「私とメロナールはお揃いなの」―幼い皇女と、両親の秘密話⑤―
「あ、えっと……」
メロナールは青ざめる。この世界に転生して漫画を見たことは、メロナールにはなかった。だから自分がこの世界にとっての異物であることが、母親にばれてしまったと恐ろしくなっているのだろう。
「あ、あの、えっと……ぐすっ」
そして恐怖心のまま思わず泣き出してしまう。マドロールはその様子を見て慌てる。
「あらあらあら! 泣かないで、メロナール。大丈夫だからね?」
泣いているメロナールは、マドロールにぎゅっと抱きしめられる。
「何が悲しいのか私に教えてくれる?」
優しい声でそう言って問いかけられ、メロナールは泣きながら告げる。
「だ、だって……私、変な子だもんっ! お母様に……っ、気味が悪いって……思われたら、悲しいもんっ!!」
身体に引っ張られているからか、思わずメロナールは子供のようにそう言って泣いてしまう。
「ふふっ、そんなわけないでしょう? あのね、メロナール。もしかして、あなたには前世の記憶があるの?」
「……うん、ある」
泣きながらメロナールは、こくりっと頷く。こんな風に泣きじゃくってしまって情けないと、メロナールはそう思ってしまう。
「そのことでどうして私があなたを嫌うと思ったの? そんなわけないわ。だってね、私もメロナールと同じように前世の記憶があるのよ?」
マドロールがそう言うと、メロナールの涙が驚いたように止まった。
少し考えればわかるはずのことだが、バレてしまったと混乱していたメロナールはそこまで頭が働いていなかった。彼女にとっては、自分の普通の子供とは違う部分が露見してしまえば、周りから嫌われてしまうのではないかと恐怖していた。そんなことはないだろうと、心の中では思っているけれども……それでも前世の記憶というのは根深い。
「ふふっ、だからね。私とメロナールはお揃いなの。メロナールが変な子っていうなら、私だってそうだわ。それにね、メロナールが大人びた考えをしている理由が分かって、母親としてはあなたのことが知ることが出来て嬉しくて仕方ないの」
マドロールはメロナールに安心させるように笑いかける。マドロールにとっては前世の記憶があろうがなかろうが可愛い娘である。
「そう、なの? お母様も、記憶ある?」
「ええ。そうよ。メロナールはこの世界についての情報ってどれくらい知っている? もしかしたら生きていた年代が結構違うのかしねぇ。娘と一緒に前世の記憶の話が出来るなんて何だか、とても楽しいことね。とはいっても私は転生してからかなりの時間が経っているから覚えていないことも多いのだけど」
マドロールはなるべく早口にならないように努めながらそう告げる。気を抜くと、愛しい夫であり、前世からの推しであるヴィツィオのことをひたすら語りたくなってしまうからである。
「この世界についてって?」
メロナールは意味が分からなくて、首をかしげる。その様子を見て、マドロールは面白そうに笑った。
「あら、もしかしてメロナールはあまり漫画とか見てこなかった? それともメロナールが生きていた時代だともう昔の作品過ぎるのかしらねぇ。あのね、この世界は漫画と同じ世界観の世界なのよ」
「え」
「ヴィー様がヒーローでね、ヒロインは別の子だったのだけれども……私は前世からずっとヴィー様のことが大好きだったから奥さんになれて本当にびっくりしたわ!!」
満面の笑みでそういいきるマドロール。これでも気を抜くと早口でヴィツィオのことを語りそうなので我慢していた。
「……そうなんだ」
頷きながらもメロナールは混乱中である。
(ここが前世の漫画と同じ世界観? お母様がお父様のことを前世から好きだった? 漫画の時期が終わった世界ってこと? お母様が私と同じで前世の記憶があるというだけでも信じられないのに??)
メロナールは聞きたいことが沢山あるはずなのに、何を言えばいいか分からなかった。
「漫画の中では私は捨てられる予定の皇妃だったから、今の状況が私にとってはいつまでも夢みたいに思ってしまったりもするのよねぇ」
「えええ??」
ただ流石に母親から言い放たれた言葉に驚いた。
「お母様が、捨てられる予定だったってなに!?」
「漫画ではそうだったのよ。現実は全然違うけれどね? 私ヴィー様のことが心から好きだったから、捨てられるならそれはそれでその時まで楽しもうとしていたら、ヴィー様が私のことを愛してくださったの。神様に感謝の気持ちを伝えてならないぐらいに奇跡的なことよね」
マドロールは軽い調子でそう言うが、メロナールからしてみれば年中イチャイチャしている夫婦にそんな可能性があったのかと驚愕していた。
「お母様、捨てられても良かったの??」
「ええ。だってヴィー様の幸せが一番だったもの。ヴィー様がそれを決定されるのならば受け入れるつもりだったわ。だけどヴィー様はね、私に傍に居ることを許してくださったの」
うっとりとした様子でそう告げるマドロール。本気でそう感じているらしいことを感じとるメロナール。
「あ、そうだ。メロナール、ヴィー様にもこの話はしてもいいかしら? 私、ヴィー様に隠し事など出来ないの!」
そして続けて告げられた言葉に、メロナールは一瞬考える素振りをしたが結果として頷くのだった。




