21話 女王と一般人の喧嘩
「────あがッ!!」
木やプラスチックと違って大理石を使ったテーブルはかなり頑丈に出来ている。
おかげで春夜の掛けていたサングラスは叩きつけられた衝撃で砕け散り、皿やらグラスやらテーブルの破片やらが鼻や頬、そして口などを切って赤い血がダラダラと溢れ出てくる。
格式高い店で暴力沙汰を起こしただけでも大問題なのに、暴力を振るった人物が鏡の国の女王と来た。
お客含め従業員含め、辺りにいた者全員の注目を瞬く間に集めると、チュンは床に転がった春夜の顔を右足で踏みつけては苛立ちが滲み出た声を発する。
「私が国を任されてから暫く経つけど、こんな仕打ちをされたのは初めてよ。度々命を狙われる事はあっても私の力で有象無象は例外なく捩じ伏せてきた。けどまさか、信頼している店から刺客以上に腹立たしい存在が出てきたとはね。店を潰される覚悟はしておきなさい」
「うぐッ……ひ、人の、顔に……汚ねえ靴を、乗せるんじゃ…………ねえッ」
左頬をヒールで潰され、現在タコのような口になっている春夜は、女王の白い足首を左手で掴んでは顔から引き剥がそうと力を込める。
この状況に陥った時点で、従業員仲間の猫又は助けに来てもいい筈なのだが、下手に干渉して自身が暴力を振るわれるのを危惧した猫又はまさしく小心者。
巻き添えを喰らわぬよう離れた場所で狼狽する猫を始めとし、この騒動を収めようとする果敢な者は誰一人として居ない事にガッカリする春夜は白目を剥いた。
「周りを見なさい糸南水月。ここに居る者全員が私を怒らせたらどうなるか知っている。いくら貴方が店の代表を語っても、貴方の為に犠牲になろうとする者なんて誰一人として居ないわ……ふふ、哀れね」
「んなもん、はなから期待なんてしてねえよ!」
女王の足が頬から離れないと分かった以上、左手に力を込めても何の意味もないと判断した春夜は、彼女の足首から一旦手を離すと、床に四散したテーブルの破片を掴み取るや否や、チュンの脹脛にそれを刺した。
先の尖った大理石は豆腐に刃物を入れるように容易く女王の肉を貫く…………筈だった。
しかし女王の脹脛は鉱石でも含まれているのではと疑ってしまう程硬く、石の破片が春夜の手のひらの皮を裂くと、ただ無駄に出血しただけとなってしまう。
「あー、マジか」
足首を掴んだ時は柔肌の感触が手の中に伝わってきて、そのままポッキリ折ることも可能なくらい華奢な脚だったのに、女王もまたデコ同様に妖力を使って肉体を強化する事が可能なのか。
少しぐらい痛がってくれてもよかったのだが、春夜の思った通りにはならず、女王を余計怒らせただけだとなってしまう。
「私の美脚に傷を入れようとするなんて、貴方は躾が必要みたいね」
「何が美脚だ、この自意識過剰の老け顔」
「────減らず口は嫌いよ」
圧倒的な不利な状況を背負っているのに敗北を認めるどころか、毒を吐くのを一向にやめない春夜に苛立ちが募るチュンは右足をスッと上げると、彼が二度と口を開けぬよう顔をぐちゃぐちゃに潰す勢いで、その足を再び振り下ろした。
春夜は咄嗟に顔を天井の方に向けて、迫り来る靴底とスカートの中にある愛らしいマスコットが刺繍された年齢相応のパンツを確認すると、チュンの攻撃を回避できない事を直ぐに悟った。
物の動きを全て見通す事のできる春夜の右目……即ち彼の能力である青い瞳を使用していればチュンの攻撃など容易に躱せるのだが、今から赤い目を変色させたところで、彼女の動きを読み取る事はできても、その動きに体が追いつかない春夜は、今この瞬間だけは妖怪の身体能力が羨ましいと思ってしまう。
猫又は両手を合わせ『アメーン』と呟き春夜の生命を諦め、焼肉のタレで理性を欠いた玄秋斎は店内で暴力事件が発生している事にすら気付いていない模様。
