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12話 下着泥棒、被害者の気持ちを理解する

 山の登り下りで時間を浪費し、太陽も沈み始めた頃。

 下山途中で意識を取り戻した水月は自身の足で歩行しているが、未だ顔色が優れない様子。

 対して子猫を頭の上に乗せるチビヤクザは目尻を下げて小動物に癒されている。


 そんな二人は仏頂面の春夜の後ろを歩いていると、彼が辿り着いた場所は波山羊町のような田舎ではよく目にする一軒の和風住宅。

 玄関に続く石畳の上を歩き、わざわざ最も背丈の低いアフロにインターホンを押させる春夜は水月を壁にし背後に隠れていた。


「──はい、誰ザマス」


「あ、夏出ですー。犬捕まえてきましたー」


「──あー、下着泥棒ザマスね。ちょっと待つザマス」


 今の時代に『ザマス』口調を使うとは、古代を生きる人間がここに棲んでいるのだろうか……

 先刻春夜から聞いていた話では、依頼主は若い男に女装させ、撮影会を称した視姦タイムを始める性癖の持ち主である為、一行は警戒心強めで婦人の登場を待っていた。


「お前ら……何があっても俺を裏切んなよ」


「いや、真っ先に裏切る可能性のある奴がそれを言うか。のう水月」


「あはは、確かにね……けどここからは一蓮托生で行くよ。二人とも」


「「おうッ!!」」


 もうこの時点で怪しい予感しかしないが、野郎三人はうっすい友情魂とやらを大袈裟に魅せると、玄関の戸が外側に開くのを確認した。


「……あら、下着泥棒一人じゃないザマスね」


「「「──ぬゔっ!?」」」


 玄関から姿を見せた五十路過ぎのババアに即絶句する一同。

 ババアは顔面のシワを厚化粧で誤魔化し、加齢臭もどぎつい香水で誤魔化しと、まあ年相応の容姿をしていたのだが……

 ババアの年不相応な金髪ツインテールと黒のバニーガール衣装は、彼らの精神に多大なダメージを与えた。


 水月は目をそっと閉じながら静かに吐血し、春夜とチビヤクザは硫酸を顔面にかけられたような反応をして両手で目を覆っていた。


「あかん、これはあかんやつや! まともに直視したら眼球が腐るどころか、脳みそぐちゃぐちゃにかき回されて廃人確定になる! 毒……人体に影響を及ぼす猛毒そのものやぞ、このババア!」


「──母さぁあああんッ! お母ッさぁああああんッ!!」


 ここに来て夏出美春のような美人女性が母親で心底良かったと思う春夜は、母の体操服姿や水着姿などを次々と妄想(イメージ)していく事で、醜悪なババアの情報を即座にかき消していく。

