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26.超深星爆発

 ピーラに撃ち抜かれたアンタレスは、絶叫を上げてのたうった。だが、後から追いついてきたアクワリオの毒腕によってピーラとマスキュラは弾き飛ばされ、最後の一押しまでは叶わずに終わってしまう。



「【強化眼】!」



 マモルは自身に強化をかけて地を蹴り、ピーラとマスキュラを受け止めて【清眼】をかけた。



「ぐ、があっ! ああクソ! このボクが、人間ごときに……!」



 空ではアンタレスが、穴の開いたどてっ腹に手を当てて憎々しげに呻いている。



「嘘、あの傷でも生きてんの!?」



 ピーラが愕然と声を上げた。


 アンタレスはそれに気を良くしたように、ぐっと口角を持ち上げて嗤う。



「……当たり前だよ。ボクたちは人間よりずっと崇高な存在だからね。血の薄められた聖痕如きに斃されるなんて有り得ないのさ」



 ごふっと血を吐き、ああ、と嘆くように息を漏らす。



「とはいえ、ちょっとキツイね……口惜しいけれど、ここらでボクはお暇しようかな」



 擦れた声で吐き捨て、アンタレスは振り返った。



「こっちを見るんだ、アクワリオ」


『ガ……ア˝ァ?』



 巨人のコアのような眼球がゲルの中を彷徨い、アンタレスの目前まで辿り着くと、彼はそれを慈しむように微笑みで迎え、手を差し伸べた。


 蠍の爪とは異なる、禍々しい光の腕が、コアにぬぷっと沈んでいく。



『ガォ、オア……』



 巨人ははじめ驚いたようにびくっと体を波打たせたが、すぐに従順になった犬のように頭を垂れる。



「ようし、いい子だ。見せてあげなよ――君の【超深星爆発(アビスノヴァ)】を!」



 その時、ひとたびアクワリオの巨体が大きく鳴動したかと思うと、それは眩い輝きとなってアンタレスの掌にすっぽりおさまるくらいにまで収縮し、それから波紋のように放出された。


 夜の闇が昼間のように明るく染まり、空の星を掻き消す。それはまるで、空に光の網をかけて星の力を吸収しているかのようでもあった。



「な、なにが起きているのよ、マモル!?」


「わからない、どうやらあのアンタレスという奴は『解析眼』では視えないらしくて。その力が注がれてから、アクワリオの方も視えなくなった!」


「えっ、まじ?」



 得体の知れない敵について、ピーラが苦い顔をする。



「けどまあ、普通は視えないもんだからね。まだマイナスじゃないしへーきへーき!」



 そう言いながら彼女は、手首を回したりとんとんと小さくジャンプしてみたりと、準備運動のような動作を行う。



「何か作戦があるのか?」


「そんなものあると思ってる? 先手必勝の断☆罪(ブッコロ)しかないでしょうよ。乗る?」


「ああ、乗ろう!」



 マモルはピーラに並び、夜の戻った空を見上げる。


 二人で飛び立ち、アクワリオだった光を掻き消そうと同時に蹴りを打ち込む……が、突如としてヒトの形を成した光の腕がそれを阻んだ。



「が、あああああああっ!?」

「ぐ、うううああああっ!?」



 掴まれた足首に走る灼け付くような痛みにマモルたちは絶叫した。


 光に色が戻れば、そこには、淀みの一切がなくなり、純粋に澄んだ毒の魔人が現れていた。



「さあアクワリオ。この町は壊していいオモチャだ。遊んでおいで」



 じゃあね、と姿を闇に溶かしていくアンタレスに、アクワリオは嬉しそうに首を振る。



「くそっ、くそお、【清眼】!」



 マモルは叫んだが、毒の手が邪魔で足の修復はままならなかった。視れなければ作用はしない。それは『神の眼』とて同じらしい。



「ちぃっ、【龍爪地穿蹴(ドラゴニック・テイル)】!」



 ピーラが脚を薙いだことで、アクワリオの手が緩んだ。しかしそれは、実質宙づりにされていたマモルたちにとって、真っ逆さまに落ちるのと同義である。


 無防備の二人に、アクワリオの体から伸びた毒手が放たれた。形成された拳のような先端は、巨人の時の大きさを保ちながら、その速度は遥かに上を行っている。



「【爆炎眼】!」



 なんとか視点を固定して叫ぶが、毒の触手は縦横無尽に空を駆け、炎を躱して迫って来た。むしろ、その移動距離を与えてしまった分、速度を更に増してしまっている。



「しまっ――」



 万事休すか。マモルの目を閉じまいとする心が折れかける。

 その時、



「――()えっ!!」



 地上から一斉に発射された炎に雷、氷といったスキルの槍衾が毒手を貫いた。


 危機を脱することができたが、しかし、マモルの視界に映った落下地点は、猛毒で満たされた水路だった。



「落ちる落ちる落ちる!?」


「喚くなたわけ!」



 不意に怒声がしたかと思うと、飛び上がった人影に首根っこを掴まれ、そのまま振り回すように勢いを殺しながら石畳へと運ばれた。


 マモルがほうほうのていで顔を上げると、眉間がちぎれんばかりに皺を寄せた男から見下ろされていた。



「……警吏補?」



 スタボーンはフンと鼻を鳴らし、また「射ぇ!」と号令を発した。見れば後方に控えた警吏官たちが空にスキルを放っている。


 マスキュラにキャッチされていたらしいピーラがびっこを引きながらやってきたのを、スタボーンがじろりと一瞥する。



「マモル・ツネミ。早く彼女を治してやれ」


「あ、はい!」



 マモルは【清眼】を起動し、ピーラの足を修復した。それに不愛想に頷いたスタボーンは、口を開く。



「貴様らがどうしてここにいるのかは知らん。だが、貴様らが何をしているかは把握した」


「スタボーン警吏補……」


「止められるか? アレを」



 厳しい双眸が、ぎろりと問うてくる。



「止めます!」



 マモルは力強く頷いた。「右に同じ」とピーラが声を上げると、スタボーンはそうか、と短く頷いた。



「地上の奴らは我々に任せておけ。マスキュラ・ビルダー殿、よろしく頼む」


「仰せつかった!」


「二人とも、ぬかるなよ」


「「はいっ!」」



 散開していくマスキュラやスタボーンたちの背中を見送るともなく、彼らに背を向けるように振り返ったマモルたちは、視線を交わす。



「往くぞ!」――「がってん!」

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