2話 火花
昼休みの食堂、俺は隅にあるカウンター席に座って黙々とご飯を食べていた。
一年の頃は教室で食事をしていたが、若宮がやたら話しかけてくるから今日はここに逃げてきた。
あの女に復讐しないか、と言われてときめいたのは事実。それは認めよう、ただ若宮那花という女の正体がわからない以上、首を縦に振ることはできなかった。
「隣いいか」
チラッと顔を見る。まさか俺に話しかけているわけじゃあるまい。
すらっと長身で爽やかなイケメンは確実に俺を見ていた。
「……なにしにきた」
この俺の問いに、桐屋蓮司はニヒルな笑みを浮かべながら席に座った。
「教室で一人、学食で一人、そんな哀愁漂うお前を慰めにきてやったんだよ。同じクラスになったわけだし、仲良くやろうぜ?」
「…………」
「ははっ、無視かよ。いいのか、そんな態度とってよぉ」
「黙れよ」
桐屋はこの俺の言葉に少し驚いたような顔をした後、口笛を吹いた。
「ひゅー、カッコいいね。でも俺は黙らないゼ」
何か言いたげ様子の桐屋。
普通に考えて何の用もなく俺に話しかけには来ない。
「用がないなら早くどっか行ってくれ」
桐屋と並んで飯を食うこと以上に苦痛なことはない。
「……じゃあ言うけどよ」
ラーメンをずずっと啜った桐屋は少し間を空けてから言葉を続ける。
「お前、学校やめろよ」
「あ? なに言ってんだ」
「どうせお前、友達いない……てか作れねえじゃん? 部活やってるわけじゃねえし、学校来たって面白くねえだろ。やめた方がよくね」
友達と世間話をするようなテンションで桐屋は淡々と告げた。
「お前にそこまで言われる筋合いはない」
「アホか、お前。クラスの皆が思ってるぞ。早く学校辞めねえかなって」
クラス全員というのは大袈裟だが、桐屋のような考えを持っている奴が多数派であるのは痛感している。
「教室にな、辛気臭い顔したお前が居るとテンション下がるんだよ。一年の時はそれも面白かったけど、もう飽きちまった。だからもう辞めていいぞ」
もちろん俺も転校や退学を考えたことはある。
高校生活が楽しいとも、楽しくなるとも思ったことはない。でも、そうすれば完全に負けを認めたことになる。桐屋と元彼女の加害者側がのうのうと生きていて、被害者であるはずの俺が身を引かなければいけない。
それはあまりにも不条理だろ。
「何を言われようが、何をされようが、俺は辞めるつもりはない」
そう告げると、桐屋はつまらないと言った表情をして後頭部を掻いた。
「お前を辞めさせるよう仕向けることもできるんだが、それでもか?」
「当たり前だ」
「……まあ安心しろや。俺はお前に何もしない、お互いが楽しい高校生活を過ごして卒業できるといいな」
桐屋は俺の肩を軽く叩いて、席を立つ。
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