『美』は『醜』を断つとはまさにこういった事かと、今回ばかりは母親に助けられる春夜であった。


「それで下着泥棒。わたくしの可愛いヰヰ(うぃうぃ)ちゃんはどこザマス?」


 春夜のマザコンは兎も角、初対面にも関わらず失礼極まりない発言をするチビアフロに一切動じないババアは、己の格好がおかしい事に気付いていないのか。

 それとも所詮は餓鬼の戯言として適当にあしらっているだけなのか……


 野郎共は金髪ツインテール熟女の顔を視界に入れぬよう、(たる)んだ腹にのみ視線を向けた。


「チビヤクザ……ババアにヰヰを渡してやれ」


「おう『犬』のヰヰやな」


 春夜とチビヤクザは例の作戦を決行しようとしていた。


 波山羊町在住、五十路過ぎババアの特性『老眼』と『ボケ』を利用して、犬神から預かった猫をババアの愛犬『ヰヰ』として扱う。

 そうする事により春夜が用意した猫を犬だと錯覚するババアは、迷い犬探しの依頼が達成された事を彼らに言い渡す。


 不名誉な称号も町に広がる事もなくなり、いつもと変わらぬ日常を過ごせると考える春夜だが……


 これらの作戦を下山途中に聞かされていた水月は正直訳が分からなかった。

 五十路過ぎた人間は確かに視力が低下し、物覚えも悪くなる。

 しかし人間には触覚と聴覚があるのだ。

 猫と犬の違いなど手で()れれば簡単にわかるし、鳴き声だってワンとニャーで大きく異なる。


 猫を犬として誤認する程、年配者も甘くないだろうと、作戦が失敗する未来しか見えない水月。


 勿論、その様な作戦に異を唱える彼であったが、馬鹿二人は石のように頭が固い為、これで行くの一点張り。

 故に諦観(ていかん)の笑みを浮かべる水月は祈る他なかった。


 そしてチビヤクザは作戦通りにフッサフサのアフロから子猫……ではなく山で捕まえたオオクワガタを取り出すと、ババアの弛みきった腹をアゴで挟んで固定した。


「「──は?」」


「いやあホンマ探すの苦労したで、お宅のワンちゃん」


 開始早々から大事故を起こす阿呆アフロ。

 本来なら子猫を渡して事を進めていく筈が、いつの間にオオクワガタを差し出す作戦に変更してしまったのか。

 状況が掴めないイケメンコンビは狐につままれたような感覚に陥ると、ババアも虚ろな目でオオクワガタを黙視していた。


 これは流石に『おはなし』が必要。


 アフロを鷲掴みにした春夜はババアと距離を空けるべく、チビヤクザを道路の方まで引きずると声を荒げた。


「──いきなり作戦破綻させるとはテメエいい度胸だなァッ! 何で猫じゃなくクワガタなんか渡してんだ! てめえはあれか、無脊椎のクワガタと脊椎の犬が同じに見えてんのか!? だったら今すぐ眼科行けよッ! てかクワガタどっから持ってきた!?」


「そりゃあ山からに決まっとるやろ」


「んな事知っとるわ! 知ってて敢えて聞いたんだよ! というか問題はそこじゃねえだろ──さっさと猫渡しやがれこのクソアフロ!」


 こんなにもくだらない依頼に半日も費やしたんだ。

 汗で服を濡らしながら商店街を歩き回り、実用性が殆どないアイテムに大枚を(はた)き、登山したかと思えば犬に金◯噛み潰されて……

 ここまで来て計画頓挫はいくら何でも笑えないだろと、春夜はチビヤクザのアフロに手を突っ込んで埋まった子猫を引っ張り出そうとする。


「や、やめろクソったれ春夜! あのような不浄なる者にワッシの餡子丸(あんこまる)を渡してたまるか!」


「おいチビヤクザ、まさかてめえ猫に情が湧いたんじゃねえだろうなあ!? 何が餡子丸だ、その猫には既にウィーウィーって名前が付いてただろうが!」


「ぐッ嫌や! 絶対に嫌や! 餡子丸は絶対に離しとうないッ────たっ、助けてええ! 誰か助けてくれえッ! 痴漢……ワッシ今、男に痴漢されとるっ!!」


「くそッ、往生際の悪いアフロだなあッ!」


 子猫を守るためとはいえ、まさかチビヤクザが裏切ってくるとは……

 許可なく改名する程、猫に愛着が湧いたか。


 しかし握力30のチビヤクザでは春夜に力で敵うわけもなく、彼は痴漢被害者を装う事で通行者を味方につけていった。

 だが、チビヤクザの行動も虚しく……日頃から冷たい視線を向けられている春夜はその状況にすっかり慣れてしまっている為、アフロの中から容赦なく子猫を引っ張り出した。


「ミャッ、ミャーミャー!」


 突然頭を掴まれた事で驚くウィーウィーこと餡子丸は、春夜の手の中で暴れている。


「なあホンマに頼む、春夜! その子だけは見逃してやってくれんか!? あのババアは人類のダークサイドなんや……そんな奴に餡子丸託したら、闇に飲まれた餡子丸が暗黒丸になっちまう! ええんか、こんなにも愛らしい子猫がババアの様なケバい化け物になっても」


