表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

■回目:数えるのは、もうやめた。

 俺はタクト。ひいお爺ちゃんが勇者だったからって成り行きで勇者させられてる村人A。

 平和に暮らしてたんだけど、魔王が復活したからって突然王都に突き出されて、当然のように勇者にさせられて、魔王を倒して来いって命令された。


 何回断っても聞き返されて、根負けして頷いた途端こんぼうと小銭だけ持たされて外にぽい。でもなんだかんだあって、魔王城まで辿り着くことが出来たんだ。


「よくぞここまで来たな、勇者!」


 目の前で、玉座に腰掛けていた闇が暴風と共に肥大化する。

 闇はグルグルと渦巻いて竜巻を作り出し、それは衣のように中心の存在――魔王に纏わり付き、角の生えた巨大な黒い化物へと変化させた。


「ついにここまで来たわね、皆! 気迫で負けたら駄目よ!」


 淡く輝く宝石の填められた杖を構え鼓舞するのは、一番最初に辿り付いた町で仲間になった魔法使いのベル。くりくりとした青い瞳にぷっくりとした唇、あどけない顔立ちに桃色のおさげが似合っていて外面こそとても可愛らしく無垢な乙女のようだが、とんでもない。


 ちょっとしたことで暴力を振るってくるわ、稼いだ金は勝手に使うわ、可愛いのは外見だけだ。何故この外見で酒場に余っていたことを疑わなかったのか……自分を恥じる。


「武器は性能が全てじゃないわ、見なさいこの五万ゴールドの輝きを!」


 ちなみにあの杖は魔力増幅効果が高いと騙されボられたガラス玉が付いた木の棒なのだが、ああして自己暗示することで自分を慰めているらしい。


「オレ、ボス、タオス」


 この体長二.五メートルをゆうに超えている、棍棒を持った筋肉達磨は戦士のゴング。体に合う鎧が無いため、股間や肩など最低限守る必要がある部分のみ、布に改造した盾等をくくりつけた布を纏っている。


 コイツはベルと山を越えていた時、傷んでいた饅頭を崖下に投げたら這い上がってきた。何度森に帰そうとしても戻ってくる。怖い。彼が饅頭を咥えて顔を出した瞬間二度とポイ捨てはしないと誓ったが時既に遅し。成り行きで仲間になってしまった。


「マオウ、テキ、コロス」


 そもそもコイツは本当に人間なのだろうか。俺にはトロルに見える。


「行きますよ勇者さん!」


 そしてこの一見真面目な優男に見えるイケメン賢者、チャイム。コイツが最悪だ。格好良い顔で良いこと言っているがクズだコイツは。


 何がクズってコイツは元遊び人の上に詐欺師である。自身の顔が良いことを知っているから次々と女をたぶらかし、貢がせた金をギャンブルに注ぎ込んだ結果惨敗。たらふく借金をこさえたところで真逆の職業に転職し名前も変えて逃げた過去を持つ。


 旅の途中、一度助けられたくらいで仲間にした俺が馬鹿だった。コイツはけして世界を救おうなどと考えてはいない。勇者を隠れ蓑にして借金を踏み倒したいだけなのだ。


「正義は絶対に勝つのです、神は我らが行いを見守っておられます!」


 神様。本当に見守っているのならどうかこのクズに天罰をお与えください。


「ちょっとタクト、何をボサッとしているの!? ついに魔王なの、コイツを倒せば全て終わるの、世界が救われるのよ! しゃんとしなさい!」


 ああ、そうだな。ついに魔王だ。コイツを倒せば俺達の冒険は終わり、俺も家に帰れる。


――倒せれば、な。


 俺は知っているんだ。今の俺達では、魔王に勝つことは出来ない。


「ファイアー・ストリーム!」


 先ず、ベルが先走って魔法を撃つが効かない。マントみたいに靡かせた闇の衣に全部弾かれ跳ね返された魔法に当たって死ぬ。


「タオス。タオス。タオス。タオ――」


 ゴングは直線的な攻撃しか出来ず、あっさり防がれてカウンター発動で死ぬ。


「くっ……二人もやられた……! 勇者さん! ここは我らが勇者さんの力を見せてやってください!」


 チャイムはさらっと自分の行動順を飛ばして俺に回そうとする。戦闘開始時一番目立つ前に居たのに今すごい後ろに居やがる。

 正直全くやる気はしないが、カジノで展示されていた武器より若干弱い伝説の剣を構えた。


「ヒューかっくいー! さあやっちゃってください勇者さん! 無駄にでかいだけのクソ魔王なんかけちょんけちょんにしてやってください!!」


 クズがちゃっかり俺の後ろに隠れて魔王を煽り始めた。

 ホント腹立つコイツ。死ねば良いのに。


 ……まあその願いは、皮肉にも数分後には叶うことになるのだが。


「ほう……。威勢はあるようだな。良いだろう、手始めに私の力の一部を見せてやろう!」


 ノイズの掛かった迫力のある声が、この空間全体に反響した。

 魔王を取り巻く闇が更に肥大化し、それが一瞬で一気に収縮する。

 そして、それがビッグバンのような煌めきと共に一気に爆散した時――


『タクトたちに300のダメージ!!』


――俺達は全滅する、というわけだ。

半年ぶりにこんにちは、ナツキです。

今回はループ物で書かせていただきました。数日に一度の投稿になると思いますが、よろしくお願いします。

評価・感想などいただけますと大変喜びます。


1話目ですが年の瀬ですね。皆様良いお年をお過ごしくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