「ヴィー様の戦っている姿を見られるなら見たいです」―皇妃、記憶喪失編⑱―
「やはり皇妃様に魔力の影響があるので、記憶喪失は魔法のせいであるのは間違いないですね」
グトファーガの言葉を真剣な表情で聞くマドロールとヴィツィオ。
マドロールは前世も今世も含めて、魔法というものに詳しくない。今世のマドロールは魔法を使えるほどの才能は持ち合わせていない。戦う力を持たない、ただの高貴な女性。それが彼女なのだから。
「そうか。どうにかできそうか?」
「はい。ただもう少し薬などを作るにしてももう少し時間はいただければと思います。無理やり魔力で解決しようとしたら皇妃様に悪影響――って、睨まないでください! もちろん、皇妃様に悪い影響がないようにはしますから!!」
慌てたようにグトファーガは叫んだ。
喋っているうちに、皇帝の目が鋭く細められていたのである。
……皇帝は皇妃に何かあるのだけは絶対に避けたいのである。
「陛下、皇妃様の薬のためにも素材集め手伝ってもらえませんか? 陛下の助けがあった方がすぐに見つかります」
「行くのは構わないが……マドロールを放ってはおきたくない」
「連れていけばいいじゃないですか。陛下が一緒なら危険なんて全くないでしょうし」
「それはそうだが……」
考え込む様子を見せるヴィツィオ。
それを見て、マドロールは声をかける。
「ヴィー様の戦っている姿を見られるなら見たいです」
それは本心からの言葉である。
マドロールは、目を覚ましてから様々なヴィツィオの姿を見ている。
そして漫画では見られなかったヴィツィオの素の姿を見ることが出来て嬉しくて仕方がない。だけれども見ることが叶うのならば――見てみたいと思っていたのである。
「駄目ですか? ヴィー様が守ってくださるんですよね?」
マドロールがそう問いかけると、ヴィツィオはすぐさま答える。
「ああ。お前のことは俺が守る」
そしてそのまま続けた。
「だから、連れて行く。置いていくよりも俺の隣の方が安全だ」
「……っ」
マドロール、夫のかっこいい発言にときめきから変な声を上げそうになっていた。
(もうっ、どうしてこんなにもかっこいい台詞を簡単に言うの? そんなことを言われたらときめかないわけがないのですけれど!? わ、私以外には流石にこんなことは告げていないよね? こんなときめき台詞を連発していれば絶対に……惚れられてしまうわ。そもそもヴィー様は存在しているだけで見る者をひきつけるようなカリスマ性がある方なのだもの!! ヴィー様のかっこいい、戦闘シーンなんて見た日には……同行者は絶対に好きになってしまうわ……! 女騎士や侍女の方が惚れてしまったら……!!)
マドロール、ヴィツィオにときめきつつそんな心配をしている。
「ヴィー様!! 私はヴィー様のことは誰にも渡しませんからね?」
「どうした?」
突然、叫ばれてヴィツィオは不思議そうだ。
ちなみにグトファーガは突然叫ばれてびっくりした表情である。
「ヴィー様の戦闘シーンなんて、それはもう素晴らしいものになるでしょう? ヴィー様が誰かに負けることなんて全く想像なんて出来ないのですけれど!!」
「そうだな」
「そんなヴィー様を見たら、老若男女惚れてしまうに決まっておりますわ! だってヴィー様は世界で一番かっこいいのですもの。私……今世の記憶がほとんどありませんし、私の立場を奪おうとする方もいるのではないかと思ってしまって!! 私はそんな方に負けないようにしなければならないのです」
マドロールがそう口にすると、グトファーガは呆れた顔をしていた。
おそらく「奪おうとしてもあなたの立場を奪えるわけがないでしょう」とそう思っているのだろう。
実際にマドロールの皇妃という立場は、誰かが奪えるようなものではないのである。
そんなことをしようとしたら、問答無用で皇帝に首を刎ねられること間違いなしである。そもそも誰かが見目美しい皇帝に懸想する人間というのは幾らでもいる。そんな者がこれまでどうなったかと言えば、妻にしか興味がない皇帝に冷たくあしらわれ、行動を誤ったものは排除されるだけである。
「そうか」
「はい。ヴィー様の周りには可愛くて、素敵な子が沢山寄ってくると思うので私は負けないようにします……!!」
「マドロールが一番可愛いから安心しろ」
「も、もうヴィー様ってば……っ!! ヴィー様に可愛いと言われただけで、と、ときめいて仕方ないんですよ!! ヴィー様、他の女性に可愛いなんて言ったら駄目ですからね? ヴィー様にそんなことを言われた人は絶対に惚れてしまうんですから」
「マドロール以外には言わない」
「ヴィー様ってばぁ……!!」
顔を赤くしてマドロールはもだもだしている。
そんなイチャイチャしている皇帝夫妻を前に、グトファーガは遠い目になるのだった。
そしてそれから数日後、皇帝夫妻は魔法使いや騎士達などを連れて素材集めに向かうことになった。
マドロールは戦いを見学しに行くわけだが、ヴィツィオが居るので全く心配はしていないようだ。ただ彼女はにこにことしているのだった。




