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25.夜天翔ける龍

「【龍爪天翔蹴(ドラゴニック・ネイル)】!」



 マモルの脳天に爪が立てるまさにその時、飛び込んできた太ももが、アンタレスの腕を蹴り弾いた。


 ピーラはそのままマモルの体をラリアットのように押し上げつつ、敵から間合いを取る。



「待つつもりが、待たせちゃったっぽい?」


「いいや、今来たところだ!」



 胸を張って答えると、景気よく背中を叩かれた。


 腕を蹴りつけられたアンタレスは、赤く腫れた腕を不思議そうに眺めてから、その表情を険しくさせた。



「その脚……ちっ、聖痕の末裔か」


「お、コレ知ってんだ。一体これがなんなのか教えてくれない?」


「誰が教えてやるものか! ――アクワリオ!!」



 アンタレスが呼びつけるのを見て、マモルたちは危険を察知し飛び退る。


 立っていた場所に、巨人の拳が叩きつけられていた。



「ちょ、なんか溶かす力強くなってない!?」



 しゅうしゅうと異臭を上げながら溶け爛れていく家屋に、ピーラが悲鳴を上げた。



「やっぱり対処法は見えてない?」



 引き攣るように竦む肩を、マモルはそっと手を置いて宥める。



「アイのおかげで新しいスキルを得た。その力は、俺が視たものを治せるんだ。もっとも今はまだ、見たことがあるものをその通りに修復する、という意味合いに近いけれど」



 ピーラはなんぞむつかしいこと言ってやがんな? と暫く目を瞬かせていたが、すぐに「ま、いっか」と手のひらに拳を打ち付けて思考放棄をした。



「要は治せるってことでしょ。ウチの体、ちゃんと覚えてくれてる?」



 その肩に並んで、マモルは頷く。



「ただ、バスタオル越しだったから胴体は無理!」


「正直でよろしい!」



 ノールックで手を拍ち合い、駆け出す。



「【龍爪(ドラゴニック)――」


「何度来ても同じだよ。人間風情が!」



 射線から外れるようにアンタレスが飛び上がり、腕をサソリの尾のように鋭く光らせた。


 ピーラはそれを待っていたとばかりに身体をしならせ、脚の軌道を変化させる。



地穿蹴(テイル)】!!」



 彼女が発動したスキルは直線型の砲弾『天翔蹴(ネイル)』ではなく、薙払型の『地穿蹴(テイル)』。


 龍が払った尾が地面を抉るように、強靭でしなやかな鞭。


 しかしアンタレスはそれをすんでのところで躱すと、口角を歪ませた。



「危ないなあ。聖痕の末裔とはいえ当たらなければ――」


「【爆炎眼】!!」


「っ!?」



 アンタレスは焦りに一瞬目を見開いたが、巻き起こる炎の芯に腕を突き刺すと、その爆発を止めてしまった。



「何っ!?」


「あははははっ、驚いたかい? ボクの爪は、スキルすら殺すことができるんだよ。だから言ったじゃあないか。わざわざスキルを唱えているような君たちじゃ、ボクには勝てないって」


「くっ……」



 マモルは歯噛みした。さっきから何度も念じることでのスキル発動を試みてはいるのだが、一度足りとて成功の兆しが見えない。


 自分のレベルが未熟なのか、奴らとこちらでは性質がまるで違うのか。



「(くそっ……出ろよ、出てくれ【爆炎眼】!)」



 右目に神経を集中させる。それとも、奴の言う『右目』だからなのか。


 その視界の向こうに、炎が――いや、青い光が煌めいた。


 そうだ。今の俺は一人じゃない!



「【爆炎眼】!」


「おっと!」


「【龍爪天翔蹴(ドラゴニック・ネイル)】!」


「――っ!?」



 爆発を躱して飛び上がるアンタレスを、ピーラの脚が猛追する。

 だが、



「――知ってたよ。目は口ほどに物を言うってね!」



 アンタレスが勝利を確信したようなギラつく双眸が、マモルを見下してくる。


 そこでマモルは、これがミスであり、その原因が自分にあることを思い知らされた。



「そして、君たちの目はどうやら曇っているようだ。()を忘れてないかい?」



 アンタレスが手を払うと、その頭上から巨人の拳が振り下ろされ、ピーラの蹴りを撃ち落とした。



「きゃああああっ!?」


「ピーラ! 【清眼(パナケイア・アイリス)】!」



 力なく宙を舞うピーラに視線を合わせて、その脚を修復する。どうにかバランスを取り戻した彼女は、猫のように体を回転させて着地した。



「あんがと! ……にしても、あいつちょこまかと!」


「その顔、ゾクゾクするよ。困ったねえ。大変だねえ。『神眼』で治すことができても、ボクを倒せないんじゃあ意味がないねえ! あーーははははは!!」



 アンタレスが空を仰ぐように高笑いをする。


 しかし、その顔に影が差し、笑い声が遮られた。



「捕まえたぜ、この野郎」


「貴様は、あの時の……」



 アンタレスの背後へ飛び上がって現れたマスキュラが、その首と腰をたくましい腕っぷしで縛り上げる。



「マスキュラ!?」


「おい二人とも、俺様ごと撃て!!」


「くっ、失敗作の分際で、このボクに歯向かうか!」



 藻掻くアンタレスの力はその線の細い体から想像するもの以上に強いらしく、マスキュラの顔が厳しいものに変わっていく。



「急げ!」



 マモルとピーラは頷き、構えた。



「ウチが行く。マモルはアレお願い!」


「わかった。【強化眼】!」



 神の眼へと変わったことで更なる強化の恩恵を受けたピーラは、全身に流れる聖痕の龍脈を感じるように腰を下ろし、飛び上がる。



「【龍爪天翔蹴(ドラゴニック・ネイル)】!!」


「やめろ、くそっ……来い、アクワリオ!」



 アンタレスが叫ぶが、それに応える拳よりも早く、竜が夜空に飛翔する!

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