34.地下遺跡
マモルたちが吸い込まれた穴はスライダーのようになっていて、滑り着いた先はどこか遺跡のような石組の通路だった。
「痛たた、ここどこぉ?」
ピーラが腰を擦りながらきょろきょろとしている。
「人工的に切り出されたような石……遺跡のようですが」
「なんじゃこりゃ……」
通路の謎も引っかかるが、マモルはもっと別のことに気を取られていた。
ここは明るいのだ。石の継ぎ目を埋めるパッキンのような物質が光を放っているためである。壁に触れてみると、その表面も大理石やコンクリートのような滑らかな質感をしていた。
「やたら近未来的だな。これはLEDか?」
「なにそれ、えるいーでぃー?」
「ああそうか、こういう形式の照明は見たことない?」
訊ねると、アイとピーラは首を横に振った。
もしかしたらこの世界では別の呼び名なのかもしれないと思ったが、その可能性は薄そうだった。エリアスの町で蛍光灯や配電設備の類を見た記憶がない。浴室の照明だって、湯気がかからないように逆さ向きのカバーが付けられた燭台を用いているのだ。
「(どうなっているんだ……)」
マモルが考え込んでいると、再び地揺るぎがした。
そしてその轟音は、徐々に近づいてくる。
「もしかして、ヤバい?」
通路の奥、上層へと繋がる階段の方へと目を凝らしながら、ピーラが頬を引きつらせている。
「アイは後ろに!」
「は、はいっ!」
マモルも身構えた。
やがて反響する揺れが最高潮に達した時、階段から少女が飛び出してきた――直後に通路を埋める程の大きさの丸岩が転がって来る。
「なんで人がっ!? とにかく逃げて逃げて逃げて!!」
少女はこちらに気付くと、青ざめた表情で叫んだ。
「いくぞ、ピーラ!」
「おうよ!」
「「――【龍爪爆炎天翔蹴】!!」」
マモルの炎を纏った龍が飛びかかり、岩を粉砕する。
通路の一部を瓦礫で埋めることにはなったが、通るのには支障なさそうだ。それを均すように【地穿蹴】を叩き込みながら、ピーラが戻って来る。
「君、大丈夫?」
「ひい、ひい……助かりました……」
危機を逃れた少女が、アイに背中をさすられながら激しく息切れをさせていた。
「奥の部屋に入ろうとした時、爆発みたいな音がしたかと思うと、天井から岩が降ってきて……ひたすら通路を逃げていたんです」
「あー……」
マモルたちが聞いた爆発音の正体は、彼女がトラップにかかった際のものだったのだろう。
少女は呼吸を落ち着けると、汗で張り付いた髪の毛を指で梳いた。頭の後ろの結び目を確認してから、垂れる髪の毛にも指を通す。
「可愛い手袋ですね」
アイが少女の手に気付いて声をかけた。
黒の指ぬき手袋という点だけ見れば無骨にも感じられるが、手の側面に入ったピンクのラインや、随所に散りばめられた装飾によってデコレーションされており、それが少女の薄紅の髪をくぐるたびに光の軌跡が走るようにも見えて綺麗だった。
「ありがとう。でもあまり好きじゃないんだ。細かい作業ができなくなるから、指ぬきしなきゃいけないし」
「外さないの?」
そう訊ねてから、すぐにピーラは自分の失言に気付いて苦い顔をする。
「ごめん……事情があるんだね」
「気にしないで。こっちこそごめんね」
歯切れ悪くフォローを入れて、少女は汗を拭った手をハンカチで拭うと、他に着衣の崩れがないかを確認してから、頷いた。
「改めて、ありがとう! 私はリュネル・エタンスラント。探検家だよ」
「マモル・ツネミだ。冒険者……でいいのかな?」
「プピラス・ペーラス。ピーラでいいよ。肩書は右に同じ」
「アイ・ルミナスです。薬師をしています。今はマモル様について旅を」
こちらが名乗ると、リュネルははえーと目を瞬かせた。くりっと可愛らしいやや猫目の形に、サファイアを嵌めたような深い海の瞳である。