そして遂に女王の裁きが下ろうとしたその時、チュンの足が春夜の顔に触れる手前で右に逸れると、どういうわけか顔の中心ではなく彼の左耳を掠める結果となった。
初めから脅しのつもりで足を振り下ろしたのかと思いたいところだが、先程の女王は男の顔面を潰す気満々で、春夜の赤い瞳とチュンのサングラスの奥にある瞳が重なり合った途端、ハッと慌てたように彼女は攻撃の軌道をずらした風に見えた。
「……嘘でしょ…………何で」
まるで幽霊を前にしたような反応を見せるチュンは一体どうしてしまったのか。
愕然と口を開いては動きがピタリと止まるチュンに対し、目を丸くした春夜は冷や汗が止まらない。
「うひゃー、あっぶねぇ」
「ねえ……貴方、本当に糸南水月?」
「あ? 何言ってんだ当たり前だろ。何度だって言ってやるが、俺は夜の営みをこの上なく愛する男、糸南水月だ。もし俺のことが少しでも気になるっていうなら、家族や友人なんかに俺の存在を伝えてもいいんだぞ。この変態紳士、糸南水月の名前を」
「…………売名?」
取り敢えず自身が白銀の王子様『糸南水月』である事を貫いた春夜だが、チュンの反応を見る限り自分の事を知っている予感しかしない。春夜はこれ以上厄介な問題を増やさない為にも自身の正体を何としてでも隠そうとするのだが、やる事なす事全てがうまく行かない彼の耳に突如聞き慣れたフレーズが飛んでくると────
「────あれ、兄やん!?」
その声の主は作務衣の格好で前髪の中心に一本角をつくる裸足の少女。
つまりは春夜の妹、夏出小春に特徴が合致した人物なのだが、彼女はハート型のピンクのサングラスを掛けていた。
「……も、もしかして小春か?」
「yeah! ウチはイケイケ小春だyo!」
「パリピかぶれは、みっともないからやめなさいッ!」
「えー、ちょっとくらいイイじゃんかー」
小春の登場により場の空気が更に混沌としたものになると、チュンの表情は更に曇りを増し、彼女は胸元を手で押さえつけると、二人の兄妹から離れるように化粧室の方まで足早に去っていった。
躾をすると断言してこの有様。
困惑した春夜はその場から立ち上がると、セットした髪の毛はいつの間にやら崩れ、前髪が下りた状態となっていた。
「途端に呼吸が荒くなっていたが、大丈夫かアイツ」
「兄やん最低。また女の人泣かした」
「適当なこと抜かすな。サングラス掛けてたから泣いてるかどうか判らなかっただろ」
女王が簡単に涙を流すとはとても考えづらいが、チュンが立ち去ってくれた事でこれ以上、傷を負う必要がなくなった春夜は一先ず安堵する。
「それにしても兄やんも懲りないねー。つい先日、ボコボコにされて帰ってきたっていうのに、ここでもまた揉め事を起こして……お母さんに怒られても知らないよー」
「母さんはもう既にブチ切れてるから安心しろ。というより小春、ずっとこの店に居たのか? 姿が全然見えなかったが」
「居たよー。裏の厨房で職場体験させてもらってたんだ。ほら、今掛けてるサングラス私が作ったんだよ!」
「さ、サングラス? 家事もできないお前がサングラスを作っただと?」
兄が妹の為に労力を費やしていたというのに、小春は裏で職場体験をしていたとは一体どこまで呑気な奴なのか。
店の裏側までしっかりと確認しなかった春夜も悪いが、何より店の厨房でサングラスを製造できる設備が整っていたとは……
それもあの不器用な小春が事故を起こさずにサングラスを作れる設備が……
すると酷い言われようの小春は兄の顔にできた生傷に爪を立てると、赤い風船のような膨れっ面になっていた。
「失礼だなぁ。たしかに私は家のことを何にも出来ないけど、工作はまた別だよ! フレームにレンズ入れるくらい私だって簡単に出来るんだから!」
