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終回:カウントアップは止まらない

「魔王城前で油断するとまようじょー! なんちてー!」

「いーかげんに、しなさーいっ!」


 またいつもの光景に戻ってきたが、ちょっと今はリアクションをする余裕が無い。

 寄り道をせず真っ直ぐ魔王城に向かい、ヴィオラが三人を瞬殺するところを見届けた。


 ヴィオラは邪魔者が居なくなるとすぐさま闇を振り払い、物凄い迫力でこちらを睨み付けてきた。まだ何も言われていないのに、気持ちが小さくなってしまう。


「バッドエンドだったではないか!!」

「いや……本当すみません…………」


 あんなことを言った手前、死に慣れた自分でも結構キツい終わり方だったのを含め返す言葉が無い。

 良かったことと言えば、あの状態でセーブされなかったことくらいだ。


「大体なんだあの不自然なメッセージは! 心当たりは無いのか!?」


 そこに関しては俺も気になっていた。あれは明らかに何かが起きるのを中断された感じだった。

 このループに陥る前の今までの冒険を思い返していくと、あることに思い当たり「あ」と声が出る。


「そういえば、魔王城に行く前、崖を突破して洞窟の幹部を倒しに行ったんだけど、そこの橋が壊れていて、精霊に捧げ物をして橋を作って貰わないといけない流れだったんだ……」

「……まあ、ロールプレイング的に考えたらよくあるアレだな」

「俺、捧げ物集めるのが面倒くさくて、よく見たらギリギリ通れそうな隙間あったからそこ通って行った……」

「そ れ だ」


 魔王は牙を剥き、元々鋭い目付きをさらに鋭くさせる。


「本来起こるべきイベントを回収せず、強引に突き進んだら問題が起こるに決まっているだろう!」

「だ、だって、行けそうだと思ったから……」

「ここにだってロクに回復もせず『行けそうだと思った』で来たのだろう! 何も考えずセーブしたのだろう! 詰むべくして詰んでるんじゃないか!!」


 城にゲーム機でも置いてあるのか、存外ゲームに詳しいヴィオラに正論で説教され、何も言い返すことが出来ない。


 というか、確かに行けそうだと思ってなんとなく来てうっかりセーブしたけど、そこまで言わなくたって……。


「しかし参ったな、回収し損ねたフラグでエンドが変わるとは、制作者は中々に性格が悪いらしい」

「確かに、強引に突破してバグるならわかるが、エンディングが変わるってことは仕様だな」


 プレイヤーの反感を買うため珍しい方ではあるが、バグの利用に怒りを覚えた制作者が設置する、所謂『トラップ』のようなもの。

 俺は、まんまとそれに引っかかってしまったというわけだ。


「本当、どうしたもんか……」


 困り果てて頭を掻いていると、ヴィオラが深い溜息を吐いた。


「……今までのように、タクトが死にながら何か探すしかないな。救済措置があるかもしれない」

「だよなあ……、いや、数えるのをやめたくらい死んだ身としては、目的がある今の方が断然楽だけど」


「それに、どうしてもどうしようもなかった場合は」


 多少言い淀んで、魔王は指先を合わせ、こちらを見た。


「……、ずっと、ここに住んでくれても良いのだぞ?」

「え?」

「本もゲームもあるし、食べ物だって私が魔法でいくらでも生み出せる。不自由はしない。丁度良いことに、貴様が幹部共を倒してくれたおかげで、部屋ならいくらでも空いている」


――それは、その、婚約者になったから、とかいうベタな展開でか?


「いいや、違うね」


 と俺の恥ずかしい言葉は一蹴された。


「単に〝貴様の存在に共感し、好意を抱いたから〟とでも言った方が正しかろう?」


 ヴィオラは悪戯な笑みを口元に浮かべ、魔王らしく腕を組み恰好付けたポーズを取る。


「……、まあ、俺は遠慮しておくがな」


 返答が予想外だったようで、ヴィオラは一瞬目を丸くしたのち、不満そうに細めた。


「なんだ。結婚による和平が失敗した以上、魔物とつるむ必要性は無いとでも?」


 拗ねたように吐き捨てるヴィオラに、胸の内を伝える。


「俺はヴィオラの願いを叶えたい。いくら広い城だって、閉じ込められてちゃ窮屈だろ? だから、それが叶うまで、諦めることはしたくないんだ」


 勇者だからな、と格好良く付け加え、口角を上げて見せた。

 ヴィオラもふ、と凜々しく息を漏らして背を向ける。


「そういうことなら、期待しているぞ。頼もしい味方が出来て私は嬉しい」

「お互い様だ。これからは協力して、どちらも幸せになれるハッピーエンドを探し出そう」


 言葉を交わし合って、ヴィオラに開けて貰った扉から魔王城を出た。


 体力も回復してもらったが、やはり俺一人では限界もあるだろうし、何ループかしたら事情を説明してヴィオラに回復してもらい、仲間達にも手伝って貰おうと思う。


 色々あって荒んでいたが、なんだかんだここまで来るのはあいつらのお蔭でもあったし、チャイムはともかくある意味で単純なベルや、中身は誠実だったゴングも根気よく説得すれば理解してくれるだろう。


 ……毎回毎回説得することになるので、出来れば何度も回って結果が出ない時の最終手段にしたいが。


 このループに救済はあるのか。俺達二人とも幸せになれる道はあるのか、それはまだわからない。

 でも、俺は世界に恵まれた勇者だ。俺があると信じれば、きっと存在してくれるはず。


――さあ、俺はあと、何百回死ぬことになるのだろうか。

 そう考えても、以前程の絶望感はなく、寧ろ未来への期待、希望の方が大きかった――

以上、息抜きに書いた短編小説でした。

少しでも楽しんでいただけた方がいたなら幸いです。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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