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「マドロールが可愛い」

以前書いた短編のその後とか色々含めた物語です

 その日、帝国の皇帝であるヴィツィオは何か考えるように黙り込んでいた。



「えーと、陛下、どうしました?」



 ヴィツィオとは昔からの仲である文官――ロレンツォは何か物騒なことを皇帝が考えて居たらどうしようと思いながら恐る恐る問いかけた。



「……マドロールが可愛い」

「はい? えっと、皇妃様が可愛いのは周知の事実ですが、それがなんですか?」



 言い放たれた言葉はロレンツォにとって予想外のことだった。



 目の前の暴君が、小国より嫁いできた皇妃を溺愛しているのは王城では周知の事実である。



 つい先日まで皇妃への愛情を認めていなかったのに、急に自分が皇妃を愛していることを自覚したのか人前でも皇帝は皇妃への愛を示している。

 正直、ロレンツォは可愛いから何なのだ? と思っていた。



「マドロールが着飾った姿を見れば、手を出そうとする馬鹿が出るかもしれない。いっそのこと、マドロールを閉じ込めておくか、それか参加者の目をつぶすか」

「ちょいちょいちょい、陛下。皇妃様は陛下のことが大好きですから多分閉じ込められようが喜んで閉じ込められそうですが! でもやめましょう。皇妃様は陛下の色を纏って社交界に出るのが好きでしょう? それに人と会話をするのも好きな方です。閉じ込めるのはやめましょう。あと、流石に陛下が溺愛している皇妃様に手を出そうなんて馬鹿な真似をする人はいないですよ。だから安心して陛下が好きなように着飾った皇妃様を社交界に出していいです。というか、皇妃様に手を出す馬鹿がいたら騎士達がどうにかしますしね!」




 愛する気持ちを知った皇帝は、皇妃のことが可愛くて仕方がなく思っているらしい。



 それで着飾った皇妃を表に出すのは危険ではないかと本気で悩んでいるようだ。その様子を見てロレンツォは必死に止めた。それと同時に面白くて仕方がなかった。




(あの陛下が……誰かを愛する時が来るなんて。そしてこんなことを大真面目に悩んでいるなんて)





 ヴィツィオは、愛を知らない、誰も愛さないような男だった。

 そもそも他人に関する関心もなく、どれだけ美しかろうが、女性を特別視したことはなかった。気まぐれに身体の関係を持つことはあっても、その女性がヴィツィオの特別になろうとしたら切り捨てたり……というのはよくある話だった。



 ヴィツィオは顔が良い。それでいて、皇族である。強く危ない雰囲気のヴィツィオに惹かれる女性は数知らずだった。しかし、まぁ、流石に何人もの女性がヴィツィオの愛を得られないのを見て、流石に周りのあの暴君に近づくのは……と怯えるものも多かった。




 だからこそ小国から皇妃であるマドロールが嫁ぐことが決まった時、正直ロレンツォたちはマドロールに同情していた。

 身一つでこの帝国にやってきて、夫にも愛されず過ごす皇妃は大変だろうと。

 だけれども皇妃はその予想を良い意味で裏切った。

 初夜でマドロールとヴィツィオの間でどういうやり取りがあったかは分からない。だけれどもヴィツィオがマドロールを気にする何かがあったのだろう。





(……そもそも皇妃様は、最初から陛下に対する怯えがなかった。陛下が暴君であるのを知らないというわけでもなく、知っていてあれだから肝が据わっているというか。大体、許可されたからってこの陛下のことを「ヴィー様」呼びしている時点でやばいからな)




 噂を一つでも知っていれば、そういう愛称でヴィツィオを呼ぶというのは普通なら躊躇うことである。機嫌を損ねれば自分の首が飛ぶ可能性がある。ヴィツィオは自分の妃であろうとも本当に気に食わなければすぐに殺す。



 そういう男であることをロレンツォは知っていた。

 それに許可されたからと「ヴィー様」と駆け寄っていくことも含めて、皇妃であるマドロールはロレンツォの目から見て凄い人だった。




 そんなこんな考えている中で、皇妃本人が部屋にやってきた。




「ヴィー様!」




 大体、マドロールはその場にいる文官たちに目もくれずにヴィツィオに駆け寄る。そもそもマドロールは周りから見てもヴィツィオのことが好きすぎる。どんなに美形が近くに居ても、ヴィツィオこそ最高という目でヴィツィオを見ているのだ。

 ――そういうマドロールだからこそ、ヴィツィオも気に入ったのだろうとロレンツォは思った。




「マドロール」




 ……ただマドロールを見た瞬間、甘い顔をする主君を見ると何だか落ち着かない。あとすぐにこの二人はいちゃつきだすので、落ち着かないのだ。




 今だって、目の前で口づけを始めたのでロレンツォは「ちょっと席はずしまーす」と言って他の文官たちと一緒に外に出るのだった。


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