マモルはふと、気になったことを尋ねてみた。
「冒険者と探検家って違うのか?」
「そうだね。ギルドでクエストを受けて、仕事の対価として報酬を受けるのが『冒険者』。ダンジョン探索の方を主として、そこから得た物品で稼ぐのが『探検者』といったところかな? まあカツカツだから、ギルドで糊口を凌ぐこともありますが」
そういって、自虐的に笑って見せる。しかし暗く卑下するようなものではなく、誇りを持ったうえでマイナス部分を敢えて語るような軽妙さがある。
「ざっくり言うと、冒険者が戦士、探検者が盗賊、といった感じだね」
「ご自分で盗賊と言ってしまうんですね……」
アイの苦笑に、リュネルはまあねと肩を竦めた。
「スキルも解析系だからね。魔物討伐なんかはちょっと難しいんだ。一応戦う術はあるんだけど……さっきみたいな大岩はムーリ」
「解析系?」
「そう。たとえば壁なんかを触ると、その構造が解るんだよ。ここの壁の裏には何か空間があるとか、ここの床は抜ける仕掛けになっているとか」
「へえ、探索には持ってこいなんだな」
「でも天井の大岩は避けられなかったと」
ピーラの指摘に、リュネルがう˝っ……と唸る。
「……構造が解っても、罠を解除できるかは別なんだよねえ」
「あーね。どんまい」
遠い目をするリュネルに、ピーラが苦笑した。
「この先にある変な装置も、全然わからないし」
「そうだ、それを聞こうと思っていたんだ。リュネルは、ここは何なのか知ってるか?」
「何って、イェソド遺跡でしょ?」
リュネルがきょとんと小首を傾げる。それにアイとピーラがあっと声を上げる。
「イェソド遺跡って、カプリコの東にある……アレ?」
「アレ。えっ、ちょっと話が見えないんだけど、解っていてここまで来たんじゃないの?」
「それが……俺たちは世界樹から来たんだ」
「はい?」
さらに傾く首に、マモルたちはいきさつを説明した。
おそらく大岩の罠が発動したことによる音と地鳴りを聞いたこと、探ってみたら世界樹の洞にスイッチを見つけたこと、そうしたらこの通路に出たこと。
それらをじっと聞いて、リュネルは唸った。
「世界樹から遺跡に繋がっていたなんて、驚いた」
「私たちも驚きました。まさかイェソド遺跡の中がこんな風になっていたなんて」
「普通の人は知らなくても仕方ないよ。一般的に有名なのは外側だけだから」
「外側?」
「そ。観光地になっているのは、私たちの感覚で言えば、玄関から門の外までの道みたいな感じ。そして、隠し通路から入ったところが、ここ居住区なの」
リュネルの説明に、今度はマモルたちの首が傾いていく番だった。
「居住区に罠があるのか」
先ほど砕いた岩を眺めてマモルは唸った。危険すぎやしないか。
「古代の遺跡だからねえ。それだけのことをしなきゃいけなかったのかもしれない。それに、居住空間らしき場所があるってだけで、本当にそうなのかも判っていないし」
だからまだ一般公開されていないんだよと、リュネルは言った。
マモルは腕を組んだ。アンタレスの言葉が脳裏を過る。
――奴は同族でありながらボクたちの祖を手にかけ、空の星として封印したんだ。
「なるほど。かつて人々は何らかの理由で地下に住んでいて、地上に移る覇権争いをしたと考えれば道理は通るな」
「覇権争い?」
「ああ。俺たちは、ある男を追っているんだけど。そいつがエヴァグリオスについて、地上を奪った大戦犯だと言っていたんだ」
「なにそれ、ちょっと詳しく!」
ずいと身を乗り出してきたリュネルの勢いにマモルは少したじろいだが、瓦礫に腰かけ、昨夜のことについて、ぽつりぽつりと語ることにした。
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