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27.渇望を以て

 飛び上がったマモルたちは、出来得るだけ町に被害が及ばないよう、アクワリオに空中戦を仕掛けることにした。


 マモルが【強化眼】で屋根を駆けずり回り、飛び蹴りをかますピーラをバレーのレシーブのように打ち返す。【爆炎眼】で援護射撃をしつつ、彼女が傷つけば【清眼】で治す。


 しかしピーラの蹴りが命中してもアクワリオは損失したゲルをたちまち修復してしまうせいで、決定打にかけていた。


 また、どうしても【清眼】のワンテンポがリズムを崩す。そのタイミングはピーラが負傷し、マモルも攻撃の手を止めてしまう瞬間だからだ。



――わざわざスキルを唱えているのかい?


「(くっ、考えても仕方ないか……!)」


「マモル、前見て前!」



 ピーラの叫びにハッと顔を上げると、アクワリオの攻撃がもうそこまで迫っているところだった。



「ぐああああああっ!!」



 腹部に打ち込まれたマモルは、体をくの字に曲げてのたうった。


 胃液が逆流し、吐瀉物に咳き込んだことでスキルの詠唱がままならない。



「(早く……スキルを……)」



 既に腹筋の一部が溶け、最後の一皮である筋膜が無慈悲に顔を出した。もうあと数秒で、自分は臓器がこぼれ出て息絶えるのだろう。



「(やらなきゃ……いけないのに)」



 血を吐きながら、腕を突いて体を起こす。


 しかし、すぐに激痛に挫かれ、マモルは力なく伏せた。



「マモル! ああ、マモルってば! 嫌ぁ!?」



 駆け付けてくれたらしいピーラの涙声すら、遠く聞こえる。


 そんなマモルの耳に、鼓膜を超えて、まるで脳に直接信号を送るように響く声が届いた。



「――【治癒魔法(ヒール)】!!」



 体に痛覚が戻り、それは耳鳴りとともに消え、次に音が戻ってきた。


 風に乗って届く香りに、マモルは目を見開いて振り返る。



「ア……イ……?」



 苦労して屋根を登ったのだろう。服をどろどろに汚し、肩を大きく揺らして呼吸をする天使がそこにいた。


 その声を発した美しき口内で、聖痕が光を放っている。



「治癒は私が担います。マモル様とピーラちゃんは攻撃に集中してください!」



 アイはそういって、戦乙女のように勇ましく笑った。


 その声にすら、心を鼓舞(ヒール)する力が乗っているようだ。


 マモルは気合を入れて立ち上がる。彼女の笑顔を守るためなら、何度だって立ち上がって見せる。



「ありがとう、アイ!」


「行ってきます!」



 口々に声をかけ、マモルたちはアクワリオに立ち向かった。


 触手を躱し、時に撃ち落としながら、宙を舞う。攻撃を受けてもアイの声が心に響き、即座に反撃へ転じることができた。


 しかし、手数が増えても、奴の再生速度には追い付かず、毒は薄まる気配すらない。



「【龍爪地穿蹴(ドラゴニック・テイル)】! キリがないね、どうするっ!?」

「今考えてる! ――【激流眼】!!」



 毒手に水で穴を空けて攻撃を掻い潜りながら、マモルは思考を巡らせた。


 アクワリオは、マスキュラが暴走した時のように、スパイトを対象にして発動した呪いのようなもの。それはつまり、あの中に彼がいるということ。


 暴走したマスキュラとも会話は成り立った。そして、あの時アイを取り込もうとしたアクワリオにも、彼の意思が垣間見えた。



「(超深星爆発とやらを経た今、喋らなくなったのは気がかりだが……)」



 ただ、奴はこちらの声に反応して攻撃を仕掛けてくる節はある。ならば声は届くと思っていいだろう。



「賭けてみる。ピーラは道を開いてくれ!」


「何か視えたな? 頼りにしてっからね!」



 にぃ、と歯を見せてピーラが応える。



「うっらあ、【龍爪天翔蹴(ドラゴニック・ネイル)】!!」



 蹴り開かれた一本の道を、マモルは一目散に駆け抜け、アクワリオに肉薄した。



「(奴を倒すためには、神眼スキルで外側(ガワ)を『視る』ことに囚われていてはいけない……!)」


――御覧よ、あれがその第一歩『アクワリオ』さ!


