表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢人  作者: たか
63/64

夢乃森学園生徒会

 夢乃森学園生徒会メンバーの朝は早い。たとえ一時間目に講義が入っていなくても、みんな朝一番に生徒会室を訪れる。強制されているわけではないので、仕事があるとき以外は遅く来てもいいのだが、みんな朝に生徒会室を訪れることが習慣になっている。早く来ることに対しては特に問題もないのである。

 中でも一番早く生徒会室を訪れるのは、生徒会長の安心院希望である。安心院は生徒会長に就任してから毎日朝一番に生徒会室を訪れて仕事をこなし、それから講義に行くことが習慣になっている。

 二番目に生徒会室に来るのは日によって違いがあるが、大抵副会長の由布狭霧である。由布は工学部の二年生でコンピューターや機械の扱いに長けている。モノ作りが趣味らしく、日々いろんな発明品を作っているらしいが、思いついたものはとりあえず作ってみようという考えであるため、役に立つもの、役に立つのかわからないものまで様々なものがある。一部の発明品は根強いファンがいるようで、密かに売れているらしい。理由はわからないが、安心院を尊敬しているらしく彼女に対しては従順的である。他の人に対しては、意見をはっきり言ったり、毒舌になったりする。

 書記のアリス・オックスフォードはイギリスからの留学生で、服飾学を専攻している二年生である。小さくて可愛い見た目で癒しを与えるマスコット的存在だが、本人はその扱いがあまり好きではないようで、ぶかぶかの制服やカーディガンを着て大人の真似事をしている。アリス曰く「もうすぐこれくらい成長するから問題ない!」ということだが、その日はいつやって来るのやら……。裁縫が得意で、趣味で人や人形の服を作っているらしい。アリスは天真爛漫で生徒会や周りの生徒から可愛がられている。

 会計の時枝朝陽は数学を専攻している二年生である。見た目や言動はチャラいが、根は真面目である。安心院のことを「あんしんいんちゃん」と呼んで由布に注意されたり、アリスのことを子ども扱いして怒られたりしているが、決して馬鹿にしているわけではなく、親しみを込めてそうしているのである。時枝がいると真面目な雰囲気の生徒会が少し砕けた感じになる。つまり、ムードメーカーである。そのキャラが理事長の雲海に気に入られて、二人は結構仲が良さそうである。それがたまに度を越して他のメンバーからウザがられることもしばしばある。


 ある日の朝、安心院がいつも通り一番に生徒会室に到着し、ルーティーンの一つである仕事をしていた。そこへ少し遅れて由布がやって来た。

「おはようございます。会長」

「おはよう。由布くん」

「本日もよろしくお願いします」

 由布は気をつけの状態から腰を九〇度に曲げてしっかりと角度をつけたとても丁寧な挨拶を毎日安心院にだけする。他の人には軽く「おはよう」と言うだけである。前に安心院が「そんなに畏まらなくてもいいわよ」と言ったのだが、由布がそうしたいということだったのでそのままにしている。安心院が仕事をしているので、由布は邪魔しないように極力音を立てないように準備をしてから自分の仕事を始める。

二人だけのときは黙って仕事することが多いが、決して話さないわけではない。基本由布から安心院に話し掛けることは少ないが、安心院が話し掛けると由布もちゃんと答えるのである。お互い相手の性格を少しは理解しているので、気まずい沈黙ではないのである。

数分後、アリスがやって来た。

「オハヨー、アンシンインチャン! サギリクン!」

「おはよう。アリスさん」

「オハヨー、ではありません。アリスさん! 何度も言っていますが、会長のことはちゃんと名前で呼んでくれませんか? 失礼です」

「エッ、ドウシテ? カワイイのに!」

「可愛いというのは同感ですが、かわいければいいという問題ではありません! 他の人までその呼び方になったらどうするのですか?」

「カワイさバイゾウ?」

「違います!」

「サギリクンもカワイイと思っているならいいじゃんかー。カワイイは正義なんダヨ!」

「そういう話をしているのでありません!」

 由布とアリスはいつもこんな感じで言い争っており、途中で安心院が間に入って「まあまあ、由布くん、落ち着いて。私は構わないから気にしないで」と声を掛けると、静まるのである。

