「ねぇ、ヴィー様!! こう、顎クイしながら「俺の女になれ」って言ってくれません??」
短編後の日常
「きゃああああ! ヴィー様、素敵ぃぃいいい!!」
今日も今日とて、帝国の皇妃であるマドロールは大興奮していた。なぜかというと、夫がかっこよすぎるからである。
今日のヴィツィオは、海賊風の恰好をしていた。髑髏のマークの描かれた黒い三角帽子に、漆黒の海賊服。
ちなみにこの服装に関しては、マドロールが前世の記憶を元に作ってもらったものである。ザ・海賊と言える服装に、取り寄せてもらったサーベルを装備している。
(本当に似合うわ!! ヴィー様はどんな服装だって似合う方だけれども、こういうワイルドな衣装も本当に最高……!! 海をおさめるヴィー様、うん、最高だわ。ヴィー様はこう、絶対に船酔いとかしないタイプだし、船の上だろうとこう……海の覇者として名を馳せるにきまっているもの)
じーっと、ヴィツィオを見つめるマドロールの目が据わっている。もし、ヴィツィオが海賊をやっていたらなんていう妄想でその頭はいっぱいである。
「マドロール」
「ヴィー様はきっと海の上でもヴィー様で……ブツブツ」
自分の世界に入って、小さな声でブツブツ言っているマドロール。その様子は少しだけ恐ろしいものがある。近くに居る侍女や使用人達は「いつも皇妃様は元気だな」と慣れた様子だ。
「マドロール」
「ひゃ、ひゃい!!」
あまりにも返事をしないマドロールは、ヴィツィオから耳に息を吹きかけられる。驚いて、大きく身体が跳ねるマドロール。
「ヴィ、ヴィー様、もう、何をするんですか!! びっくりしたじゃないですか」
「マドロールが返事をしないのが悪い」
「うっ、もう、なにそれ、可愛い……!! ヴィー様ってば、私が返事をしないことに寂しくなっちゃったんですよね? だから構ってほしくてちょっかいをかけてくるなんてっ。もう、本当にヴィー様らしいっていうか、なんというか……!! 好きです!!」
ヴィツィオの行動は、マドロールの琴線に触れたようだ。大興奮である。
『暴君皇帝』と呼ばれる男性であろうとも、マドロールからすれば可愛い夫である。
「知ってる」
「それにしてもヴィー様、海賊の恰好していると海に居るヴィー様を想像してしまいますわ!! 船の上で、船員に対して命令を下すんですよねぇ。それで海賊とはいえ、要らぬ殺生はしないみたいなかっこいい感じのイメージです。もちろん、現実の海賊は略奪を繰り出してくる感じの人も多いんでしょうけれど!! あくまで妄想なのですけれど、それで二つ名とかついちゃって……!!」
マドロールは今日も元気である。そして妄想が止まらない。
海賊と呼ばれる存在は、当然、良いものではない。マドロールの前世では、漫画や小説の中でかっこいい海賊や良い海賊が出てくることはあった。とはいえ、それはあくまで物語の世界だからだ。基本的に海賊とは略奪者であり、良いものであるとは言えない。
なので、あくまでコスプレしているだけのなんちゃって海賊である。それをマドロールは妄想していた。
(となると、私は海賊の女的な? もっと私がかっこよくて、堂々とした感じの女性だったら女海賊みたいな感じになるかもだけど、私は戦いとか全然出来ないしなぁ。それに怖いことは苦手だもの)
もしヴィツィオが海賊だったら、その妻である自分はどういう立場だろうかなどと考える。
(もしくはあれね! 何かあったタイミングで出会って、ヴィー様が私を自分の女にするとか言っちゃって……! もう、ヴィー様にそんなことを言われたら問答無用で私の全て捧げてしまうわ。だってヴィー様に求められたら、拒絶は無理よ!!)
そのままマドロールは、がばっと勢いよく顔をあげヴィツィオを見る。
「ねぇ、ヴィー様!! こう、顎クイしながら「俺の女になれ」って言ってくれません??」
そのような要求をヴィツィオにし始めるマドロール。
突然そんなことを言いだすマドロールに、周りに居る侍女達は一瞬驚いた様子である。いつも突拍子もない行動を起こすものの、その言動は全く以って想像が出来ないのだ。
ヴィツィオはそんな彼女の様子に慣れているので、すぐさま妻の要求を叶えるべく行動に移した。
右手をマドロールの顎にやり、持ち上げる。そして真っすぐにマドロールの目を見て、ご要望通りの言葉を口にする。
「俺の女になれ」
「……っ!!」
その言葉を聞いたマドロールは声にならない声をあげる。
(やばすぎるぅうう!! ヴィー様に熱っぽい瞳で見つめられながらこんなことを言われたら、もう正気で居られないわ。かっこいい。素敵すぎる。大好きっ!!)
マドロールの心の中はずっとそんな感じである。
「なります!! もう、今すぐにでも!! ヴィー様に言われたら頷かないはずないですよねぇ!! 本当にかっこよすぎます! 顔がいいです!! 大好きです!!」
大きな声で嬉しそうに声をあげるマドロール。
あまりにも止まらないので、ヴィツィオがいつも通り口でふさいでいた。
そのまま寝室に連れ込まれ、翌日になるまで彼らは出てこないのであった。




