夢人見習いの二次試験③
雲海の本によると、雲海の悩みは、生徒たちと上手く交流できないことらしい。生まれつき怖い見た目と理事長という最上位権力者のイメージが強いため、生徒が委縮したり、怖がったりするらしい。雲海はそれが悲しくて悩んでいるらしい。夢乃森学園の生徒で雲海を怖がらないのは、孫娘の叶愛、中津、生徒会くらいらしい。
雲海の本心は、もっといろんな生徒と話したり、一緒に交流したりしたいらしいが、みんなを怖がらせないためにあまり積極的に活動できていないらしい。交流したいけど、怖がらせたくないというジレンマに苦しんでいるということだった。
少し前に中津と話したときに励まされたらしく、勇気を振り絞って生徒に声を掛けたらしいが、案の定、生徒がビックリして逃げるように帰って行ったり、ブルブル震えてその場から動けなくなったり、気絶したりする子もいたらしく、それからまた消極的になってしまったようだった。
国東はここまで読んでいくつか問題点を挙げた。
まずは雲海の顔が怖いということ。これは正直どうしようもないので、考えても仕方ないことである。整形すればどうにかなるかもしれないが、そこまでしなくてもいい。
次に、夢乃森学園の生徒のほとんどが雲海に怖いというイメージを持っているということだ。これはおそらく入学式のときに誰もが抱く第一印象なので、仕方ないことである。なので、この第一印象を変える行動をしなければならない、ということだ。
雲海は怖いイメージを持たれたまま生徒に話し掛けてしまうので、怖がられてしまう。そしてそれを目撃した生徒が盛った噂を拡散して、さらに雲海が怖いというイメージが定着してしまう、という悪循環に陥っていた。
そのため、生徒に話し掛ける前に怖いというイメージを払拭するような行動が必要だと思い、いくつかの案を考えた。
次の日の朝、国東は早速雲海のスマホのメールアドレスにあるメールを送った。
「あなたは今、ある悩みを抱えている。それは教育者としてとても大事なことですね? もし、その悩みを本気で解決したいのならば、行動するのです。夢人」
すると、雲海からすぐに返信が来た。
「直感であなたが本物の夢人だとわかりました。あなたを信じたいと思います。わしはどう行動すればいいでしょうか?」
最初はいたずらメールと思われたり、警戒されたりして無視されるだろうと思っていた国東だったが、雲海は一通で信じたようだった。昨今、夢人のなりすまし事件が多発していることから、メールを信じる人は少なくなっている。信じてくれた人も最初は警戒するのが正常な反応である。そんな状況であるにもかかわらず、雲海は信じた様子だった。
しかし、このメールだけでは雲海が本当に信じているのかわからないので、もう少し雑談を続けることにした。
「あなたは現在、多くの生徒に勘違いされています」
「勘違い…ですか?」
「あなたは多くの生徒に怖いと思われています。しかし、本当の姿は全然そんなことなく、やさしくてカッコイイ人です」
このメールを送ったあと、少し間が空いた。今まで即レスしてくれた雲海だったが、返信に困ったのだろうか。
「夢人様にそう言っていただけて光栄でございます。ありがとうございます」
「喜ぶのはまだ早いです。夢乃森雲海さん」
「ん? どういうことですか?」
「このままでいいとお思いですか?」
「それは…よくないと…思います」
「そうですか。では、そんな現状を変えませんか?」
「現状を…変える?」
「はい。あなたの願いは、もっといろんな生徒と話すことですよね?」
「それは…そうです…。ですが、わしが積極的に話し掛けると、生徒たちを怖がらせてしまいます。そんなことしたくありません」
「それは、生徒たちも同じ気持ちです。……たぶん」
「えっ!?」
「みんなもあなたと話したいと思っています。……きっと」
「そう…なのか?」
「はい。でも、夢乃森雲海は怖いという思い込みのせいで、ほとんどの生徒が行動するのを躊躇っているんです。……おそらく」
「……そうだったのか! 知らなかった。悩んでいたのはわしだけじゃなかったのですね」
「そうです。みんな悩んでいるんです」
国東ははっきりと言った。ほとんどの人は何かしら悩みを抱えているからである。何に悩んでいるのかは言っていないので嘘ではない。
「そうですか。それならわしはもっと積極的に声を掛ければいいのですか?」
「そうですね。ですが、その前にしなければならないことがあります」
「しなければならないこと?」
「はい。あなたは今までも積極的に話し掛けてきたと思います。その結果はどうでしたか?」
「怖がられたり、逃げられたり…」
「ですよね。なので、まずはその間違ったイメージを払拭する必要があります」
「そんなことできるのですか!?」
「できる、できないではありません。やるんです!」
「そ、そうですね。やるしかないですね」
「はい!」
「具体的に、わしは何をすればいいのですか?」
雲海がやる気になってくれたので、国東は昨日考えたいくつかの案を提案した。
たとえば、子犬や子猫、ハムスターなどの小動物と戯れるところを見せつけたり、ラフな格好で学園に来たり、スイーツバイキングに行っている姿を見せたりなどだ。
