特捜刑事「相方」 俺の時代
俺の名は杉下左京。警視庁特捜班の警部補だ。
あまりにも間違えられるので、この前病院で、つい「左」を「右」と書いてしまいそうになった。
実は今日は誇らしいのだ。
俺の時代が来た。
我が警視庁は、遂に「特別捜査班」を発足させた事を大々的に発表したのだ。
わはは。どうだ、俺の実力は。
多分無能な部下である亀島はお払い箱になるだろうが。
「おはようございます」
いつものように特捜班室に行くと、無能が服を着ているような亀島がいた。
何故か亀島はとんでもなく上機嫌だ。
何があったのだろう? もしかして、この前の所轄合コンで彼女ができたのか?
「どうした、妙にご機嫌だな、亀島?」
「そ、そうですか? いやあ、そんな事はないですよ、いつもと同じです」
そう言いながら、この無能ヤロウは黒烏龍茶をガブ飲みしている。
イラつく奴だ。
「彼女でもできたか?」
俺は嫌がらせを込めて尋ねた。すると奴は、
「わ、わかりますか?」
と思ってもいない解答をして来た。
嘘だろ? こいつに彼女? あり得ない。
来年から日本がなくなると言われるよりあり得ない。
「ほ、本当にできたのか、彼女が?」
「ええ、まあ。親御さんにも挨拶しまして……」
「……」
何だと!? 親にも挨拶済ませたって、それはちょっと早過ぎるだろ?
「ど、どの所轄の子だ? 俺の知ってる子か?」
「はい、杉下さんも知ってますよ」
亀島は気持ち悪さ丸出しの笑顔で言った。
俺も知ってる? 誰だ?
香織? 真由美? 由佳?
まさか、ハーフのイボンヌか?
それとも意表を突いて経理課の蘭子女史?
「杉下さんにも、紹介しますよ。その子のお母さんを」
「は?」
何でお前の彼女の母親と俺が会わなければならんのだ?
こいつ、浮かれ過ぎておかしくなってるな。
「誰なんだ、その子は?」
俺は業を煮やして訊いた。
「御徒町さんですよ」
何ーっ!? 御徒町樹里と付き合っているだと!?
このヤロウ、言うに事欠いて、とんでもないホラを吹きやがって!
「嘘吐くな、お前が樹里と付き合えるはずがない!」
「どうしてですか?」
「ううう……」
そう切り返されると、論理的な根拠は微塵もない。
「これが証拠写真です」
亀島は嬉しそうな顔で携帯の待ち受けを見せた。
そこには亀島と五人の樹里が写っていた。
「な、な、な?」
俺は言葉が出なかった。どういう事だ、これは?
分身の術か?
「真ん中が樹里さんで、右がお母さん、左の三人が妹さん達です」
俺は呆けたようになってしばらく動けなかった。
俺が再起動したのはそれから一時間後。
亀島は刑事部長に呼ばれて出て行った。
「とうとう亀島も、クビか」
俺の中の悪魔が微笑んだ。
そして、それから三十分後、今度は俺が刑事部長に呼ばれた。
特別捜査班のリーダーとなる日が来たぞ。
ところが、大どんでん返しが待っていた。
特別捜査班は別に発足し、俺達の特捜班は解散。
亀島は新特捜班に移動だが、俺は移動なし。
「ク、クビですか?」
俺は泣きそうな顔で刑事部長に尋ねた。
「いや、クビではない。私も鬼ではないよ、杉下君」
げ。部長が「君付け」する時は非常にやばい時だ。
「出向だ。君の好きなG県にな」
ああ。やっぱり。警察手帳を落としたのが致命的だった……。
それにしても、因縁の地だな、G県とは……。
「但し、M市の所轄の副署長としてだ」
「はあ?」
パクリが過ぎると訴えられると思う俺だった。