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夢人  作者: たか
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本物の恋心、嘘の恋心④

 昨日の夜、中津はベッドの中で一人考えていた。

 一体誰が本当に臼杵くんのことが好きで、誰と誰が好きじゃないんだ!? 正直、全然わからなかった。

 城島さんは臼杵くんに服を選んでプレゼントしていた。好きじゃない相手に対してそんなことするか? 選んでいるときの城島さんの表情は真剣そのものだった。臼杵くんに似合う服を本気で探している目をしていた。正直、好意がないようには見えなかった。今のところグレーだな。

 じゃあ九重さんはどうだ。一緒にカフェに行ってケーキを食べていたな。それくらいなら別に好きじゃなくてもすることはある。だけど、好きじゃない相手とケーキを食べさせ合ったりするか? それに、九重さんは臼杵くんに見つめられると顔を赤くして照れていた。あの反応は嫌悪ではなく、明らかに好意による恥ずかしさのように見えた。ということは、今のところグレーだな。

 なら大野さんはどうだ。大野さんは臼杵くんにボディタッチする回数が圧倒的に多かった。ボディタッチは好意のある相手に対して行うことが多い。それに、臼杵くんの漢らしさに目を輝かせながら見惚れている回数も多かった。明らかに臼杵くんの魅力に惹かれているように見えた。今のところグレーだな。

 てことは、全員グレーじゃないか!? せっかくリスクを負って近くで観察していたのに、何も成果がないじゃないか!? いや、むしろ余計にわからなくなってしまった! くっ、だけど、俺はわからなくても、国東さんならもうわかっているかもしれない。俺は恋愛偏差値低いけど、国東さんなら大丈夫だろう。

 そう思って、中津は正直に打ち明けたのだが…。

「はぁ~、そうだよね。思ってたよりも見分けがつかないよねー」

「なっ!? 国東さんもわからなかったですか?」

「正直、今の段階ではまったく。三人全員が好意あるように見えたかな」

「そう…ですか。そうですよね。龍原寺くんもわからない様子でしたし、速見さんと姫島さんも仲が良いって言ってましたもんね」

「うん。それに画面越しだとその場の空気感とか、微妙な表情の変化がわからないんだよね。やっぱりこのやり方じゃ難しかったみたい…」

「そう…ですか」

 中津は昨日一人で考えたことを国東に話した。すると、国東も頷いていたので、ほぼ同じ考えだったようである。さらに、国東は臼杵と三ヒロインの予備情報を教えてくれた。

 それによると、臼杵と三ヒロインたちは結構頻繁にSNSでメッセージのやり取りをしているということだった。内容は普段会話しているときとほぼ同じらしい。連絡を頻繁に取り合うということは、好意がなければしないだろう。

人は誰かを好きになると、その人のことばかり考えてしまい、一緒にいたい、話したいという感情が強まる。臼杵と専攻科目の違う彼女たちが頻繁にメッセージを送っているということは、好意を抱いている可能性が高いと推測できる。好きでもない相手にメッセージを送ったり、話したりしたいと思う人は何か理由がない限りいないはずだ。つまり、その理由を突きとめることができれば、この案件を解決する大きな一歩になるということである。

「こうなったら、あたしももう一度近くで観察した方がよさそうだね」

「えっ、でもそれは…」

「大丈夫。今度は臼杵くんがいないときの三人を観察しようと思う。それなら気づかれないだろうし、三人の本性が垣間見えるかもしれないでしょ?」

「そうか! そうですね!」

ここまで観察した結果、誰が本物の恋心を抱いていて、誰が嘘の恋心を演じているのか、まったくわからないが、嘘をついている二人の何らかの理由を探ることが先決だと二人は判断した。臼杵が一緒だと、常人離れの五感により、正体がバレてしまうリスクがあるが、三ヒロインだけなら気づかれる恐れが少ないと考えた。

ということで、早速明日から行動する予定だったのだが…。


 木曜日の朝、中津のスマホに国東からメッセージが届いた。急遽支援しなければならない案件が舞い込んできたため、三ヒロインの調査を一旦止めるということだった。中津は急なことに驚いたが、夢人にはあるあるのことらしいので受け入れた。

 新たな案件内容は、相撲部、ウエイトリフティング部、レスリング部が謎の空虚感に襲われていて、すっかりやる気、元気、覇気がなくなっているので、それを取り戻せ、という任務だった。

それぞれの練習場を訪れると、ドーンと沈んだ空気が漂っており、部員全員が聞いていた通りの様子だった。どうしてこんなことになったのか調べていると、多くの部員がこんなことを呟いていた。

「小学生一人相手に大人数で勝負して勝って喜ぶなんて…。ああ、穴があったら入りたい」

「俺は自分の弱さを痛感した。もう誰にも勝てる気がしない」

「もう辞めようかな」

 どうやら何かがあったようで、ほとんどの部員が意気消沈していた。中津は彼らに何があったのか国東に尋ねたが、「わからない」ということだった。彼らの本を読めばわかると思っていたが、記されていないということだった。そんなこともあるのか!? と思った中津だったが、国東が本でわからなかった情報を直接尋ねていたので、中津も真似をした。

 それにより、相撲部、ウエイトリフティング、レスリング部は、共通の人物に敗北したことがわかった。その人物が誰かまでは特定できなかったが、国東は心当たりがある様子で、それは知らなくてもいい、と判断したので、中津は彼らが元気を取り戻す方法を考えることに集中した。

 その日から中津と国東は献身的に彼らに寄り添い、相撲部に三日、ウエイトリフティング部に三日、レスリング部に三日費やして、彼らのやる気、元気、覇気を取り戻すことができたのだった。その間、臼杵たちの案件はすべて止めていた。


 飛び入り案件を無事に終えた金曜日の夜、中津は疲れ切った体で部屋に帰り着いた。精神的に落ち込んでいる人を支援することがものすごく大変であることを痛感したのだった。改めてそれらに従事している人に尊敬の念を抱いた。

 この日はすぐに風呂に入って寝よう、と考えていた中津だったが、湯を溜めているときに国東からメッセージが届いた。

「明日、臼杵くんと大野さんがデートするらしいから、あたしたちも一緒に行くよ!」

 中津はまだ疲れが溜まっているというのに、国東はすでに次に切り替えているようだった。さすがだな、と思いながら「了解です!」と返信したあと「はぁ~」とため息をついた。


 翌朝の午前七時、中津は国東から指定された夢乃森学園正門前で待っていた。事前に三ヒロインを観察することができなかったので、とりあえず今回も偶然を装って遭遇する作戦だと中津は思っていた。カモフラージュイヤホンを持っているので、国東と会う必要はないのだが、何か大事な用があるみたいだった。

 数分後、「お待たせ!」と言って国東がやって来た。

「あっ、おはよう…えっ!?」

 中津は国東の姿を見て驚いた。オシャレなファッションだったからだ。いつも見ている制服姿や前に見たことがある私服姿と明らかに違う印象で、中津はつい見惚れた。

「国東さん、どうしたんですか? なんかいつもと雰囲気が違いますね!」

「まあね。デートのときくらいはオシャレしないと変でしょ?」

「あっ、デートですか! そうですね。デートはオシャレしたい…です…よ…ね…?」

「ん? どうかしたの?」

「くっ、国東さん、デートって一体誰と!?」

「ん? キミだけど」

「……えっ!? えーーー!!!」

 中津は空を見上げて叫んだ。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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