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ドラゴンの下剋上  作者: 月夜 ダイヤ
一章 始まりと終わりに別れを添えて
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初めての依頼と文字学習

 クリージュネルの家の二階の一室では騒がしい声が響いていた。アクトとルルがお菓子を奪いあっているのだ。


 「離せよ!! これは俺んのだ!!」


 「グルルル〜〜!!」


 僕はソファーの様なものに腰掛けながらも、昨日のことを思い出す。昨日鑑定士にアクトが牢屋の倉庫から盗んできた宝石を売りに行ったのだ。


 あんな短期間の脱獄で、よくそんな物を手際よく盗めたものだ。そういえば、アイドを取り戻した部屋で、アクトが何やらゴソゴソしてたのを思い出した。


 アイドの事といい、アクトはかなりの目利きなのだろう。見ただけで、その物の価値を言い当てることができるらしい。だからこそ、昨日あんなに鑑定士に噛み付けたのだろう。


 アクトは冒険者ではなく、鑑定士の方が向いているのかもしれない。そうして得た、金貨四十枚でこの街で一番大きな家を購入したのだ。


 恥ずかしい思いまでして、我慢した甲斐はあったのかもしれない。だが、家の代金の支払いで所持金がなくなってしまった。


 家を購入した際、この家を売却していた人からおまけとして、お菓子袋を貰った。お菓子袋の中には一つ一つ丁寧に包装されたお菓子が入っていた。


 問題はそのお菓子袋の中のお菓子が偶数であった事だ。まだ、取り合っている二属の真ん中に僕は割って入る。幸い、僕はまだお菓子を食べてはいない。


 「これ、僕のだけどあげるよ」


 「い、いいのか? レーゼ。 だってこれ限定味だぞ」


 「グルル!?」


 何やら、二属にすごく驚かれてしまった。そんなに、自分のお菓子を分け与える事は信じられない事なのだろうか。アクトもルルも所詮まだまだ子供だった。


 僕は答えるのも嫌になり、アクトにお菓子を渡すと、そのままソファーの上で横になる。目を瞑り、僕は昨日会った少年のことを思い出す。


 あの水色の髪をした亜属の少年。夢で人影が見せてくれた少年で間違いないだろう。しかし、会ったとはいえ、どうすれば良いのか。


 明日また会ったら話しかけてみるのも良いのかもしれない。気弱そうな顔だったので、話しかけやすそうだ。目を開けると、アクトとルルがお菓子をほうばっていた。


 なんだか、自分が最年長みたいだ。亜属であるアクトは、もう何十年も生きているだろうに、精神年齢の成長も人間より遅いのだろうか。

  

 脱獄の時の頼りになると思ったあの感情を返してほしい。今、一番の問題は僕達が結成した冒険者部隊、通称"暗黒隊"の部隊長の事だ。


 この部隊の名前はアクトが考えた。若干厨二病臭いのは、あの歳なら仕方ないと言うべきか?僕は勿論団長なんかなりたくは無かった。


 アクトも部隊の責任者になることを拒否した。人生経験的にも、戦略的にもアクトがふさわしいと僕は思ったが、本人が拒否している以上はどうにもならなかった。


 この世界ではリーダに一番大事なものは積極性だと考えられているらしい。よって自ら立候補する者がリーダに相応しいという、風潮があるみたいだ。



 だからといってルルをリーダにするのはいかがなものか。ルルが問題と言っているわけではない。一番の問題は言語だ。

  

 僕はルルが何を言っているのか未だに分からない。同様にルルも僕が何を言っているのか分からないだろう。この状況をいち早く打開しなければならない。


 その為に、先程まで亜属の言葉と文字をアクトに教えてもらっていたところだったが、お菓子で中断されてしまった。俺はこの家に元から置いてあった、亜属用の絵本を本棚から取り出す。