 アリスが来ると、静かだった生徒会室も少し賑やかになる。アリスは自作した服を安心院に見せて感想を聞いたり、新しい服を作るのに意見をもらったりしている。

 そしてその数分後に、時枝がやって来た。

時枝はドアを開けて入って来てから「オッスー!」という一言で三人全員に挨拶した。

「おはよう。時枝くん」

「オハヨー、トッキー!」

 安心院とアリスは挨拶を返したが、由布は時枝の態度が気に入らなかったようで、食いついた。

「時枝! 前にも言ったが、会長にはちゃんと挨拶しろ! 失礼だぞ!」

「ん? 今したじゃん!」

「今のは挨拶じゃない。挨拶というのはちゃんと相手の目を見て言うものだ。僕にする必要はないが、会長にはちゃんとしろ!」

「んー、わかった」時枝はあっさり受け入れて、安心院の目を見た。「おはようございます。あんしんいん会長」と言って少し微笑みながら腰をしっかりと曲げて挨拶した。

「ええ。おはよう」

「挨拶の仕方はいいが、名前を間違えている。名前を間違えるのはとても失礼なことだ。やり直せ!」と由布が言った。

「えー、間違えてねぇけど」

「会長の名前は『あ・じ・む』会長だ。お前は今なんて言った?」

「えっ、あんしんいん会長だけど」

「お前か!? アリスさんに吹き込んだのは!?」

「いや、オレが吹き込んだんじゃなくて、アリスちゃんに吹き込まれた方だから!」

「なん…だと…!?」

 由布がアリスに視線を送ると、アリスはニコッと笑った。由布は頭をガクッと落とし、戦意喪失したようだったが、安心院が「はい! じゃあお喋りはそこまでにして、朝礼を始めるわよ!」と一声かけると、一瞬でシャキンとなった。

 生徒会は全員が集まるとその日のスケジュールを確認し合う。必ずしなければならないわけではないが、せっかく集まったので共有するに越したことはないという理由でほぼ毎日している。事前にお互いのスケジュールを把握し、食い違いがないか確認したり、突然の来客に対応したりすることなどができる。パソコンの共有フォルダを見てそれぞれのスケジュールを確認することもできるが、突然変更することもあるので、当日の朝に確認しているのである。

 全員のスケジュール確認が終わり、それぞれの仕事に取り掛かり始めたとき、生徒会室のドアが「コンコンコン」とノックされた。安心院が「どうぞ」と声を掛けると、「失礼します」と言う女性の声がしてドアがゆっくり開いた。やって来たのは叶愛だった。

叶愛は「おはようございます。安心院会長、由布副会長、アリス書記、時枝会計」と順に目を合わせながら丁寧な挨拶をした。

叶愛が朝早くに生徒会室を訪れるのは結構頻繁にあるので、みんな慣れていた。

「おはようございます。夢乃森さん」と由布が言った。

「オハヨー、カノカノチャン!」とアリスが言った。

「オッスー!」と時枝が言った。

「おはよう、夢乃森さん。今日もお元気そうでなによりね」と安心院が言った。

「そうですね。安心院さんもお元気そうでよかったです」

「ここに来たということは、何か用があるのかしら?」

「いいえ。ちょっと様子を見に来ただけです」

「そう。……そういえば、あれからゲームの腕は上達したのかしら? あのときは私の方が強くて悔しそうにしていたけれど…」

「はい。お陰様で安心院さんにも負けないくらい上手くなりました」

「それはないと思うわ。実は私もあれから練習しているの。あのときより数段強くなったから、まだ夢乃森さんより私の方が強いわ」

「そうでしょうか? そう言って油断をしている人程、足元をすくわれると聞きますが…」

「フフ、それなら今度確かめてみない?」

「いいですね。ついでにテニスも決着をつけましょう」

安心院と叶愛は笑顔で会話をしていたが、目線の間ではバチバチを火花が散っているようだった。それもいつも通りの光景なので、他の三人はまったく気にしていなかった。

「とまあ雑談はこの辺にして、ちょっと生徒会の皆さんに相談があるのですが…」と叶愛が言ったことで、全員の注意が集まった。叶愛が生徒会室に来るときは大抵学校運営についての相談がある。叶愛は生徒会メンバーではないのだが、学校運営についていろんな相談に乗ってくれたり、アドバイスをしてくれたりするので、生徒会にとって頼りになる存在である。

