「……やばい。私、凄く泣き虫になってしまっている気がする」―幼い皇女と、両親の秘密話⑥―
「メロナールがマドロールと同じ?」
帰宅したヴィツィオにさっそくマドロールは事情を話した。ヴィツィオは一瞬驚いたように眉を顰めたがそれだけである。あまり動じていないように見えた。
メロナールはドキドキしていた。
なぜならマドロールは受け入れてくれたものの、ヴィツィオが受けれてくれるかは分からないからである。
メロナールは、父親のこともとても好きだ。
少し不愛想なところはあるけれども、家族思いで優しいことを知っている。それでいて妻であるマドロールや子供達のことを大切にしてくれていることを。
(……お父様、私のことを気持ち悪いと思わないかな?)
そう思ってしまうのも当たり前だった。
「そうなんですよ、ヴィー様。なんとメロナールも私と同じで前世の記憶を持っているようなのですよ! 私と同郷です」
しかしメロナールの不安を知ってか知らずか、マドロールはにこにこしながら報告をする。
「そうなのか」
そう言って頷くヴィツィオが何を考えているか分からなくて、メロナールは益々心配になる。少しだけ泣きそうになる。……この短い返答が、自分を嫌がっているからだったらどうしようかなどと思って仕方がなかった。
「メロナール、不安にならなくていいわ。ヴィー様はね、ご自身が私とメロナールの前世の世界を知らないことを仲間外れされたみたいに思っているのよ」
「え」
マドロールの言葉にメロナールは驚く。そんな娘の頭をマドロールは優しく撫でた。そしてヴィツィオの方を向いて、また笑う。
「ねぇ、ヴィー様は本当に可愛らしいわ。私の前世のことを実際に知ることが出来ないことを拗ねておられるなんて! 可愛いので幾らでも見ていたいですけれども、メロナールが『自分は受け入れられないのではないか』と思っているようなので、笑ってください」
マドロールは微笑みを絶やすことなくそう言い切る。ヴィツィオはマドロールに言われた言葉に眉を顰める。
「俺が娘を受けれないわけがないだろう」
そう言って、メロナールを見る。
「不安に思ったのか?」
そして優しい言い方を心がけつつ、そう問いかけた。
「……うん。だって、前世の記憶あるの、お父様、気持ち悪くない?」
メロナールは前世で嫌われることに慣れていた。自分が誰かの特別になれないことも知っていた。けれども生まれ変わって、家族に愛されて生きた彼女は怯えてしまっている。
慣れていたはずなのに、大好きな両親が自分を疎んだら……とそう思ってしまっているのだ。
「そんなわけないだろう。……誰かにそんなことを言われたのか?」
「ううん。そんなことないの。ただ私は……お父様に嫌われたら悲しいなって」
メロナールがそう口にすると、ヴィツィオはマドロールの腕の中にいた娘を抱え込む。
「俺はメロナールを嫌わない。だから安心しろ」
「……うんっ」
そして見下ろされて告げられた言葉に、メロナールはほっとして泣き出しそうになった。
(……やばい。私、凄く泣き虫になってしまっている気がする)
自分が泣き虫になってしまっていることに、メロナールは微妙な気持ちになっていた。
「メロナール、なぜ、泣きそうなんだ」
「安心したの。あのね、お母様、お父様……私、前世であまり家族仲に恵まれてなかったの。だからお母様とお父様が受け入れてくれて嬉しいの!!」
メロナールは素直にそう口にする。
ほっとして仕方がなかった。自分のことを受け入れてくれる両親が居ることが、ただただメロナールにとっては嬉しかった。
「そうなの? 大変だったのね」
「……私、その、前世のことを気にしすぎだって言われてしまうかもしれないけれど、ずっとその時のことを考えてしまっていたの。だからね、いつかお母様やお父様、それにお兄様達に嫌われてしまったらってそんな風に」
メロナールは、ずっと不安だったのだと両親へと言葉を告げる。
「大丈夫よ。そんなことで妹を疎むような子には育ててないわ」
「ああ。注意をする。それにしても、そんなにトラウマなのか?」
マドロールもヴィツィオもメロナールに向かって優しい表情を浮かべている。
「うん……。なんかね、前世では私、妹のことばかりが優先される家で育ったの。前の家族は私のことを疎ましく思っていたし、妹は私を自分の好きなようにするのが当たり前だった。……だから私ね、もしお母様やお父様が誰かに取られてしまったりしそうになったら凄く嫌な態度取ってしまうかも……」
メロナールはそんな言葉を口にしながらも、両親の反応を思って緊張していた。今、こうして受け入れてくれているのはメロナールが“聞き分けのよい良い子”だからではないかと試し行動をしてしまっている。
(……やっぱり身体に引きずられているのかな、私、凄く心配になってしまっている)
ずっと、ただメロナールは心配ばかりしていた。




