「ヴィー様の竜は、とってもかっこいいの」
短編のすぐあとぐらいの話です
「わぁ」
マドロールは、目を輝かせながら竜舎に来ている。
帝国は竜騎士部隊が有名な国である。マドロールの故郷であるティドラン王国は竜騎士なんてたいそうなものはいない。そもそも竜自体をマドロールはこの国に来てから初めて見たぐらいである。
自分が転生者であることを思い出してからより一層マドロールは竜というものに関心を抱いていた。
そもそも漫画の世界でヴィツィオが竜に乗っている様子も見ていたので、推しとその竜を間近で見れるというだけでマドロールにとっては大興奮ものである。
マドロールはヴィツィオに愛されるようになってから、自由に動ける範囲が増えた。まぁ、元々制限などされていなかったのだが、マドロールが遠慮をしなくなったというだけである。
そういうわけでマドロールは竜舎を見ながら目を輝かせているわけである。
ちなみにその隣にはヴィツィオもいる。
「ねぇねぇ、ヴィー様、見てみて。こんなに沢山の竜がいるなんてすごい! それに何だか一匹一匹が少しずつ異なるのね! わぁ、かっこいい!!」
「竜を見ることの何が楽しいんだ?」
昔から竜など見慣れているヴィツィオはマドロールの様子に不思議そうに言う。ヴィツィオからしてみればマドロールがこんなに興奮している理由がわからないのだろう。
「それはヴィー様がこの帝国出身だからですよ! 私の故郷なんて竜騎士なんて一人もいませんからね。竜騎士がいるっていうだけでも帝国の力を感じますよね。それにしてもその帝国の中で私のヴィー様がトップであるなんて、本当素敵!」
「マドロールの故郷にも竜騎士が欲しいならやるぞ?」
「いりません! 竜騎士を維持するための維持費なんて私の国にはないです! あ、ヴィー様、その顔はそのくらいなら俺が支払うとか思ってますよね? ダメですよ。帝国に依存しすぎた国になったら大変ですからね! もちろん、私の家族がいる場所なので何かあった時のために動いてもらえると嬉しいですけど、すべてを帝国におんぶにだっこはダメなのです」
「おんぶにだっこってなんだ」
「何から何まで世話になっている状況ってことです」
マドロールがそう言ったら、ヴィツィオは「そうか」と口にする。
ちなみにだが、竜舎で竜たちの世話をするものたちや竜に会いに来ている竜騎士たちはここに皇帝夫妻がいることに大変緊張している様子である。とはいえ、和やかな皇帝夫妻の様子に驚きと落ち着きを感じているようだが。
「ねぇねぇ、ヴィー様の竜を一番真っ先に見て愛でたいのだけど、どこにいるのかしら?」
「あっちだ」
ちなみにだが、ヴィツィオは皇帝だが竜騎士でもあったりする。竜を乗り回していたりもする。
気に食わない存在を竜に乗って滅ぼしたりしたという暴君らしい恐ろしいエピソードもあるのであった。
ヴィツィオの竜は、竜舎の奥のほうにいた。黒い鱗に覆われた大きな竜。
そのヴィツィオの竜は、気性が荒く認めた者以外にはなかなかなつかない存在である。
なのでその竜の世話をできる者も数えられるだけしかいないわけだ。
「ヴィー様の竜は、とってもかっこいいの」
そう言いながらマドロールは目をキラキラさせている。
自分を前に目をキラキラさせてはしゃいでいる様子のマドロールにその竜――クロフィワはなんだこいつと言わんばかりに威嚇しようとして、マドロールに自分の主であるヴィツィオのにおいが染みついていることに気づく。
まさかこれが嫁かとでもいう風にヴィツィオを見れば、ヴィツィオはマドロールに何かしたら殺すとしめしていた。
クロフィワはその様子に一瞬体をびくっとさせ、マドロールにその顔を近づける。
「わぁ、撫でていいの? ねぇねぇ、ヴィー様、この子、かわいい。私に撫でられたいって感じで近づいてきたよ!」
ヴィツィオに背を向けていたマドロールは、ヴィツィオが威嚇していたことを把握していなかった。なので、自分から顔を近づけてきたとマドロールは嬉しそうにしている。
「ああ。撫でていいぞ。そいつがマドロールに何かすることはない」
「わぁ。私がヴィー様の竜を撫でられるなんて! 竜ってこんな感じなんだぁ。鱗がすごいひんやりしてる。しかも見れば見るほどかっこいいわ!」
マドロールはヴィツィオから許可が出たので、嬉しそうにクロフィワを撫でまわしていた。
若干それをいやだと思いつつ、クロフィワはヴィツィオには逆らえないのでされるがままになるのであった。
ちなみにその後、マドロールはほかの竜のことも撫でまわしていた。ヴィツィオが後ろで威嚇していたので、竜たちはおとなしく撫でられているのであった。