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三回目:チャイムは二度死ぬ

――夢に出るわ……。なんだよあの顔……今まで見たどの魔物より怖かったわ……。


 というか魔王城の傍でトラップとミミックに厳重に守らせてたのが呪い装備ってなんだよ……嫌がらせかよ……。嫌がらせにしても呪いの効果がキツすぎる。なんて悪質なんだ魔王の野郎。絶対殺してやる……。


「って、殺せないからこの状況に置かれているわけで……」


 自分で状況にツッコミを入れ、空しくなる。俺以外誰もこの現状に気づいていないから仕方がない。


「魔王城前で油断すると迷うじょー! なんちて!」

「いーかげんに、しなさーい!」


 目の前で、こんな寒いやり取りが繰り返されるのも仕方がないのだ。


 正直ループ三回目くらいから既に腸が煮えくり返っているが、ここで行動を起こしても俺が頭おかしいヤツになるだけだ。我慢、我慢。


 しかし、あのロクでもない指輪。あれが新たな発見であり、現状打破への唯一の足掛かりと言っても過言ではない。


 もしかしたら、最早負けイベントなんじゃないかと疑うほど勝てない魔王にこれを使うと、何か起きるのかもしれない。


 ……もう一度皆を説得し、チャイムの馬鹿を見守り、アレを取りにいかなければならないのかと思うと気が滅入る。記録帳をもう一つ買っておくべきだった。


 ***


「ケチ! ほんのちょっと装備してみるくらい、いいじゃない!」


 後ろから罵声を浴びながら、禍々しい呪いの指輪を丁寧に仕舞った。


「ほんのちょっとが命取りなんだよ。大体、見るからに呪われてるだろこの指輪は」

「そんなの装備しないとわからないじゃない!」


 指輪を欲しがるベルだが、こちとらついさっき地獄を体験したばかりだ。意地でも渡さん。


 大体、俺は勇者だから呪い装備を判別できるんだよ。変なマークが見えるんだよ! お前達が信じてくれたことは一度たりとも無いけどな!


 こんな時、チャイムが生きていたら良い顔をしようと、俺から指輪を奪い取って『指輪は可愛い女性にこそ似合う。彼女にも、装備する権利がある』だかなんだか適当なことを言ってベルに渡していたことだろう。


 幸い……、じゃない、残念なことに、幸い今あのクズは携帯棺桶の中だ。アイツがミミックに食われる未来は変えられないらしい。変える気が無かったわけではないのだ。


「むー……、まあいいわ、いよいよ魔王城ね。チャイムが居ないけれど大丈夫かしら……」


 大丈夫だ。アイツは居てもクソの役にも立たなかった。


「あ、そうだ! 蘇生アイテムが一個余ってなかったかしら?」


 余計なことを言い出すんじゃない。

 確かに、今手元には一つだけ蘇生アイテムが残っている。

 最も、HPを1だけ回復して蘇生するという現状打開には何の役にも立たない物だが。


 ……まあ、使うのを渋る理由もないし、いざとなれば盾になるかもしれないし、生き返らせてやるか。あんな奴でも一応ここまで来た仲間だし……。


 ***


 重々しく、俺の身長の何倍もある古風な雰囲気の巨大な扉が開き、俺達を招いてくれる。


 初めてこの扉を見た時は『こんなもん物理的に開けられるわけないだろ常識的に考えて』などと思っては居たが、魔王軍の技術進歩も中々のものだ。まさか自動ドアだとは。


 そして相変わらず入って直ぐの広間にある玉座に腰掛け出迎える魔王。どういう原理なのか、強い逆光でもあるかのごとく影になっていて人型のシルエットしかわからない。 


 そもそもなんでこんな所に居るんだコイツは。ボスはボスらしく引っ込んで道中にレアアイテムでも置いてろ。


「今回は随分と遅かったではないか勇者共よ、怖じ気づいていたのか?」


 魔王の挑発するような言葉に反応し、ベルとチャイムが前に出る。


「うるさいわね! ちょっとコイツのワガママに付き合って寄り道してたの!」

「例え勇者さんがチキっていたとしても、私達はけして屈しません!」

 さりげなく俺の株下げて自分の株上げようとするな。

 魔法攻撃が通用せずゴングが切り捨てられる流れまで前回と同じなのでカット。


「勇者さん今です! 秘策を出すなら今ですよ!」


 チャイムは相変わらず誰かやられると俺の後ろに隠れやがる。盾にもなりゃしねえ。

 使い方はわからないが、こんな奥にあった指輪だ。何かあるに決まってる!


「これを見ろ、魔王!!」


《タクトは呪われし漆黒の闇を封じし暗黒の果てに放たれた宵闇の指輪を掲げた!》


――ネーミングセンス!!


 無駄に長いが要するにただの『闇の指輪』じゃねえか!

 しかし、これだけ派手な名前なんだ、これは間違いなく何かある筈だ!


《しかし 魔王は気がつかなかった!》


 そんな無慈悲なメッセージが、俺の前にでかでかと現れる。


 すぐ目の前で、全身を闇に覆わせた強大な魔王が今、鋭い爪を振り上げた。


 絶望しそうになったが諦めるのはまだ早い。『効果が無かった』ではなく『気がつかなかった』これはつまり、気がつきさえすれば何かある可能性が高い!


――ここは一度回避行動を試みて、一気に距離を詰めてもう一度!


「何してるんですか勇者さん! 早く秘策を! 必殺技を!」

「ちょ、ちょっとタクト! なんとかしなさいよ!」


 全力で飛ぼうとした回避行動は、攻撃の標的になった仲間達に阻まれる。

 仲間を置いて避けるなんてとかいう精神的な物ではなく、物理的に。


「やめろお前ら! 俺を盾にするんじゃ――」


『魔王のこうげき!』

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