「はっ、俺の知ったことか。それに餡子丸より暗黒丸の方が強そうで良いじゃねえか」


 春夜は己の目的の為に子猫をババアの元へ連れて行こうとし、チビヤクザは子猫がババアの犠牲になるのを阻止しようと彼の右足にしがみついて動きを鈍くさせる。


 しかしいくら動きを鈍くさせたところで、春夜の行動自体を止める事は出来ず、結果的にババアの元へと辿り着いてしまうのだが……


「おいババア、今さっきのアレは間違いでこっちのネコ──じゃなくてこっちの犬が本物のヰヰなん……だけど?」


 春夜とチビヤクザはここで衝撃の光景を目の当たりにした。


 本当なら今すぐに猫とクワガタを取り替えて、犬として誤認させる筈だったが、春夜とチビヤクザが席を外している間に一体何が起こったのか。

 ババアがオオクワガタを愛犬と勘違いし、接吻を一方的にかましているではないか。


 何たる地獄絵図。


「やっとお家に帰って来たザマスね! わたくしの可愛い可愛いヰヰちゃん! まあ、お耳もこんなに逞しくなっちゃって! まるでクワガタのアゴみたいザマスね!」


「……いや、クワガタのアゴだろそれ」


 自身が想定しているよりも遥かに波山羊町の住人は気が狂っているのだろう。

 でなければ色も形も何から何まで違うソレを愛犬と見間違える事は普通では考えられない。

 ババアの言動に気分を害した春夜は水月の方へ首を曲げると何故こうなったのかざっと事情を聞いてみる事にした。


「正直僕も驚いてるよ。君たちが離れた途端、まるでキャンディを舐めるかの如くクワガタをペロペロし始めたからさ。猫ですら誤魔化せないと思ったのに、こんなので行けるなんて本当に奇跡だよ」


「確かに奇跡だな。ババアの思考回路がこんなにもバグだらけだなんて奇跡過ぎて目も当てらんねえよ」


 まさかこんなババアに口付けされるとは、クワガタの運命も残酷なものだなとババアではなくクワガタに同情をする春夜。

 クワガタに口紅らしきものがべったり付着している事から、水月の言う通り、ババアは昆虫相手にペロペロしたのかと思うとゾッとしてしまうが、チビヤクザはここである事に気付いた。


「ん、待て。この流れやとワッシの餡子丸はババアに差し出さなくて済むっちゅう事やないか!?」


 ババアがクワガタを愛犬と誤認するならば、わざわざ餡子丸が犬の役割を担う必要はないと、隙を生んだ春夜から咄嗟に子猫を奪い返したチビヤクザ。


「おいチビヤクザ、そんな強引に掴んだら猫が可哀想じゃねえか。小動物はもっと優しく丁寧に扱え」


「お前がそれを言うなやクソったれ春夜!」


 春夜という魔の手から逃れる事で安堵の表情を浮かべる餡子丸は定位置のアフロへと戻っていく。

 余程チビヤクザのごわごわのアフロが気に入ったのだろう。


「んなわけだババア。ちゃんと目的も果たせたわけだし、俺が下着盗んだ事は町の皆に広めんなよ」


「わたくし約束はちゃんと守るザマス。下着泥棒が下着泥棒したって事は言い触らさずに心の内に留めておくザマスよ下着泥棒」


「おいババア、本当にその言葉信じて良いんだよな。俺の名前は下着泥棒じゃなくて夏出春夜だぞ?」


「分かってるザマス。夏の下着泥棒ザマスね」


「何も分かってねえよ! 夏に出没する下着泥棒みたく言うな! 春夜要素一つもねえじゃねえか!」


 チビヤクザの所為で誤算は生じたが、結果的に依頼を達成させる事ができた春夜は、自身の不名誉な称号が本当にババアの胸の内に留められるのか、下着泥棒と連呼され不安になる。


