「お母様は少し天然というか……のんびりしているのだもの。」―幼い皇女と、両親の秘密話④―
マドロールはメロナールを抱きかかえたまま、屋敷内を移動する。メロナールからは顔が見えていないが、だらしない表情を浮かべていた。
「メロナールを抱きしめているとこう……幸せな気持ちが増していく気がするわ。私とヴィー様の元へ、産まれてきてくれてありがとう」
寝室まで移動し、メロナールのことを抱えたままベッドに座ったマドロールはそう言って愛を伝える。メロナールが不安がっていることを察しているのだろう。
マドロールは何も考えていないようなのほほんとしている性格だが、こういう時にはすぐに変化に気づく。
「お母様って、恥ずかしげもなくそういうこというよね?」
マドロールの腕の中で、メロナールはおかしそうに笑いながらそう言った。
(お母様って感情を露わにするのがいつも自然なんだ。私のことを本当に心から愛してくれている人……うん、私、お母様のこと、好き)
メロナールはそんなことを考えて、じんわりと温かい気持ちになっていた。
「ええ。だって誰かを大切だという気持ちは伝えられる時に、幾らでも伝えた方がいいと思っているから。ああ、でもそれは私が思っているだけだから、その人の性格によるけれどね?」
「そうなんだ。えっと……お母様、私もね、お母様のこと、大好き」
前世の記憶があるからこそ、やっぱり恥ずかしいという気持ちは当然ある。だけれども、メロナールは母親の言葉を聞いたからこそ伝えたいと思った。
メロナールとして生きてきて、そう言う気持ちをよく口にするようになっている。
「まぁ!! なんて可愛らしいの!!」
マドロールは大きな声を上げる。
……この母親、子供達のことが可愛くて仕方がなくていつもこうやっていつも愛情を伝えてばかりである。
「私の子供達は本当に皆、可愛いわ。こんなに愛らしいと悪い人に攫われてしまわないかと、心配になるぐらい……!」
「お父様が守ってくれるから大丈夫だよ? それにお母様だって、凄く可愛いから攫われないように気を付けてね?」
メロナールはそう口にして、母親のことを見上げる。
(お母様は少し天然というか……のんびりしているのだもの。皇妃として生きてきたはずだから私が思っているよりもしっかりしているのかもしれないけれど……。やっぱりちょっと心配になっちゃう! 子供の私がお母様のことを守ってあげなければとそう思っちゃうぐらいには)
メロナールはマドロールを見ていると、いつも心配になる。この調子で悪い人に騙されたりしないかと。あまりにもこの母親は人の好意を信じすぎているように見えて、前世で散々な目に遭ってきたメロナールは大丈夫かなとそんな気持ちであった。
「ふふっ、ありがとう。私は大丈夫よ。だって、ヴィー様が守ってくださるもの」
「お父様、凄く強いって聞いた! 確かにお父様いるなら、お母様は危険な目にあわないかも」
「ええ。そうよ。あなたのお父様はね、かっよくて素敵なだけではなくて強いのよ。何度もヴィー様の戦う姿を見たことがあるけれども素晴らしかったわ」
「お母様はお父様の戦う姿を見たことあるの?」
メロナールは驚いた表情になった。母親であるマドロールがそんな状況を見なければならない状況というのが想像出来なかったらしかった。
「ええ。お城の中まで危険人物が侵入した時もあったし、私がヴィー様の戦う様子を見たいと見せてもらったこともあったわ。その時のヴィー様も本当に……びっくりするぐらいにかっこよかったの」
頬を高揚させて、マドロールはうっとりとした様子である。全く以って恐怖心などは感じていないようだ。
「……そうなんだ」
「そうよ。メロナールはヴィー様の戦う姿を見たい? それなら、ヴィー様にお願いするわ」
マドロールは満面の笑みである。
「うーん、興味はあるけれどもっと大きくなってからの方がいいかも。小さいうちに見に行くの、危ないかなって」
メロナールは前世では戦いとは無縁の暮らしをしてきたのもあり、余計に興味はあった。ただし今の自分がまだ幼い子供であることを自覚している。だからこそ、そう答えておく。
「まぁまぁ、じゃあもう少し大きくなったら見に行きましょうね。もしかしたら、少しだけ恐ろしい思いはしてしまうかもしれないけれど、ヴィー様が居れば私達は大丈夫だから」
「そっかー」
メロナールは母親の言葉に、頷く。
(お母様はお父様が居さえすればどんな状況でも何も問題ないと心の底から思っている。その信頼って凄いな。それにしても……大国の元皇帝夫妻がこうしてスローライフを送っているみたいなのって……凄く不思議な感覚。前世の情報からすると私は王族とか貴族ってもっと怖いイメージだったんだけどなぁ)
メロナールは思わずそんなことを考えた。
そしてそんな思考のまま、マドロールの腕の中が心地よくて気を抜いてしまった。
「お母様って、漫画とかに出てきそう」
その言葉は小さかった。だけれども密着しているのもあって、マドロールの耳には届いていた。
「え?」
びっくりした様子で聞き返すマドロール。メロナールはしまったと顔を歪めた。




