「ヴィー様、かっこいい!!」―お忍びデート③―
お忍びデートの当日がやってきた。
マドロールは朝からにこにこである。いや、寧ろお忍びデートが決まった時から割とずっとにこにこしていると言えるかもしれない。
(ヴィー様とのお忍びデート。ヴィー様が私とデートしてくれる! 推しとのデートだなんて絶対に楽しいに決まっている!)
黒髪黄色目に自身の外見を変化させているマドロールは、興奮した気持ちを抱えている。
「騎士たちには後でお礼を言っておかないと! 私とヴィー様のお忍びデートのためにバタバタさせてしまったもの」
「そうですね。言っておくと、騎士たちも喜ぶと思います。マドロール様は騎士たちにも人気ですからね」
「ふふ、人気なのね、私」
「そうですよ。皇室に仕えている騎士たちは特に普段のマドロール様をよく見てますからね。陛下に対してにこにこしているマドロール様を見ているとなんだか癒されるそうですよ。あんまり見つめすぎると陛下に怒られるのでじっとは見れないようですが」
「あら、癒されるだなんて恥ずかしいわ。でも人気がないよりも人気の方がいいものね。嬉しいわ」
マドロールは公の場では、結構取り繕った表情をしているもののヴィツィオの前ではよく表情をだらしなくさせているので、その様子を騎士たちは目撃している。癒されていたり、俺も恋人欲しいなぁなどと思っている騎士が続出していた。
マドロールは銀髪の美少女である。可愛らしい見た目の皇妃様がにこにこしていたら評判にもなるのは当然であった。
マドロールはそんな会話を侍女たちとかわした後、ヴィツィオのもとへと向かうことにした。
(はぁ、ヴィー様のお忍び姿、折角だからってまだ見てないのよね。ヴィー様が私の色に染まる。あぁっ、やばいやばい。推しが私色に染まってくれるとか最高すぎでは??)
マドロール、ヴィツィオのもとへ向かう最中に鼻息を荒くしそうになるが、頑張って我慢している。
ヴィツィオの待っている部屋に辿り着いたマドロールは、ふぅと息を吐いて扉を開ける。
「ヴィー様! 準備できてますかー?」
そう言いながら中へと入ったマドロールは、
「マドロール」
と呼んだヴィツィオを見てキラキラした目で口元を押さえて固まった。
ヴィツィオは、銀髪赤目にその姿を変化させている。推しが普段とは違う色彩をまとっている! というだけでもマドロールにとっては致命傷である。そもそも普段と違うだけでも「うっ」となるレベルなのに、自分の色をまとっている。あと服装も普段の皇帝らしいものではなくて、少し地味な平民としての服装だ。
それでいて顔はいつも通りキラキラ。
「マドロール?」
「はっ!」
声をかけられ、マドロールはフリーズしていたのから起動しだす。
「ヴィー様、かっこいい!!」
声をあげたマドロールは、ヴィツィオの周りをうろちょろしながらいつもと違うヴィツィオのことを観察する。
(はぁあああああああ! ヴィー様が、かっこよすぎる。顔が良すぎる。え、というか、何、私の色をまとったヴィー様とかやばすぎでは?? 赤目のヴィー様もよし! それにしてもどんな服装でもヴィー様がかっこよすぎる。なんなの? これが私の夫とか、本当に夢みたいだよね。幸福すぎるわ)
幸福を感じて仕方がないマドロールは、良い笑顔でヴィツィオを見ると言い切る。
「我が一生に悔いなしって感じだわ」
「……いや、待て。それは死ぬ時のセリフだろう。死んだらダメだぞ?」
「うっ、ヴィー様、かっこよすぎる。私はもう毎日毎日ヴィー様を至近距離で見つめられて、ヴィー様の新たな一面を見れて、ヴィー様が私を見てくれていて幸せすぎるのです。毎日、幸福なのです! というか、死にませんよー。ふふ、今日のヴィー様が本当にかっこよすぎるなぁっていう、そういう感じなのです。あ、そうだ、ヴィー様、私はどうですか? 可愛いですか?」
「ああ。可愛い。髪も瞳も俺の色なのいいな」
「うっ」
あまりにも優しい笑みで見つめられ、マドロールは胸を押さえる。
(ヴィー様が私のこと、可愛いって言ってくれてるぅ。いや、もう、何回言われても嬉しすぎるよね。というか、ヴィー様が目の前で生きて動いているだけでも奇跡なのにヴィー様が私に可愛いって言ってくれるとかやっぱり奇跡だよね)
マドロールはそんな風に思っているので、嬉しくて仕方がないのである。
「ヴィー様は世界で一番かっこいいです。ヴィー様と一緒にお忍びデートに出かけられる幸福を前に私はもうやばいです」
「やばい?」
「はい。嬉しすぎて挙動不審になりそうです」
「いつもじゃないか?」
「はっ、ヴィー様にいつも変って言われた! ああ、でもヴィー様がそう言うなら、いつも変な奴認定でも全然問題ないです」
「いいのか」
「はい。だってヴィー様が言うことが全部正しいですから」
ヴィツィオの言葉にそんな風に答えるぶれないマドロールであった。