 前に住んでいた者は物の処理がめんどくさかったのだろうか?この様に家の中には私物がちょくちょく残っている。全部ではないが、少し読める文字もある。


 ここ、クリージュネルの住民は人間と亜属の言語と文字を二つずつ覚えているらしい。ここで暮らすためには、亜属の言葉と文字を覚えなければいけない。


 ルルも今人間の言葉と文字の習得中だ。両方使いこなせるアクトが仲間で本当に良かったと思う。そんなことを考えながらも、ぼくは段々と眠くなって来る。


 そんな時だった。中年のおじさんが家に駆け込んできたのは……。僕は反射的に本を横にどけて、ソファーから起き上がる。


 「暗黒隊というのは此処ですか? 少々急ぎの依頼があるのですが……」


 中年の男は息を切らしている。だいぶ急いで此処にきたようだ。アクトが眉を寄せる。


 「こんな夜に来るなんて、さては訳有りの案件だな?」


 「ええ。 左様でございます。 実は先程魔物が畑に入り込みまして……。 速やかに退治してほしいとのことです」


 「アクト?」


 「ん?」


 「これのどこが訳ありの案件のなの? 普通の依頼に思えるんだけど……」

  

 「この街の畑の周りの柵は魔法具という特殊な物で出来てるんだ。 それは、魔物が近づくと、魔法を放って追い払ってくれるんだよ。 その柵の管理を怠らない限り、魔物の侵入を許すなんて事はない」


 「……つまり、管理者の不手際。 周りにバレたら被害の責任をとらわせられるから、秘密裏に退治してほしいってこと?」


 「まあ。 そういう事だな。 で、おっさん? いくら出すんだ?」


 「銀貨十枚は如何でしょう?」

 

 「……よし! それで良いぜ。 じゃ、ちょっくら行ってくる」


 「え? 一緒に行かないの?」


 「俺は単独の方がやり易いんだよ。 菓子で借りも作っちまったしな」


 アクトはそう言うと、依頼人のおじさんの襟元を片手で掴み、窓から飛び降りることで、階段の移動をショートカットする。あいからわず、片にはまらない行動だと僕は思う。


 「グルル〜〜」

 

 アクトの奇想天外さには、ルルも同意見の様だ。しかし、言っていることはまだ分からない。僕はソファーに座り直すと、先程まで読んでいた本を読み出す。


 ルルも僕の膝の上に乗り、本の文字を見ては首を傾げている。恐らく、ルルも文字が読めないのだろう。亜属の文字も人間の文字も読めないとなると、ルルは僕よりも私生活で苦労しそうだ。


 僕が亜属の言葉を覚えたら、ルルとは真っ先にコミニュケーションを取りたいと思う。ルルは本棚からもう一冊の絵本を取り出すと、広げて読み始める。


 どうやら、ルルも一緒に勉強するつもりらしい。ひずめでページを触っているので、本が早くも傷だらけになっているのだが……。


 「痛って!?」


 隣にいるルルに気を取られすぎたせいで、ページで指を切ってしまった。かなり出血しているし、痛い。この世界には消毒もないので切り傷は念入りに洗わなくてはいけない。


 その瞬間ルルが僕の傷口を舐めてくれた。血が綺麗に舐め取られ、やがて出血も収まる。いかにも原始的な方法だが、意外にも効果的だ。ルルは得意げな顔を僕に向ける。


 「ありがとう」

 

 「グルル〜〜!!」


 俺がルルの頭を撫でてやると、嬉しそうにルルは嬉しそうに頭を押し付けて来る。まるで、猫みたいだ。その後は、アクトが帰ってくるまで、ずっとソファーの上に座り、一緒に絵本で文字学習をしていた。


 元の世界の三文字学習に比べれば、一文字しかない亜属語など、楽勝だと思ったが、やはりいつだって未知の文字というのは習得に苦労を強いるらしい。


 初めの2〜3時間は粘って本を読んでいたが、やがて睡魔が襲って来る。僕達はそのままソファーの上で寝入ってしまった。


 

 僕は体に重みを感じ、目が覚める。確か文字学習をしていたら、睡魔に負けて寝てしまったはずだ。なんとなくだが、ルルは僕の腹の上で寝ていた様な気がする。


 僕はなんとか起き上がると、体の重みの正体を確かめようと眠気が取れない目を凝らす。



 そこには赤い髪をした見知らぬ少女が寝ていた。


 

 




 


 


 


 

 


 




 

 


 

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