「暴力沙汰が起こるなんて、びっくりだわ」―第一王女の学園編⑥―
オアリンネは学園を退学した。そして婚約も解消された。それもこれもロルナールが働きかけたからである。それに対して第三王子たちは「悪女を成敗した」と得意げだったらしいが、帝国の皇女であるロルナールのもとへ行くことが決まっているオアリンネのこれからの人生は輝きに満ちていることだろう。
エルマルアは魅了が解け、第三王子や男爵令嬢たちとは距離を置いている。また、家とは絶縁したらしい。有言実行である。
――そして驚いたことに、いまだにこの国は第三王子たちへの対策をしない。
(大切ならばさっさと対応をしたらいいのに。それなのに、これだけ時間をかけているなんて……。ちょっとした魅了だからって甘く見ているのかしら?)
ロルナールがこの国の王に魅了の魔法のことを告げてからしばらくが経過している……というのに相変わらずだ。
どんどん第三王子たちは暴力的になっているらしい。というのをロルナールは噂で聞いていた。
実際にそれを見てはいない。
そういう暴力的な面をロルナールに見せないように影たちが全力を尽くしているからというのもある。ロルナールはあまりそういう暴力沙汰に関わったことはない。大切に大切に守られてきた皇女のことを周りはとてもいつくしんでいるのだ。
「凄いわね。あの子に近づく人のことを牽制しているのでしょう? そしてそれを許している親もびっくりだわ」
「本当にそうよね。巻き込まれないか心配だわ」
友人であるヨゼフィーの言葉に、ロルナールはにっこりと笑う。
「大丈夫よ」
ロルナールの友人たちが巻き込まれないように、帝国の影が動いている。おそらくよっぽどの不測の事態にならなければロルナールに何かあることはないだろう。というか、ロルナールに何かがあればこの国はただではすまされないだろう。
ロルナールが自信満々に言い切るのを見て、友人たちは不思議に思いながらもロルナールの笑みを見ると嬉しいのかにこにこと笑った。
第三王子たちの関係で学園内の空気はピリピリしているが、ロルナールは相変わらず楽しそうに学園生活を謳歌している。
「きゃああああ」
……ある日のことだ。ロルナールが穏やかに学園生活を送っている中で、悲鳴が聞こえた。
ロルナールはその悲鳴を聞いて、驚いた。こういう悲鳴を身近で聞くことなどロルナールにはなかったから。
倒れている女性がいる。
その前には、第三王子たち一味。それでいて目を潤ませる男爵令嬢。
(暴力沙汰が起こるなんて、びっくりだわ)
そう思いながらその騒動に近づこうとするロルナールだったが、皇室の影に阻まれて見ることは出来なかった。
殴られてしまったのは、正義感の強い令嬢だったようだ。オアリンネに対してあんまりだとそんな風に思っていたようだ。
身分の高い者に対して何も考えずに意見を言うことは自分の身も危険にさらしてしまうような愚かな行為である。
とはいえ、ロルナールはそうやって誰かのために意見が出来る人を嫌いではない。そのためロルナールはその令嬢のことも帝国に連れて帰ろうかなと使いを出してみることにした。
(それにしても、これだけ暴力沙汰まで起こしているなら早く王家で回収した方がよさそうだけど。王家の方でも第三王子たちの扱いに関してどうするべきか色んな意見が出て結局動けないでいるみたいだけど)
ロルナールはそんなことを考えていた。
ちなみにロルナールの通う学園で暴力沙汰が起こっているので、使用人たちは「学園に通うのをしばらく休んではどうか?」とロルナールに言っていた。ティドラン王国の下級貴族の令嬢という立場で学園に通っているロルナールにも、何かの拍子に第三王子たちが何かやらかすのではないか? と心配しているのだろう。
そういう風に危機感を感じて学園を休む生徒も最近はそれなりにいる。
ただロルナールは面白そうなので、そのまま通うことを選択した。
「ロルナール様に何かあれば、陛下がお怒りになるのでくれぐれも危険なものには近づかないでくださいね?」
「分かっているわ! でも帝国だとこういう事態を目撃することもないでしょう? お父様ってば過保護だから、ああいうのを目撃することもないもの」
そんなことを言いながらロルナールはにこにこしていた。
……ちなみにそんな様子は帝国にしっかり伝えられているので、ロルナールのもとに帝国から人がやってくることになった。




