「か、可愛い!! ヴィー様、本当に可愛すぎです。私の全てを知りたいと、拗ねた様子を見せてるヴィー様って可愛すぎてもう……っ!!」
短編後のある日の話
「ヴィー様!! ほら、この手紙見てください!!」
その日、マドロールは元気よくヴィツィオの元へとやってきた。
嬉しそうに駆け寄る姿は、見ている者を思わず笑顔にしてしまうものである。マドロールはその手に手紙を持っていた。
皇妃という立場になった彼女は、自分に届く手紙を全て夫に見せていた。躊躇することはない。そもそも嫁ぐ前も王女として生きていたので、手紙を周りが確認するのは当たり前のことだった。
「誰からだ?」
「他国に嫁いでいたお友達からのお手紙なのですよ! 今度、帝国に来るらしいのです。会うの久しぶりなので楽しみなのですよねぇ。ですから、会う許可をもらえればなぁって思いまして」
にこにこしながらマドロールはそう言った。
余程、その友人に対して良い思い出ばかりなのだろう。久しぶりに会うことが嬉しくて仕方がないといった様子だった。
「そうか。許可は出す」
「ありがとうございます! 良かったら、お出かけに出かけたりもしたい気もするんですけれど、ヴィー様は私のお友達とお出かけって嫌だったりします? ヴィー様が嫌ならば、城内で会うだけに留めますが」
当たり前のようにマドロールは、ヴィツィオが居ない場で出かけるつもりは一切ないようだった。
嫁いできて、その後溺愛されているマドロールは本当にただの一度も夫を伴わずに出かけたことがなかった。
皇妃一人でどこかに出かけることはなく、それはもう大切に守られている。本人が嫌がっていないため問題はないが、束縛を嫌がるようなタイプだったら大変だっただろう。
「マドロールが行きたいなら、俺も一緒に行く」
「ふふっ、ありがとうございます。ヴィー様って私の願いはなんでも叶えてくださろうとするんだから、嬉しいです」
「当然だろう」
「はぁああ……今の言い方と表情かっこいいです。ヴィー様、毎秒かっこよくてもうときめきます」
マドロールはそう口にして、両手を頬に当てて悶えている。
ヴィツィオの言葉や表情は、マドロールの胸を常に高鳴らせてしまうものである。
「手紙の返事はしたのか」
「これからします! ヴィー様に許可をいただいてからお伝えしないといけないなと思ったので。なんて書こうかしら! ヴィー様が一緒だと遠慮するかもしれないけれど、大丈夫だって伝えなきゃ!!」
マドロールはヴィツィオに向かって、元気よくそう告げる。
はしゃいだ様子のマドロールはそのまますぐ近くの椅子へと腰かける。そして書類に目を通しているヴィツィオをうっとりとした表情で見ていた。
「ヴィー様、仕事しながらでも私の話をちゃんと聞いてくださるところも大好きです」
思いを素直に告げるマドロールは、愛らしい表情を浮かべていた。
「俺がマドロールの話を聞くのは当たり前だ」
「きっとどんな時でもヴィー様は、私の言葉だけは聞いてくださるんですよね。それが想像出来るから余計にきゅんっとします。どんなに小さな声でもきっと聞き取ってくださるんだろうなとか、考えるだけで楽しいです」
マドロールはそう言いながら、また妄想をし始めている。
(例えばそうね、基本的にはないだろうけれど私が攫われるようなことでもあったら……!! その時はヴィー様が私の声を聞きとってくださる気がするの。どういう状況だったとしても、何があってもヴィー様はきっとそう! それでヴィー様はスマートに助けてくださるはずなのよね。そんなヴィー様の様子を想像するだけで素晴らしいわ)
皇妃は皇帝を愛してやまない。なので常にそんな妄想ばかりしている。夫がそれを許容しているのもあり、だらしない表情を浮かべることも珍しくはない。
「ねぇ、ヴィー様、私のお友達とその夫とお出かけだとダブルデートってことですよね。楽しそうって思います。お返事を書いているので、向こうも行きたいといってくれたらいいですけれど! あ、でもヴィー様、無理強いは駄目ですからね??」
マドロールが返事を書きながら、断られたらどうしようかなと口にした。その瞬間、ヴィツィオが反応したのを把握し、すぐさま一言注意をする。
皇妃はダブルデートをしたら楽しそうと思っているものの、無理に決行しようと思っているわけではなかったのだ。
「分かった」
「ヴィー様は嫁ぐ前の私の知り合いとお話するの、楽しみだったりします? ヴィー様の知らない私のことを、彼女は知ってますからね」
「楽しみだが……俺以外の奴が、マドロールを俺より知っているのは気に食わない」
真顔のままそう言い切るヴィツィオ。
マドロールが声にならない声を上げた。
「か、可愛い!! ヴィー様、本当に可愛すぎです。私の全てを知りたいと、拗ねた様子を見せてるヴィー様って可愛すぎてもう……っ!!」
ヴィツィオが独占欲を露わにすると、マドロールは大興奮であった。
周りで話を聞いている文官や侍女達は「陛下を可愛いなどと言えるのは皇妃様だけだな」とそんなことを思っていた。
可愛い可愛いといつまでも騒ぐマドロールの様子を、ヴィツィオは少し呆れた様子で見つめるのであった。