「大丈夫だよ春夜くん。たとえ春夜くんの称号が町中に広まっても僕は友達であり続けるから」


 春夜をフォローしているつもりなのだろうが、何故不名誉な称号が町中に広まるのが前提なのだろうか。

 もしや自身と同じ状況に立たされていないから、この様に上の立場からモノを言えるのではないかと、水月から発せられた『友達』という言葉を直様利用しようと考える春夜は(いびつ)な笑顔を向ける。


「そうか、ありがとな水月。じゃあお前も早速ここで下着を盗んでくれ。俺たちの友情は苦しみを分かち合う事で成り立っているからな」


「あはは……実は春夜くんがそう言うと思って僕、事前に下着盗ってきたんだよね」


 まさか春夜の考えを見越して、水月自ら先に下着を盗んできた事を告げてくるとは。

 二割冗談、八割本気で言ったつもりの春夜だったが、水月はズボンのポケットから四枚の下着を取り出すと自慢げに見せた。

 一枚は女児向けキャラクターが描かれた子供用パンツで、二枚目は赤色のレースTバック、三枚目は山葵(わさび)柄のボクサーパンツと、そして四枚目は人間が穿くにはやけに大きい桃色ショーツであった。

 春夜とはおよそ四年程の付き合いだが、彼の考えをここまで深く読むことができるとは水月の勇気ある行動に拍手で讃える春夜。そして軽蔑するババアとチビヤクザ。


「しっかし、いきなり四枚もの下着を盗んでくるとは中々やるな水月。俺ですら一枚、しかもブラジャーだったんだぞ?」


「まあ、下着なんてベランダに干してあるものをパパッと盗ってくるだけだからね。意外と簡単だよ」


「パンツマスターは言うこと違えな……因みにどっからそのパンツ盗ってきたんだ?」


「春夜くんの家からだよ」


「──はっ?」


 山葵柄のパンツにもの凄い既視感があったが、男性用の下着を盗んでくるほど水月も馬鹿じゃないだろと思った春夜が馬鹿であった。

 水月の中では男も女も常に対等な存在であり『下着を盗む=女性用』といった概念がない為、ここに春夜の生パンツが有るわけたが……

 それにしても人の家から無断で下着を持ってくるとは何事かと口を大にして言いたい春夜は、ここで初めて下着を盗まれた被害者の気持ちを理解する。


「キャラものは小春ちゃんで、際どい下着は春夜くんのお母さん。山葵柄は春夜くんなんだけど、この大きい下着は誰のだろう……もしかして凍呼ちゃんかな」


「えげつない……やる事がえげつないで水月」


 いくら春夜が最低のクソったれ野郎でも、家族を巻き込むとはあまりに(むご)すぎるだろと、春夜以外の家族に哀れみの念を向けるチビヤクザはまだ人の心を持っていた。


「あ、あはははは……や、やるなぁ水月。まさか他の誰でもなく、俺の家を選んで下着を盗ってくるとは……余程それらのパンツが欲しいとみた」


「いや別に要らないよ。僕がしたかったのはあくまで下着を盗む行為だけだったからね。それと、これ返すから僕の代わりに小春ちゃん達に謝ってくれるかな春夜くん」


 水月は手に持った四枚の下着を春夜に返すと自身の下着ならまだしも、夏出家女性陣の下着では水月の下心を動かす事もできないのかと、春夜は少し複雑な気持ちになりながら彼の中途半端な優しさを垣間見た。


 しかし代わりに謝罪しろと言われても、水月が下着泥棒を働いただなんて小春が信じるわけがなく、現に春夜も彼が窃盗を行なった事を未だに受け止めれずにいる為、小春達は真っ先に自身を疑ってくる。