――渇きこそが根源なんだよ!


「(そう、目を向けるべきは――君の内側だ!)」



 マモルはアクワリオの胸倉を掴む勢いで飛びかかった。がっぷり四つに組んだ手から、足から、体が溶けていくのが解る。


 それを死ぬ気で堪えて、叫んだ。



「アクワリオ、いいやスパイト! 今すぐ攻撃を止めるんだ。このままでは、アイまでもが傷つくぞ!?」



 アイという名前に、アクワリオがぴくりと反応した。しかしすぐに触手の動きが活発化し、背後でピーラとの攻防が再開した音がする。



「聞いてくれ、スパイト。俺も君の気持がよく分かるよ」



 渇望。それは生前のマモルも足枷のように引きずって生きていたものだった。抱え過ぎて擦り切れ、いつしか空虚に乾いたシロモノへと枯れてしまったが、心の中には常にどす黒く淀んだ感情がとぐろを巻いていた。



「俺はどうしようもない人間でさ、ずっと人に笑われて生きてきたんだ。仕事もできない、彼女もできない、人と会話することすら苦手だった……正直、君が現れた時も、諦めて逃げ出そうとしていたんだよ」



 手の感覚がなくなるのを覚悟で、さらに深くへと腕を突き入れる。アイの治癒魔法がなかったら、とうに死んでいる時間だった。


 だが、生きている。その時間を存分に使う!



「けれどそれは、俺がそういう楽な道を選んだ結果なんだ。自業自得なんだよ! 確かに人の気持ちを思い通りになんてできないかもしれない。けれど自分の心なら、自分で変えられる。自分で立ち上がるしかないんだよ、スパイト!」


『……ア˝…………ァ』


「そうだ、声を上げるんだ! 『深淵』なんかから目を背けるんだ!」



 手を伸ばす。本当なら奴の背中を突き抜けているはずの腕は、()()()まだ腐蝕ゲルの中を彷徨っている。


 探すんだ。隅々まで引っ掻き回して探り当てろ。



「俺はやるぞ! 必ず奴らから世界を守る! だってここで逃げるようなら、アイやピーラに顔向けできないから! 彼女たちの隣に立つために、俺、頑張るから!」



 指先に何かが掠めた。それに追い縋るように、それを招くように、手首を動かす。


 そして、握った。



『……ダズ、ゲデ』


「任せろ。だから君も頑張ってくれ、スパイト! ――【清眼(パナケイア・アイリス)】!!」



 腕を引き上げる。彼の体が溶けてしまわぬよう、引っこ抜いた傍から修復していく。


 やがてマモルの体はぐらりとよろめき、落下する。


 それは、アクワリオからコア(スパイト)を抜き切った証だった。



「マスキュラあ!! 受け取ってくれえ!」



 【隼鷹眼】で見つけ出した大男へ向かって、スパイトの体をぶん投げる。



「――んで、自分の体はどうするつもりだったんよ?」



 背中に温もりが当たり、風を切る感覚が止まった。



「勿論、君が来てくれるって思ってたさ」


「へえ、嬉しいことを言ってくれますねえ。そいじゃ、よく捕まってなよ?」



 ピーラに抱えられたまま、抜け殻となった痛みに身を捩らせるアクワリオへと視線を定める。



「「喰らえ、【龍爪爆炎天翔蹴ドラゴニック・フレア・ネイル】!!」」



 一条の流星が、夜空を切り裂いた。

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