「おい小春……君はアホの子かい? フレームにレンズ入れるのはサングラスを『作った』って普通は言わねえぞ。どうせ、そのハートサングラスも完成させるまで相当の数のフレームとレンズを無駄にしたんだろ」
「そんな事ないよ。フレームは500個くらいでレンズは2000枚程度かな。まあ、いつもよりは調子良さげって感じ!」
「はあ、悪い事は言わねえ。小春……お前は今からでも干物女を目指せ。俺や母さんが生涯をかけて面倒見てやる」
「ねえ、いくら兄やんでも言っていい事と悪い事があるんだよ。何で自らダメ人間の道に進まないといけないの」
「今回の件で再度はっきりしただろ。小春の行動一つで家は文字通り滅茶苦茶になる。これが何よりの答えだ」
近い将来、小春に恋人ができて結婚して子供ができて、我らが母『夏出美春』と同じ二児のお母さんになる日がやって来るかもしれない。
当然、お母さんになった小春は愛する我が子に手作り料理を振る舞いたいと身の丈に合わない願いを抱くのだが、彼女が包丁を握った瞬間、旦那と子供達は彼女の前から忽然と姿を消してしまう。
原因は言わずもがな常識では計り知れないほど不器用な小春が、今回みたくリビングを別の空間に…………ではなく旦那と子供を別空間に飛ばしてしまったから。
小春は直ぐに知人や警察などに協力してもらい、旦那や子供の捜索を行ったが、人生は非情なり。
自らの手で愛する者を失い、自暴自棄になった小春は残された家族……つまりは美春と春夜、そしてスズを呼び出すと、出刃包丁で一人一人の腹を刺していき最後は自らの首を刎ねて物語終了。
そんな身の毛もよだつ未来を想像してしまった春夜は、心中物語を現実なものにしない為にも、人生の殆どを放棄することを妹に提案するのだが、勿論小春は兄の馬鹿げた妄想など信じない。
「まあ、どうしても家族の世話になりたくないっていうなら、凍呼や水月に頼んで世話してもらうって選択肢もアリだぞ。アイツらは何だかんだいい奴だし、簡単には死ななそうだしな。あ、但し遠藤茉未……あの暴力教師だけは絶対に駄目だからな」
「あまりにしつこいと兄やんだけここに置いて、私は家に帰るよ」
「あはは、悪い悪い。少し揶揄いすぎたな────って、帰り道知ってんのか小春。ここ国外だぞ?」
「帰り道知ってるも何も、家に繋がってる扉あるから飛行機とか電車とか乗らなくも簡単に帰れるよ」
「家直通の扉があるってマジか!? 俺がここに来た時、一瞬でリビングの扉消えたけど、まだ別の扉があるって事だよな?」
「あはっ! 教えなーい」
パスポートや金を必要とせず、簡単に家に帰れる方法を知った春夜の瞳に微かな輝きが宿ると、そんな彼に対し悪戯な笑みを浮かべる小春は兄の態度を改めさせようとする。
「……はいはい分かったよ。小春が独り立ちできるよう、少しずつ家事を教えてやる。ただ、日進月歩という言葉に最も縁のないお前が家事スキルを会得できるとは限らないから期待はするな」
「いや、私が求めてるのはお嫁さんに行く為の家事スキルじゃなくて、妹の人生の行く末を黙って見届ける兄の姿なんだけど……はあ。それを兄やんに求めたところで叶わないっていうのは分かってるから、もう帰ろ」
兄はただの過保護なのかそれとも妹を貶したいだけなのか、春夜の意図が汲み取れない小春は可愛らしい溜息を吐くと、自分についてくるよう兄の腕を引っ張った。
チュンによって破壊されたテーブルや皿やグラスの片付けを他の従業員に任せて自らだけが立ち去ろうとは……
女王との悶着の間、素知らぬふりをかましていた猫又は彼らの進行方向に立つと春夜が道を進むのを阻んだ。
「ちょっと君、待つミャウ!」
「おお、どうした薄情猫」
