6話 屋上
それから一週間と時間が経ち、若宮はすっかりクラスに馴染んでいる。
俺に話しかける回数も日を追うごとに減っていった。代わりに桐屋たちと話しているのを一日に何度も見るようになる。
……まあ、そんな若宮の活躍もあってか、俺は桐屋から何かされる気配もなく平和な日常を送れていた。
このまま俺に関わらずフェードアウトしてくれてもよかったのだが、若宮はまだ諦めてないようだった。
「そろそろ復讐しようよ、私が敵の懐に入り込んだ今がチャンスだよ!」
誰かに聞かれていたら大惨事の内容を若宮は臆することなく言った。
屋上には誰もいない。俺はため息を吐いてから答えた。
「俺は夏希をどうにかしたら復讐を一緒にやるって言ったんだ。お前が陽キャになったからって何も関係ねえよ」
「いいじゃん、別に。後は夏希さんに近づいてちょちょいってやれば終わりだよ」
舌をぺろっと出して若宮は可愛いくポーズを決めた。
「そのちょちょいが現実的じゃないと思っているんだが」
そもそも夏希と仲は良くなさそうだし、まともに会話できるかさえも怪しい。
さらに夏希と桐屋を別れさせるのも難しく、そこに俺へ意識を向けさせるなんて不可能に近い。
若宮のポテンシャルの高さは認めるが、どう考えても上手くいくとは思えない。
「えー、本当にあの条件達成させなきゃダメ?」
「当たり前だ、無理なら俺はやらない」
「……むー、強情だなぁ」
ぷくっと頬を膨らませた若宮は何か言いたげな目で俺を見ている。
「なんだよ、なんか言いたいことでもあんのか」
そう尋ねると、若宮はしれーっとした顔をする。
「いやさ、水崎くんってやっぱり夏希さんのこと好きなんだなー、って思って」
「なんでそうなるんだよ」
冷たく言い放つと、若宮は少しムキになって言う。
「だって絶対条件をクリアしないとダメなんでしょ? 譲歩する気もないみたいだし、これって本気で夏希さんのこと狙ってると思っていいよね」
「俺はただ復讐なんてやりたくないだけだ。お前を納得させて断る為に利用しているだけに過ぎない。勝手な妄想はやめろ」
若宮は不服そうな顔をして下唇を噛んだ。
「じゃあ条件変えてもいい?」
「ダメに決まってんだろ、今の条件が俺にとって一番都合がいいからな」
おそらく若宮も内心わかっている。
このままだと俺を復讐に誘えない、と。
だからこそ俺は断固として変える気はない。
「うわぁ、やっぱり好きなんだ」
俺は若宮の煽りにも冷静に対応するよう心掛ける。
静かに深呼吸をしてから俺は答えた。
「……何度も言ってるが、俺はアイツに幸せになってもらいたいだけだ」
「幸せに?」
「ああ、そうだよ」
少し語尾を強めて俺は言い切った。
すると若宮が軽く吹き出し、笑う。
「ぷっ、あは、あはははっ……」
「なに笑ってんだよ」
若宮はニヤニヤとした顔つきで口角を吊り上げる。
「んーだって、彼女が幸せになることはないから」
そう断言して若宮は真っすぐな目でこちらを見ている。
未来でも見てきたかのような、自信満々の表情。俺は一瞬、動揺したがすぐに平静を取り戻す。
「なんでお前にそんなことがわかんだよ」
そう問いかけると、若宮は答えにくそうに目線を俺から逸らした。でもすぐに視線を戻して告げる。
「夏希さんはもうじき桐屋蓮司にフラれるから」
「フラれる?」
頭の中で整理しようとすると、若宮が間髪入れずに言葉を続ける。
「桐屋はもう夏希さんのこと好きじゃないからね」
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