「ヴィー様との初デートだから、おしゃれしないと!」―お忍びデート②―
さて、マドロールの願いを叶えるためにも皇帝夫妻のお忍びデートが決行されることになった。当然のことだが、それに伴い帝国に仕える騎士たちは大忙しになった。特に皇帝直属の騎士たちは、そのお忍びデートが何事もなく終わるように警備を見直さなければならない。
とはいえ、皇帝であるヴィツィオ自身の強さを騎士たちは理解している。なので正直な話を言うとヴィツィオが隣にいるだけでもマドロールの安全は保障されているようなものじゃないか? とは思っているが……、それでも騎士として皇帝夫妻に何かないようにしなければならないと、急に入った大事な仕事にバタバタしていた。
その様子にマドロールは少しだけ申し訳ない気持ちになりながらも、ヴィツィオと初デートに迎えることが嬉しくて仕方がなかった。
(ヴィー様との初デート。お忍びの初デート。あぁああ、楽しみ。ヴィー様と出かけられるというだけでもどうしようもないほど嬉しすぎる。というかヴィー様とお忍びデートとか死にそう。考えただけでうれしい)
マドロールはヴィツィオと出かけることを考えただけでどうしようもないほど嬉しそうにしている。だけどすぐにはっとする。
(ヴィー様と出かけるのならば、服装考えないと)
マドロールはそう思った。
そういうわけで皇妃付きの侍女たちに声をかける。
「ヴィー様との初デートだから、おしゃれしないと!」
そんな言葉をかけられた侍女たちは、楽しそうに笑いながらマドロールのお忍びデートの服を選ぶことになった。
でもその前に、
「マドロール様、こちらを」
そういって侍女の一人から腕輪を渡される。
「これは?」
「見た目を変える魔法具です。あとは周りから注目を浴びにくくなるような効果もあるそうです」
「まぁ、そうなのね」
「マドロール様の祖国のティドラン王国の魔鉱石で作られたものと聞いてますよ」
「まぁ、そうなの! ふふ、あの魔鉱石が使われているのね。なんだか嬉しいわね」
侍女が渡してきたのは、髪や目の色を変える効果と注目を浴びにくくなるような魔鉱石を使った道具である。
それが自分の生まれ育った国の魔鉱石が使われていることを知るとマドロールは嬉しそうに笑った。
「ねぇ、これって好きな色に変えられるの?」
「そうですよ。どの色にします? それを決めてから服装は選んだ方がいいと思うのですが」
「えっと、じゃあ、ヴィー様の色にする!」
「……本当にマドロール様は陛下のことが大好きですね」
マドロールが嬉しそうな顔をして告げた言葉に侍女は少しあきれたように、でも楽しそうに笑った。
というわけでさっそく魔法具を起動させてみる。
「おおっ!」
鏡の前で自分の髪と、目の色が変わるのを見たマドロールは声をあげる。
(黒髪に、黄色い目。私だとなんだかヴィー様ほどの神秘さはないけれど、ヴィー様の色に出来るのやっぱり嬉しい。なんだかヴィー様の物にまたなれた気分。ヴィー様色に染まっているっていうかー。うん、とても素敵!!)
マドロールは目をキラキラさせながら、色を変えた自分の姿を鏡で見ている。
「マドロール様、陛下には逆をしてもらったらどうですか?」
「逆って?」
「マドロール様の色に変化してもらったらどうですか?」
「あぁあ! なにそれ、やばい、素敵! 凄く名案だわ。私のヴィー様はどんな色をまとっていたとしても世界で一番素敵だもの。はぁあああ、私の色? やばいわ。想像しただけで妄想の中のヴィー様がかっこよすぎてくらくらする」
すっかり侍女たちと親しくなっているマドロールは、大分暴走癖が侍女たちに漏れている。
(というか、お忍びデートってことはいつもの皇帝モードのヴィー様じゃなくて、また違う雰囲気のいうなれば平民風みたいなヴィー様なのよね!? しかも提案通りにすれば、私の色である銀色の髪と、赤い瞳のヴィー様に! やばいわ。素敵すぎるわ!! そんな最高にかっこいいいつもと違う雰囲気のヴィー様が私とデートしてくれるの!? 考えただけで興奮しかないのだけど!)
妄想の中でヴィツィオのお忍び姿を想像しただけで興奮しすぎてくらくらしているマドロールであった。
「マドロール様、お洋服決めるんですよね? どんなものにしますか?」
「やっぱり折角髪と目をヴィー様の色にするんだから、服も全部ヴィー様の色がいい!! そしたらもう完全にヴィー様の所有物になったって感じよね」
「マドロール様はもう陛下の奥さんなので、そんなことをしなくても所有物みたいなものだと思いますが」
「ふふ、嬉しいことにそうだけど、それでももっとヴィー様の物だってこう、実感したいというか。まぁ、ただ私がヴィー様の色をまといたいだけなのだけど」
そういう会話をマドロールは侍女とかわす。そしてマドロールは黄色の花の描かれたワンピースをお忍びで着ることにしたようだ。
ちなみに靴とかは黒にした。
そして決め終わると、マドロールはヴィツィオのもとへ向かってヴィツィオにもマドロールの色に変化してほしいこと、あとおしゃれをするから楽しみにしててほしいことを伝えてにこにこと笑うのだった。