「薄情言うなミャウ! やっぱり君はボクが予想していた通り全裸男だったミャウね!」
「全裸じゃねえよ、パンツ一丁だ。重要なとこ間違えんな」
春夜がここに来た目的、即ち小春を見つけることに成功した彼は今更自分を偽る必要はないと、全裸ではなくパンツ一丁姿でやって来た事を認める。
すると兄の腕を上下にブンブン振る小春は猫又を指さすと、目を爛々とさせていた。
「兄やん兄やん! この猫ちゃんってもしかして猫又? 尻尾二つある猫だし絶対そうだよね!」
「知らね。異様に長いケツ毛が二本生えた猫又もどきなんじゃねえか」
「誰の尻尾がケツ毛ミャウか! お嬢さんの言う通りこの尻尾は本物で、ボクは猫又ミャウよ!」
「──ほら、やっぱりそうだよ兄やん! この猫ちゃん、『魔法少女グランマ』第5386話でグランマのポカポカ破壊光線で頭吹き飛ばされた怪人猫又サンシャインと一緒だよ! ねえ猫又さん、肉球触ってもいいですか!?」
「……こ、断るミャウ」
女児向けアニメに出てくる怪人と目の前の猫又が全く同じ外見をしている所為か、一気に感情が昂る小春は純粋な笑顔を向けるのだが、彼女の口から発せられる悍ましい内容に表情が固まる猫又は少女の頼みを断ってしまう。
小春はよほど猫又の肉球に触れたかったのか、現物の猫又を見るのが初めてな彼女は猫に拒絶される事でしゅんと萎れてしまうと、それを見兼ねた兄に頭をわしゃわしゃされる。
「おいおい、こんなとこでいじけるなよ小春。どうせ猫又なんて日本に戻ってもいくらでも会えるだろ。俺たちの住む町以外でなら」
「兄やん…………な、何で服脱いでるの?」
思わず二度見してしまう春夜の格好は店を訪れた時のようにパンツ一枚の姿になっていて、冷ややかな目で兄を凝視する小春はこのタキシードが他人の物である事を知らない。
「やる事はやった。俺のおかげで高圧女は二度とこの店に来る事はないだろうから、まあ安心しろ……多分。それとこの服は店長に返しておいてくれ……香水が地味にくせえ」
春夜は体に染み付いた香水の匂いを気にしながら、床に散った服を蹴ると猫の足元の方に寄せた。
一応拝借という形で店長から剥いだ服の為、借りた物は返すという筋を通しているのだろうが、服を畳む事すらしない彼からは誠意をまるで感じ取れない。
「何がやる事はやったミャウか! カッコつけんなミャウ! 君がやったのはただ他国の王様を怒らせて事態を最悪な方向に持っていっただけミャウよ!」
「うるせえな。お前は俺と過ごせた時間が楽しかった……それでいいじゃねえか。もっと気楽にいこうぜ兄弟」
「何が兄弟ミャウか…………言っとくけど、ボクが消される時は君も一緒ミャウよ。店の防犯カメラやらテーブルに付着した君の血液なんかを丸々チュン様に提供してボクは普通に君を売るミャウからね!」
「好きにしろ。俺の前から逃げ出した時点で、アイツの力量はたかが知れてる。いくら力が強くても、心が脆い奴は俺に嬲られるだけよ」
「君のその物怖じしない姿勢には感服するミャウが……流石に相手は選ばないと早死にするミャウよ」
「ハッ、少しでも相手を不快にさせて死ねるなら本望だな」
人に媚び諂うくらいなら人を不幸にして死んでやると、道連れタイプの思考をする春夜につい言葉を失う猫又。
チュンが店を徹底的に潰しにやって来るか、自身の心の平穏の為に自ら店と関わりを持つ事をやめるか、女王がどっちに転ぶか分からない現状で、一番の戦犯ともいえる春夜だけがこの場から退場しようとは……
今直ぐにでも喉元に噛み付いて血を噴出させてやりたいところだが、勿論そんな度胸はない猫又は妄想の中で春夜を泣き喚かせる。
「ま、どこかで会う機会があれば猫カフェにでも連れて行ってやる。キャットフードもあるから楽しみにしとけ」