 そうなれば確実に小春とスズはゴミを扱うような接し方を兄相手にし、美春は母親に劣情を抱く息子に歓喜し、何をしてくるか分からない。


 ならば残された選択は家族にバレないよう下着を洗濯カゴにぶち込むのみだと、取り敢えず春夜は四枚の下着を自身のパンツの中にしまった。

 股間部分は多少膨らんでいるが、ズボンのポケットでは下着がはみ出てしまう為、パンツの中に隠すのが最適解である。


「これはバレた瞬間に終わりだな」


「あははっ、頑張ってね春夜くん」


「何笑ってんだバカ水月が! 面倒ごと減った途端これじゃねえか!」


「まあまあ、苦しみを分かち合ってこその友情だよ」


「いや今苦しいの俺だけだからな。お前の方に全然苦しみ行ってないからな」


 これは春夜の思考が招いた結果だが、春夜からすれば見事にしてやられたと、他人事だと思って肩を軽く叩いてくる水月に対し、敗北感を味わうのであった。


「──ところでさ、アフロ先輩はどこに行ったのかな」


 春夜の嘆きを軽く流し、周囲をキョロキョロ見渡す水月はチビヤクザが忽然と姿を消している事に気付いた。

 二人があまりにくだらない話をしているから先に帰ったのだろうか。

 だがしかし、先程のチビヤクザと同じように呆れた反応を見せていたババアは玄関前で立ち尽くしている。


「なあババア、あのクソアフロ何処に行ったか見てねえか?」


「ああ、あのちっちゃいアフロならわたくしの家に招待したザマスよ」


「……は? 家に招待? 何言ってんだババア」


「せっかくいい男が集まったザマスからね。撮影会でもしようと思って……BL撮影会」


 イケメン二人はババアの本質をすっかり忘れてしまっていた。若い男を食い物にし、男にトラウマを植え付ける忌まわしきその存在を……


 おそらく二人の意識がパンツに集中していた時、チビヤクザはババアの家の中、つまりは暗黒の世界に放り込まれたのだろう。

 ケタケタと奇怪に笑うババアに戦慄を覚える春夜は直様、家に背を向けると足早に去ろとするのだが、一人だけ逃げる事は(まさ)しく罪であると、水月に左足首を掴まれた春夜は体勢を崩して地面に顔を強打させた。


「──ふがっ! おっ、おい、てめえいきなり何しやがんだ! 全くもって洒落になんねえぞッ!」


「春夜くん……初めに一蓮托生って言ったの覚えてるよね。君だけ逃げるなんて絶対に許さないよ」


「だったら俺とお前で逃げればいいだろ! チビヤクザはこの際、捨て置いてよお」


「そうできたら良かったんだけど……僕の股間、どうやら鷲掴みされてるみたいなんだよね。だからさ、一緒に逝こ?」


 春夜の足首に水月が掴まり、水月の股間にババアが掴まりと、一風変わった電車ごっこでもしているのかと言いたいところだが、この状況でそう悠長なことも言ってられず……春夜は空いた右足を使って水月の美顔を激しく蹴りつける。


「──てめえは糸南水月だろ! だったら『夜の営み好き』らしく、てめえとチビヤクザで如何わしい撮影会に参加してろ! 俺は絶対に行かねえぞBL撮影会なんて。お前にもアフロにも掘られたくねえからなあ!」


「あははっ春夜くん! 君が言ったんじゃないか! 苦しみを分かち合う事で友情は成立するって!」


「だ、だったら俺とお前の間にもはや友情は無い! 分かったらその手をとっとと離してお前だけが地獄に落ちやがれ!」


「残念春夜くん! 僕と君はただの友達じゃなくて『親友』なんだ! 親友はそう簡単に解消なんて出来ないし、否が応でも手を離したりしないから!」


「おい、なんなんだこのメンヘラは! 男のメンヘラ程、気色悪いもんはねえぞ!?」


 互いが互いの足を引っ張り合い、歪んだ友情を露わにしている水月。しかしそうこうしている内に春夜の下半身は闇の中に浸かり、水月の姿はいつの間にか見えなくなっていた。


 その上、闇の中からは亡者達が泣き叫ぶ声が耳を貫いてくる。

 これから阿鼻叫喚が始まるのかと思うと、春夜は虚な瞳を浮かべながら闇の中へと引きずられていった。


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