老翁が『君の祖先』と言った際、その瞳が一瞬、しかし間違いなくこちらを捉えていたからだ。


 それは偶然なのだろうか。



『今は何年後だろうか。もしかしたら、何百年。願わくば、何千年。私の力が「ホロスコープス」をどれだけ封じ込められたかによるだろうか』



 エヴァグリオスはそう言って、机に肘をつき、重ねた手の甲に顎を置いた。



『ホロスコープスは、夜空の向こう側から来た侵略者だ』


「夜空の向こう側……」


『奴らは星から生まれ落ち、この地上に蔓延っていた。おそらく、この映像を視ているということは、君も奴らのうちの誰かに遭ったことがあるかもしれない』



 また、エヴァグリオスの視線がマモルに向けられた。わずかにちらつく映像の中で、彼の瞳に聖痕が浮かんでいるのが判った。


 その時マモルは悟った。エヴァグリオスの【神眼】は、時間を超えて、確かにこちらが視えている。



『私は、愛する妻たちとともに、地上に「昼」を取り戻すべく戦った。だが、深淵を完全に照らすことはできなかった』



 悔しそうに顔を伏せ、エヴァグリオスが唸る。



『その後始末を、子孫である君に託すのは心苦しいが……もし、立ち上がってくれるのであれば、一つだけ覚えていて欲しいことがある』



 彼は静かに相好を崩し、立ち上がった。



『深い闇の中でも輝くものを知っているだろうか?』



 デスクを迂回しながら、エヴァグリオスが尋ねるように言った。



『太陽は沈んでいる。月に陽は届かず、星の瞬きも隠れている。火を熾しても掻き消されてしまう。そんな中でも、輝くものがある』



 マモルの前に立ったエヴァグリオスと、視線が交錯した。



『それは「虹」だよ』


「虹……」


『そう。虹は、水分に光が差し込まれることで発生する希望だ。そして人の眼には、涙という水分と、決意という光がある。それが、君に受け継がれた虹彩の力だ。

 今、君には信頼のおける仲間がどれくらいいるだろうか。さすがにそこまでは視えないが……この部屋に辿り着けたということは、少なくとも隣に一人はいるはずだね』



 エヴァグリオスの言葉に、マモルははっとしてアイたちを見た。



『彼女たちを愛し、絆を結べ。そうすることで、君の「眼」は真価を発揮する。やり方は既に知っているはずだ』


「俺の眼の真価……」



 アイとの間に共鳴した【清眼(パナケイア・アイリス)】がそれだろう。ピーラとの間に視えた【心眼】と、リュネルとの間に視えた【診眼】も、その一つ。


 まだ掴みあぐねているが、少なくとも一度、共鳴は完了している。


 未だ謎めいている『解放条件』は、エヴァグリオスの言う「絆を結ぶ」ということなのだろう。



『愛することを忘れてはならないよ』



 マモルの考えを見透かしたように、エヴァグリオスは笑って見せた。



『なに、人と人とが視線を交わす意味を考えれば、不思議なことではないだろう?』



 そして彼は一度頷いてから、部屋の隅にあるタンクの下へと歩いていく。



『もう一つ、君に託したいことがある』



 そう言って、タンクの表面を慈しむように撫でた。



『ここには、私の娘が眠っている。私と妻との間に授かった、精霊の血を引く娘でね。名はマティア。マティア・オモルフォスだ。愛い名前だろう?

 精霊の種の存続は、数百年単位で見ればどうなっているか判らない。そのため私と妻は、止むなくコールドスリープの道を択んだ。……娘を戦場に送るために眠らせるとは、私は歴史上最も酷い父親になるのだろうな』



 彼の手がだらりと滑り落ちる。噛みしめられた唇が再び開かれるまで、少しの時間を要した。



『もしも君が奴らと戦ってくれるのなら、このカプセルを「千里眼」で見通してみてくれ。きっと力になってくれるだろう。

 ……どうか、この世界を頼む』



 そう言い残して、エヴァグリオスのホログラムは消失した。

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