「君とは二度と会わないから楽しみにしないミャウ。それにボクは猫又であって猫じゃないから、キャットフードなんて不味い物死んでも食べないし、ネギトロ軍艦しか受け付けないミャウ」
「猫も猫又も大差ねえだろ。寿司じゃなくカリカリを食え、カリカリを」
寿司を食う猫などフィクションの世界にしか存在しない為、猫は猫らしくキャットフードでも食ってミャーミャー鳴いてろと告げる春夜は猫又の横を通り過ぎると、長きに渡るタダ働きがようやく終止符を迎える。
大富豪の豚に会い、弱腰の猫に会い、傲慢な女王に会いと、あまりに濃い一日を過ごした春夜は既に疲弊していて、化粧室の隣に設置されたシャワールームの前まで兄を連れてきた小春はその扉をそっと開いた。
「シャワールームまで置いてあるとは、結局この店は何だったんだ」
「サングラス屋さんらしいよ」
「メガネ屋じゃなくてサングラス専門店ってとこか。どうりで所々、話が噛み合わない訳だな。あぁッ、気持ち悪すぎて鳥肌が立ってきた」
春夜の知ってるメガネ屋もといサングラス専門店は、店内に置いてある様々なサングラスを自由に試着し、自分に合った商品を決めてから購入するのが通常の流れなのだが、妖怪の国……それも成金が利用する店となると一風変わった商売方法になってくるのだろう。
客に対してドリンクを提供するのも、メニューを読み上げてサングラスを注文するのも、テーブルに皿が置いてある意味もまるで分からなければ異質すぎるこの空間に気分を害する春夜は、扉の奥に見える小春の部屋らしき場所に足を踏み入れると、初めての妖帝府で感動したのは夜景のみとなった。
無事、ではないが小春と我が家に帰り、妖帝府に繋がる扉が消失したのを確認した春夜はそのまま妹のベッドに突っ伏すと『だあぁぁっ』と非常に長い溜息を吐きながら静かに目を閉じた。
「お疲れだね、兄やん」
ベッドの縁に腰を下ろした小春は未だサングラスを掛けた状態で、春夜の体調を気遣う。
「病み上がりの体に鞭打ったんだ、疲れて当然だろ……そんなことより小春は職場体験楽しめたのか?」
「うん楽しめたよ! 色んなサングラス試着して、鏡の前でモデルさんの真似して、イケイケなサングラスも手に入れて、もう言うことなし! わたくし夏出小春は大満足であります!」
「そっか……そりゃあ良かった」
「兄やんは楽しかった?」
「いいや全く……と言いたいところだが、大都会の夜景には心奪われたな」
「……ぷっ、あはははッ! あ、兄やんが心奪われるって何か変!」
「仕方ねえだろ。あんな景色、こんなド田舎で見ることなんて出来ねえんだから」
柄にもないことを言った所為か、夜景で心を突き動かされた兄を小馬鹿にする妹は掛けていたサングラスを外して机の上に置くと、春夜の背中にピョンと飛び乗った。
「──ぐふゥッ!?」
「私も疲れたから寝るー! だから兄やんは自分の部屋のお布団で寝てくださーい!」
「部屋まで移動する気力は残ってない……俺のベッド貸すから、小春はそこで寝てくれ」
「残念ながらその要求は飲めないですよー! 兄やんは何せ、妹の下着を盗む変態ですからねー! 兄やんがどうしてもここで寝るって言うなら私は妹として兄やんの寝顔をしっかり監視しないと!」
「だからパンツを盗んだのは俺じゃなく水月……あぁ、駄目だ。喋るのも億劫……」
「ふっふっふ! そのまま眠ってしまいなさい変態兄やんよ!」
小春の赤い瞳にジッと見られながら眠りについた春夜は、スースーと軽い鼻息を立てている。
散々文句は言いながらも何だかんだで妹を真っ先に探し出そうとする妹萌えな兄の頭を撫でる小春は優しく微笑んだ。
そして兄に続き彼女もまた瞳を閉じると、小さなベッドに並んで兄妹仲良く一日の終わりを迎えた。