「……お母様は当たり前みたいにお父様と一緒じゃないとお出かけしないけれど、それって珍しいことだよね。」―幼い皇女と、両親の秘密話②―
「お母様、実物はもっと綺麗。上手く描けない……」
メロナールの目から見て、マドロールはとても愛らしくて見た目が整っている。地面にさらっと木の棒で描いたマドロールは彼女にとって満足の行くものではなかったらしい。少しだけ不満そうな様子である。
「メロナールのお母さん、綺麗な人だもんな。今日は居ないの?」
「お父様が居ないから、お母様来ないの」
マドロールがそう口にすると、トバイアムは不思議そうな顔である。確かにメロナールの父親が居ない時に、母親が居ないことは彼も把握していた。しかし別に騎士や使用人も同行するので片親だけでやってきてもおかしくない。なので、よく分からないトバイアムである。
(……お母様は当たり前みたいにお父様と一緒じゃないとお出かけしないけれど、それって珍しいことだよね。他の人達って、普通に一人で行動しているお母さんとかも見かけるし。高貴な人間だからかなと思ったけれどそういうわけでもなさそうだし……)
メロナールの現在住まう街にも、この街を治めている領主は存在している。その領主の家系も、奥方だけで出かけたりというのを見たことがあった。
「トバイアムは、何か描く?」
メロナールはそう言って、木の棒をトバイアムに渡す。
無邪気な様子のメロナールを前に、木の棒を受け取るトバイアム。そして何かを描き始める。
動物のように見えるが、メロナールにはそれが何か分からなかった。
(翼はありそう。だけどこの生物なんだろう? 私もそうだけど子供が地面に描いただけのものだと、正直よっぽど上手じゃないと何を描いているかさっぱり分からないよね)
メロナール自身も絵が上手いわけではない。まだ三歳なので、描きたいようには描けないものである。
トバイアムもメロナールの一つ上なので、同じような絵しか描けていない。
「これ、なぁに?」
そう言ってメロナールはトバイアムのことを見上げる。
「これは遠く離れた土地にいるっていう竜って生き物」
「へぇ」
頷きながら、メロナールは両親や兄弟達から聞いた話を思い浮かべる。
(そういえばお父様やあとはあったことない一番上のお兄様は竜に乗っているんだっけ。ロー兄様とルー兄様が言っていたもの。このあたりには竜は居ないって言ってたけれど、噂だけは出回っているのかな)
そう、メロナールの足を踏み入れたことのない帝国では、竜というものが身近らしいとは聞いている。
実物は見たことがないが、話だけは聞いている。後は姉や兄達との手紙のやりとりで、父親の愛竜について情報を得ていたりもする。
(確かお父様の竜は真っ黒な鱗のかっこいい竜だって話よね。お父様にぴったりだわ。きっと一緒に居る姿は、美しいんだろうなぁ)
想像をするだけでメロナールは楽しくなっていた。父親はとても美しい。その父親の隣に竜が並んでいれば更に素敵な光景だろうと想像が出来た。
メロナールは、想像の中の竜を描いてみる。
「竜って、こんな感じかな?」
「だと思うけれど……メロナールは竜は見たことあるのか?」
「ないよ。でもお父様が乗っているって聞いた」
「……そうなのか?」
メロナールがぽつりと零した言葉にトバイアムは驚いた様子を見せていた。
それだけ現在メロナール達が滞在しているこの国では、竜という存在は身近ではなかった。
メロナールは思わず呟いてしまったとはっとした様子を見せる。こんなことを呟くつもりはなかったのである。
「うん。私も見たことないけど、そうらしいよ?」
メロナールはそう言いながらも、竜のことを考える。
(お父様は竜騎士って存在でもあるんだよね。元皇帝で、竜騎士だなんてすごくかっこいい……! でも私が小さいから、お父様はそのパートナーの竜にも会えていないのか……。お父様もお母様も帝国に帰れないことを気にしてないっていうけれど、早く大きくなりたいな)
メロナール達一家がこの国に留まっているのは、メロナールが小さいからである。長時間の移動に耐えられないからというのを知っている。
そのことをメロナールは申し訳ない気持ちにはなっていた。とはいえ、両親は「そんなことを気にしなくていい」というのでなるべく気にしないようにはしているが。
「そうなんだ……。凄い」
「うん。お父様、凄いの」
自慢するようにメロナールはそう口にしてしまう。
メロナールは両親のことがとても好きである。だからこうやって父親を褒められると、誇らしい気持ちになって仕方がなかった。
「メロナールのお母さんも、竜乗れる?」
「ううん。お母様は違うって聞いたよ」
メロナールはトバイアムの言葉に答える。
(お母様はお父様が操る竜に同乗することはあったみたいだけれども、あくまでも竜騎士なのはお父様だって話だもの。それにしても私が帝国に帰るとなったら、竜に乗って帰るのかな? その時が楽しみ)
そして先の未来のことを考え、メロナールはそんなことを考えるのであった。