最初は多少ふざけ合っていたが、大切な議題になると全員真面目に話し合いをする。より良い学園を作りたいという目的は全員が一致しているのである。

 叶愛を加えた話し合いが終わったとき、生徒会のドアを「コンコンコン」とノックする音がした。安心院が「どうぞ」と言うと、「失礼します!」という女性の声がしてドアがゆっくり開いた。やって来たのは津久見だった。

 津久見は生徒会室に入って来る前にその場で「おはようございます。皆さん!」と言ってから一礼した。

「おはよう。津久見さん」と安心院が言った。

「おはようございます。津久見輝さん」と叶愛が言った。

「おはようございます」と由布が言い、「オッスー!」と時枝が言った。

「オハヨー、ツクミン!」とアリスが言った。

 全員の挨拶を聞いたあと、津久見は生徒会室に入って来た。

 最近になって津久見も生徒会室によく来るようになったので、すでにみんな慣れていた。最初は「あの津久見輝が何の用でここに!?」という感じで驚いていたメンバーも今ではすっかり仲良くなっている。津久見は毎回生徒会の朝礼が終わったタイミングを見計らって来ているようである。みんなといろんな話題で話しているのだが、意外にも由布と話が合うらしく、二人でよく会話している。安心院は二人が何を話しているのか知らないが、気が合うようなのでまったく心配していない。この日も津久見はただ雑談をしに来た様子で、アリスとファッションの話をしていた。津久見が生徒会室に来るようになってから一層賑やかになっているのである。

 そんな中、用事の済んだ叶愛が生徒会室を立ち去ろうとしていたとき、アリスと話していた津久見の口から「中津さん」というワードが聴こえたのだった。それに真っ先に反応したのが、叶愛と安心院だった。

「津久見さん! 今、夢翔様のお話をしていましたか?」

「えっ、あ、はい」

「中津くんがどうかしたのかしら?」

「あ、いえ、最近ちょっと彼の行動が気になって」

「何かあったの?」

「この前アウトレットに買い物に行ったんですけど…」

「アウトレットに買い物!? 津久見さんと夢翔様がですか!?」

「はい。あっ、でも二人だけじゃなくて、あと三人いて、五人で行きました」

「あと三人? 誰と一緒だったの?」

「臼杵白馬くんと龍原寺風連くんと城島莉乃さんです」

「名前を聞いたことあるわ。たしか、全員一年生よね?」

「私も聞いたことあります。ですが、どうして夢翔様がその方たちと一緒にアウトレットへ買い物に行ったのですか?」

「あたしもそれが気になって一緒に同行したんですけど、中津さんが臼杵くんのことを気にしていることくらいしかわかりませんでした」

「臼杵くんを気にしている? ……そうですか。有益な情報をありがとうございます。津久見さん」

「えっ、い、いえ」

「では、私は急遽大切な用事ができましたので、これで失礼させていただきます」

 叶愛はそう言って生徒会室を出てからゆっくりとドアを閉めたが、その直後全速力で走る足音が生徒会室の中まで響いていた。

「相変わらずダネー。カノカノチャン」

「夢乃森さんは、中津くんのことになると周りが見えなくなるからね」

「それってあんしんいん会長もじゃないですか?」と時枝が言った。

「なっ! 私はそんなこと…!」

「時枝! 言っていいことと悪いことがあるぞ! 会長に謝れ!」

「由布もそう思ってるだろ?」

「なっ!? 僕はそんなこと…」

「ゆ、由布くん。私は気にしてないから大丈夫よ」

「あー、ワタシも早く中津ユメユメクンと会ってみたいナー」とアリスが言った。

「オレもまだ会ったことねぇんだよな。そうだ! 今度の朝礼に呼んでみるのはどうだ?」

「あー、それいい考えダネ! トッキー!」

「時枝! 適当なことを言うな! 生徒会でもない奴が理由もなくここに足を踏み入れていいわけないだろ!」と由布が言った。

「エー、でも、カノカノチャンとツクミンはよく来てるジャン!」

「二人は生徒会の士気を高めてくれるので問題ありません。アリスさん、時枝の言うことを真に受けてはダメですよ」

「厳しいなぁ。由布は会いたくねぇのかよ?」

「興味ないな」

「マジか!」

三人の話が盛り上がっている最中、安心院は内心叶愛に後れを取ってはならないと思っており、早速情報を集めるため、臼杵白馬の名前を密かに検索していた。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