「それにしてもお二人ともヴィダディのことを心から慕っている様子なのに、そんな人たちが寄ってくるなんて大変ね」―新米皇妃、頑張ります②―
「ランジネット、頑張りたいという気持ちは良いと思うわ。ただあなたが倒れてしまわないか心配だから、時折一緒に気晴らししましょう」
ミドロールは義理の姉になったランジネットのことをかなり気に入っている。だからこそ急に皇妃という立場になった彼女のことをとても心配していた。
「ええ。ありがとう。ミドロールのその心遣いがとても嬉しいわ」
皇妃という立場になったので、ミドロールのことも呼び捨てにするようになった。そういった変化も、ランジネットはまだ慣れていなかったりもする。
「何かあったら、お兄様にすぐに甘えることが重要だからね? 私達、皇族は周りに対して隙を見せない方がいいのは確かよ。外で下手な対応をして、悪評でも広まったら面倒なことにはなるもの。それでも誰にも心を許してはいけないなんてことはないわ」
ミドロールは産まれながらの皇族である。物心をついた時から、皇女として傅かれ続けていた。
そんな暮らしをしているからこそ、皇女として生きてきて嫌な思いをしたことも当然あった。
権力者の家系というのは、孤独に見えるものだ。
だけれども、少なくともこの帝国の皇帝一家はそうではない。家族仲が大変仲睦まじく、ぎすぎすした雰囲気は一切ないのである。
「ふふっ、ありがとう。もちろん、ヴィダディにはちゃんと何かあった時は伝えるわ。異性に言いにくい悩みはあなたや他の方に相談することにするから、抱え込むことはしない予定よ」
「なら、良かった。私達皇族にはよからぬことを考える存在が近づくこともよくある話だから、そう言ったことがあったらそれもすぐに報告ね。違和感が少しでもあったら、どんなに些細なことでも言ってもらえた方が助かるから」
「そうするわ。……やっぱりミドロールもそういった目に遭ったことはあるの?」
「私の伴侶の座を手にして、帝国にちょっかいをかけようとしている者達から接触されたりはしているわ。私はまだ未婚だから……」
ミドロールは紅茶を口にしながら、そう告げる。
第二皇女であるミドロールは結婚してもおかしくない年齢である。しかし彼女には異性の影は全くない。
先代皇帝譲りの見目美しい容姿を持つミドロールは、近づきがたい雰囲気はあるものの異性には人気である。
「婚約者もいないものね」
「お母様が恋愛結婚をしてほしいと望んでいるから。私としては、そう言う相手が見つからなければそれでいいのだけど……どうも周りは私が何れ誰かと結婚するのは当然と思われているらしいの」
ミドロールは少しだけ面倒そうな表情だ。
帝国の皇帝一家は、世にも珍しく恋愛結婚が推奨されている。だからこそ、ミドロールは結婚する気配が今のところはない。
「ただ私はまだ楽な方だわ。周りにしっかり守られているもの。弟たちはもう少し、簒奪をそそのかしてくる者達から接触をされたりと大変みたい。やっぱり男児だと、そういうのがあるようで……」
「……それは困るわね。それにしてもお二人ともヴィダディのことを心から慕っている様子なのに、そんな人たちが寄ってくるなんて大変ね」
短い付き合いのランジネットの目から見ても、ルッツィオとロッツィオがヴィダディを慕っていることは一目瞭然である。それでも「実は皇帝の座が欲しいのではないか」と勝手に思い込んで近づいてくる者は当然居るようだった。
(私の方にも何だか探りに来ている人達は居るものね。不安をあおろうとしている人とか……。ヴィダディに嫁いで、ミドロール達とも私は悪くない関係を築けているから問題はないけれど、そうじゃなかったら……不安でいっぱいになっていたでしょうね)
皇妃になったばかりのランジネット。それも元は、小国の公爵令嬢という身分。だからこそ付け入ることが出来るとそう思われてしまってもおかしくない。
直接的に何かを言う人は居ないが、近づいてきて不安を煽ろうとする人は居なくはない。
「私に、不安はないか? と執拗に聞いてくる人もいるのよ。新婚だから、何か不満があるのではないかと思われているみたいで。正直皇妃になったばかりだから、不安とか、出来ない部分もあったりして、そのことは大変だと思っているの。でもそれ以外は何の不満もないわ」
というかあるわけがないと、ランジネットは思う。
(結婚したとはいえ、ヴィダディと一日中一緒に居るわけではないから嫌だなと思う点などないのよね。程よい距離感というか……。なるべく一緒に居られる時は共に過ごすようにはしているけれど皇族だと公務を放り出して常に一緒に居るというのは出来ないもの)
夫に対する不満は、ランジネットにはない。寧ろ毎日、幸せである。平民たちと比べると皇族であるからこそ、接する時間は少ないだろう。そのことは少しだけ寂しいと思わなくはない。
だけどこの距離感だからこそ、良いのだろうとは思っている。
「それならよかった。お兄様は妻に優しく出来る方だから問題ないと思うけれど、喧嘩したら言ってね?」
そんな言葉に、ランジネットは頷いた。




