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一回目:一から数え直す詰みセーブ

 眩い輝きを見て激痛と共に意識が遠のき、軽い頭痛と共に目が覚める。


 辺りを見回す。正面の少し離れた場所には魔王城。周囲は草木も枯れ荒れ果てた荒野。


 そして背後には、崩れ落ちてもう後戻りは出来ないぞと囁く巨大な橋。


 ここからの景色を眺めるのは、これで何回目になるだろうか。


「いよいよですね。気を引き締めて参りましょう。魔王城前で油断すると迷うじょー! なんちて!」

「いーかげんに、しなさーい!」


 チャイムとベルのこのクソ寒いやり取りを聞くのも、これで何回目になるだろうか。

 禍々しく淀んだ空を見上げ、幾度とも知れぬため息を吐いた。


 俺達は何度でも魔王に挑み、何度でも儚く散る。何故なら、そうするしかないからだ。


――俗に言う『詰みセーブ』をしてしまった俺達には。


(……正確に言えば、俺には、か)


 仲間達に同じ時を繰り返している認識はない。その証拠に、あいつらは時が始まった瞬間同じことを言うし、魔王に会った時は同じようなことを言って同じような死に方をする。


 零れる溜息を抑えきれない。無駄なことだと知りながら、全員のステータスを見てみる。


 体力は残り一割を切り、赤く危険を知らせている。魔力もスッカラカンだ。後方でサボッていたベルだけ多少余裕はあるが、戦闘の度に一番前に押し出された俺と雑魚相手に格好付けて派手な上級魔法を無駄遣いしていたチャイムはもう下級魔法の一つも使えないし、生憎ベルは回復魔法は覚えてない。


 魔王に挑むどころか、魔王城周辺のモンスターに一度出会えば全滅してしまうことだろう。もっとも、この辺りにモンスターは出ないし、それがより一層詰みを加速させているのだが。


 町のある大陸と魔王城前を繋ぐ橋は見ての通り渡る際の戦いで崩落してしまい補給に戻ることは出来ないし、このマップに回復できる場所も無い。どこもかしこも荒れ果てていて、薬草の一つも生えちゃいない。


 魔王城は外面こそでかいが、魔王はボスのセオリーを無視して一階入ってすぐの広間で待ち構えている。入った瞬間仲間が前に出て戦闘が始まるので探索は不可能だ。


 “詰んでいる”その事実のみが、重くのしかかる。


 きっと、この世界は気まぐれな神様が作ったゲームの中なのだ。それも、大いに欠陥がある――いわゆる、『クソゲー』だ。


 どうしてそう思うのかと言うと、この世界にもゲームというものが存在していて、電子画面の中で魔王を倒した勇者の冒険と、自堕落な生活を送っていたらある朝突然魔王が復活しただの勇者の子孫だっただの言われ冒険に駆り出された俺の状況が酷似しているからだ。


 敵を倒せば何故か金貨を落とすし、死んだと思ったら前に魔法のかかった記録帳に日記を書いたところからまた時が始まる。


 この記録張も勇者の一族にしか使えないのに何故かどこの町でも売ってるし、道端に落ちている物の取得権利だって俺にある。今思えば、何もかも都合が良すぎたのだ。


 ちょっと戦うだけで腕っぷしもメキメキ上がって、魔法だってロクに勉強してないのに回復魔法も攻撃魔法も補助魔法も何でも覚えた。


 才能と血統の力でちょいと魔物を伸せば人々に感謝されてもてなしを受け。死なないし、簡単に強くなれるし、名声も得られるし、仲間関係以外は世界は俺を中心に回っていると断言できる程タイミング良く事が進むし、正直『勇者って最高の勝ち組じゃね?』とか思ってた。


