「ヴィー様、大好きです。ヴィー様が居たら私も、それでいいんです。」―皇妃、記憶喪失編㉓―
「俺も、お前が居ない世界は許せない」
「あはっ、許せないってなんですか? 許さないからどうするんですか?」
ヴィツィオの言い方が可愛いなと、思わず笑ってしまうマドロール。抱きしめられる力はとても強い。こうしてヴィツィオに抱き留められているだけで、マドロールはとても安心していた。
「そうだな。もし……誰かが原因でマドロールを失うことになったのならば、その原因となる者を殺すだろう。それに、ただでは殺さない。……俺からマドロールを奪う奴を簡単に楽にしてはやらない」
「ヴィー様……もー、想像で怒らないで? 私が病気とかになったらどうするんですか?」
「何を対価にしてでも薬を準備する。お金はいくらでもある」
「ヴィー様ってば、本当に私のことが大好きですね? 私だって、同じですよ。ヴィー様に何かする人は許せないから。とはいってももしヴィー様が居なくなってしまったら……私の皇妃という立場もどうなるか分からないですけれど」
マドロールは想像してみると、恐ろしい気持ちになった。今は皇妃として、マドロールの生活はとても平穏に過ぎている。だけれども皇帝にもし何かがあれば――この状況がどうなるかは分からない。
(ヴィー様が居ない世界では、生きて行けない。なんて大げさかしら。でも……そのくらい私はヴィー様にずっと傍に居て欲しいと思っている)
それはマドロールにとっては紛れもない事実だった。
「俺はマドロールを置いては逝かない」
「未来のことは分からないのに、不思議ですね。ヴィー様が断言してくださると、本当にそうなんだろうなと分かります」
「俺はお前が思っているよりもずっと……マドロールが居ないと生きて行けないんだ。マドロールと出会う前の人生など考えられない」
ヴィツィオの言葉を聞いて、マドロールは嬉しそうに笑った。
彼がこうして、彼女に執着にも似た深い愛情を持っていることを知るとただ心が温かくなるのだ。
「そうですか。ヴィー様が私の傍から離れていかないと分かると、ほっとします。ヴィー様は私だけのことを見て、他の人なんて見なくていいと思います。世の中には私よりも可愛い人も、綺麗な人も、魅力的な人もいっぱいいますし。ヴィー様に何かるではなくて、あなたが別の誰かに夢中になってしまったらどうしようって、そうも考えてしまいます」
ヴィツィオに抱きしめられたままのマドロールは、そんな言葉を口にした。
マドロールにとって、ヴィツィオは推しである。地球で暮らしていた頃、いつだって彼のことばかりを考えていた。そんな彼が実際に生きて、目の前で生きていることがどうしようもないほど嬉しい。
だけどその素敵さを実感すればするほど――、自分でいいのだろうかなんて不思議な感覚にはなってしまう。
「マドロールが一番可愛い。俺にとってお前に会えたことが、奇跡だ」
「ヴィー様が奇跡と口にするなんて」
「らしくないか?」
「そんなことは信じないのかなって思ってました」
「そうだな。でもそう言えるぐらい、俺はマドロール以外要らない」
愛など欠片も信じていなかった『暴君皇帝』。そんな彼は、皇妃と出会ったからこそ愛を知ったのだ。
――そして漫画の世界では全く言わないであろう、奇跡などという言葉を口にしている。
(漫画の中の、ヴィー様はこんなことをおっしゃる人ではなかった。ヒロインであるマリアナ相手でももっと堂々とされていて、弱気なところは見せなくて、マリアナにも……こんなに執着していなかった。でもヴィー様は私には少しだけ情けない姿を見せたり、こんなことを言ってくれている。――漫画の中の、彼とは違う。私は今の、目の前に居るヴィー様が愛おしいと思って仕方がない)
マドロールは、そんなことを思ってしまっていた。ヴィツィオはマドロールに関わることだけでこんなにも表情をころころと変わるのだ。
「ヴィー様、大好きです。ヴィー様が居たら私も、それでいいんです。不安とか吹き飛びました。ヴィー様が居るから、私は大丈夫なんですよね。そう思ったら安心しました」
他でもない彼が居るから、マドロールは安心出来た。もちろん、不安は感じたけれども、そのぐらいだった。
「ごめんなさい。話をさえぎってしまって。続きを聞いても?」
「もっと怯えないか?」
「大丈夫です。ヴィー様が抱きしめてくださっているなら、怖くないから。だから、私にちゃんと教えてください。私は皇妃としてきちんと知っておきたいんです」
マドロールがそう告げると、ヴィツィオは頷いた。
それからマドロールはヴィツィオに抱きしめられたまま、襲撃に関することの顛末を聞いた。
ヴィツィオは無事に勝利をおさめ、襲撃者たちと繋がっている貴族たちのあぶり出しも完了しているらしかった。
本当に何の心配もいらないと知り、マドロールは「流石ヴィー様!!」と満面の笑みを浮かべているのだった。




