「私のことを好いてくれているんだってお兄様に自慢したい!」
ユラルが来たあとぐらい
「ふんふんふ~ん」
マドロールは楽しそうに鼻歌を歌いながら、手紙を読んでいる。
その手紙はマドロールの祖国からの手紙である。つい先日、マドロールの兄であるユラルが帝国へやってきた後、ティドラン王国からのマドロールへの手紙は増えた。
というのも、実際にマドロールがヴィツィオに愛されていることを知らない状況では、マドロールに手紙を送りすぎてもし『暴君皇帝』の不興を買ってしまったらというのがあったのである。
すっかりマドロールを溺愛しているヴィツィオだが、その本質は暴君である。帝国によっては良い皇帝であると言えるだろうが、気に食わない相手はすぐに処罰するような冷徹さを持つ。
そしてヴィツィオは処罰に対する判断が早いため、何か粗相をした相手が処刑されるということも実例としてある。
「マドロール、楽しそうだな」
「凄く楽しいですよー。お兄様や妹たち、あとは友人とか、護衛してくれていた騎士とか。ふふっ、沢山の人から手紙をもらえるとなんだか私人気者? みたいな感じになりますねー」
「……マドロールが皇妃だから近づこうとしているやつもいるかもしれないから、気をつけろよ」
「もちろんですよ。でも別に私の権力目当てに近づいてきていたとしてもそれはそれで嬉しくないですか? 私は人が近づいてこないよりも来る方が嬉しい! それにそういう人たちって別に私に害を与えるためっていうより、私を利用しようと近づいてくる人ですよね。本当に目に余る行動をする人がいるならヴィー様が私のこと、守ってくれるって思ってますし」
「当然だ。何かする奴は潰す」
「本当にヴィー様は極端というか、そういうの凄く好き……」
「マドロール、手紙見せろ」
「ふふっ。もちろん、ヴィー様の望みなら差し出しますよー」
マドロールはヴィツィオから望まれたらなんでも差し出す気しかないので、躊躇いもせずに手紙を渡す。
ちなみに親しいものたちには、「私はヴィー様に望まれたら手紙を見せるから」とは言ってある。
ヴィツィオはマドロールから受け取った手紙を読んで、眉を顰める。
マドロールはヴィー様のそんな表情も素敵とぽーっとしながらヴィツィオを見ている。自分宛ての手紙という個人的なことも書かれている手紙を読まれているのに全く気にした様子はない。
「マドロール。こいつは?」
「んー? あ、この方は私の護衛をしてくれていた人です! 付き合いも長いお兄さんみたいな人ですよ。元気かなぁ」
「……なるべく会うなよ」
「どうしてですか?」
「なんだか文面から、こいつ、マドロールのことを好いている気がする」
「えー? 何ですか? 男の勘? そんなんじゃないと思うけどなぁ」
「俺の勘だ。手紙は……まぁ、マドロールが望むなら許すが」
「いえ、ヴィー様の男の勘で、私に好意が向いてそうって言うなら一旦やめます! 私はヴィー様にはいつも笑っててほしいですから。手紙をやめてほしい理由にヴィー様が嫉妬するからって書いていいです? お兄様経由で伝えちゃおうかなって。私、ヴィー様が嫉妬してくれるぐらい、私のことを好いてくれているんだってお兄様に自慢したい!」
「……好きにしろ」
マドロールはヴィツィオの言葉に嬉しそうに笑った。
マドロールにとってその護衛騎士はお兄さんみたいな相手である。守ってくれてありがとうございますしか思っていない相手だ。
その相手が自分に好意を抱いているかどうかというのは全く分からない。しかしマドロールにとってヴィツィオが言うことが全てなので、手紙をやめることにした。
マドロールにとってはヴィツィオが一番なので、ヴィツィオが嫌な気持ちになるのならばやめるのは当然であった。
「ふふっ、ヴィー様が私のこと、束縛してくれるの好きかも!」
「何を言ってる」
「なんだろう、私はヴィー様のものなんだなぁって。はぅ、なんだかもう私がヴィー様のものでいるって実感するだけで幸せすぎる」
マドロールはそう言ってだらしない顔をしている。人前で見せられないぐらい表情を崩していることがマドロールはよくある。
そんないつも通りのマドロールを見て、ヴィツィオは笑った。
ユラル「……マドロールの手紙には惚気しか書かれてない」