 今の状況を生み出した半分はそうやって図に乗っていたせいだと思ってる。後悔してもしきれない。


 ちなみにもう半分は『記録ポイントがアイテムの上に使い捨て』という一見便利に見えて明らかに詰ませに掛かってるこの仕様のせいだ。


「ちょっとタクト、いつまでぼーっとしてるのよ! まさか怖じ気づいたんじゃないでしょうね!」

「タクトさんは少しばかり慎重過ぎるところがありますね。そんなに悩まずとも、今の僕達の手に掛かれば魔王なんてイチコロ。何の問題もありませんよ」


 何もかも問題だらけだから悩んでるんだよ死ね。

 そもそも何でお前等は残り体力一割魔力スッカラカンでそんな元気なんだよおかしいだろ。


 ……なんて、思いはしても口に出しただけで無駄に疲れるだけなのは経験済みだ。


 なので、とりあえず一方的に、作戦だけ伝えよう。


「みんな、決戦の時は近い。……が、もう少しこの辺りを探索してみないか?」


 えーっ、と露骨に不満そうな声がベルから上がる。が、無視だ、無視。


 詰んでからというものの、半ば自暴自棄になって何度も何度も数え切れない程魔王に突っ込んだ結果、今のままではどう足掻いても勝てないことはわかった。この体力では初手の固定行動であろう全体攻撃で一掃だ。


 せめて攻撃パターンや弱点の一つでも、とは思っていたが、それ以前の問題だ。


 まともな戦闘にすら入ることが出来ななんて、レベルや装備や体力の問題もあるだろうが、恐らくは何かのフラグが足りていないのだろう。


 いい加減、このループにはうんざりだ。今回で終わらせてやる――のは無理だろうが、ヤケになるのはもう止めて、一から知識を積み上げて、本格的な攻略に入ろうと思う。


 今世の俺がするべきことは、何か変化を起こすこと。この荒れ果てた世界を隅々まで探索して、アイテムの一個、エンカウントの一つでも良いから、探し出す!


 怪しいとすれば魔王城の対極にある、元々森だったのであろう巨大な沼地だ。遠目で見て一目で毒沼地帯だと分かったので近寄らなかったが、アイテムを隠すには打って付けだろう。


「ねえ、どこまで行くのよ……」


 不満を言いながらも付いてきたベルが、俺が足を止めると同時に立ち止まり、正面を見て目を見開いた。


――やったぜ、ビンゴだ!


「あれは……宝箱です!」


 俺が指示するよりも早くチャイムが目を輝かせ、宝箱に向けて一直線に駈けだした。中身がゴールドだったらいくらかちょろまかす気満々だ。

 思い通りにさせてたまるかと後方から見張りながら歩を進める。


「金銀財宝は俺のもんじゃー!!」


 完全に素を出したチャイムが毒沼を跳び越えて宝箱にダイブした、その時。


「ブベラッ!!」


 バチッと嫌な音が響き、チャイムが無様な悲鳴を上げその場に倒れ込んだ。

 ベルが慎重に近づき、頬を叩く。


「ちょっと、どうしたの!? 魔王を目前にして何があったのよ!! ねえ!!」


 バシッ! ベキッ!! メキッ!! ドゴォッ!


――叩き過ぎではないだろうか。


「し、死んでる……!」


 トドメを刺したのはお前だと思うぞ。

 しかし、チャイムのおかげで宝箱の周囲に張られた罠に気付くことが出来た。


 まさかあのクズに感謝する日が来るとは思わなかったが、千載一遇のチャンスだ。これで、今の膠着した状況を少しでも変えることが出来るかもしれない。


 目の前にあるのは今の俺にとって唯一の希望! 暗雲に差し込んだ光!


 今まで何度も見たことのある形状の宝箱だが、今ばかりは後光が差しているかのように輝いて見える。


 さあ、ついに、ついに悪夢のループを終わらせることが出来るかもしれない希望がこの手に――



 《なんと 宝箱はミミックだった!》




新年明けましておめでとうございます。

2024年、皆様が楽しくお過ごしできるよう祈っております。

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