雲海が怖がられる一番大きな原因は外見である。というか、外見だけである。色黒のいかつい顔に低い声、ガタイの良さなど、男らしいと言えば良く聞こえるが、度が過ぎているのである。雲海を初めて見た人の九割九分は、怖い人という第一印象を抱く。雲海はそれを自覚しており、なるべく怖がられないようにやさしく喋ろうと努力しているが、出会ったときすでに怖がられているので、時すでに遅し。なので、まずは生徒と直接話す前に、雲海のやさしいところを知ってもらおうと国東は考えたのだった。
雲海も国東の提案に乗り気だったので、早速次の日から作戦を決行することになった。
次の日の早朝、まだ誰も来ていない学園、静かな学園内では雲海の足音だけがコツコツと鳴り響いていた。国東は物陰に隠れて雲海を見守っていた。いつも通りのいかつい顔にスーツ姿だった雲海は、理事長室に到着すると早速着替え始めた。ジャージに着替えた雲海は、正門に向かった。正門にはすでに夢乃森家の車が待機しており、中には小型犬が三匹いた。
第一の作戦は 雲海がジャージ姿で可愛い犬を連れて学園周辺を散歩する、である。
雲海の飼っている犬は、ドーベルマンやシェパードという大型犬ばかりだったので、その犬たちと散歩している姿を見られると怖い人というイメージを強めてしまう可能性がある。
なので、今回は雲海のイメージと最も離れているであろう、プードル、チワワ、ヨークシャーテリアたちと散歩する雲海の姿を生徒に見せつけることにした。
さらに、ジャージ姿という散歩のときに着ていても自然だが、普段スーツしか着ない雲海が着ているというところにギャップ萌えを作っている。ジャージ姿の雲海が可愛い犬たちと散歩している姿を見た生徒は、怖い人という印象を和らげるはずである。
雲海が学園周辺を散歩している間、国東は正門付近のベンチに座って本を読んでいる振りをしながら登校してきた生徒たちの反応を窺うことにした。
始業時間の一時間前になると、数人の生徒がチラホラと登校してきた。みんな一人で登校しており、何も喋らずに歩いていたため、雲海の姿を見たのか、見てないのかわからなかった。何人かはスマホを見て驚いている様子だったので、もしかしたらSNSに呟いたり、写真を撮っているかもしれないと思い、検索してみたが、雲海のジャージ姿は呟かれていなかった。
始業時間三〇分前になると、徐々に生徒が増えてきた。中には数人の友達と一緒に来ている集団があり、会話をしていたが、雲海の話題ではなかった。
二〇分前になるとさらに増えてきた。すると、いくつかの集団が雲海の話題を話していた。ある男子生徒は「あれ、絶対理事長だったって!」と言っており、その友達は「そんなわけねーだろ」と否定していた。ある女子生徒は「あの犬たち大丈夫かな。厳しい訓練をさせられてないかな」と犬の心配をしており、その友達は「きっと大丈夫だよ。無事に乗り越えることができるよ」と天に祈っていた。
一〇分前になったとき、パリピ集団が雲海の話題を話していた。その中の男子生徒の一人が、雲海の散歩している姿を写真に撮ったらしくSNSに投稿しようとしていた。そして女子生徒は、動画を撮ったらしく、それをSNSに投稿しようとしていた。これは国東の予想通りの展開だった。
現状、雲海がいくら自分はやさしいと言っても、それを信じる人はいない。ならば、他人に言ってもらえばいいのである。夢乃森学園の生徒が自身のSNSで呟いたら、それを信じる人はいくらかいるだろう。SNSにはこういう使い方もあるのである。しかし、事はそう簡単にいかなかった。
パリピ集団の中の冷静そうな男子生徒が「ちょっと待て! それを理事長の許可なく無断でSNSにあげると、あとでどうなるかわからないぞ」と言ったことで、投稿しようとしていた二人の手が止まった。男子生徒が「どうなるかわからないって、どういうことだ?」と言うと、冷静な男子生徒は「理事長はこの国を操っている人だ。そんな人の機嫌を損ねたら、お前、消されるぞ」と真面目な顔で言った。それにビビった様子の男子生徒と女子生徒は、撮っていた写真と動画を消去して、何も見ていなかったことにしたのだった。
始業のチャイムが鳴り、雲海が正門に戻ってきた。そのときの雲海は、任務をやり遂げた清々しい表情をしていた。一方、国東は生徒たちの反応が予想していたことと違ったため、思っていたよりも困難な案件になりそうだと覚悟した。
放課後、国東は一足早く『ドリームバックス』のカウンター席でカフェオレを飲みながら待機していた。すると、そこに意を決した顔でスーツ姿の雲海がやって来た。
第二の作戦は、可愛いスイーツを食べる姿を見せつける、である。
下校前のこの時間帯は、カフェに立ち寄って会話を楽しむ生徒が多いため、雲海の可愛さや、やさしさを見せつけるうってつけの場所である。
雲海が来たとき、すでに店内は込み合っていたが、事前に予約していたので、すぐに案内された。雲海が予約していた席は、店の真ん中の席である。三六〇度すべてから視線が注がれる席である。雲海を案内していた速見は、普段以上に失礼のないように気をつけて行動している様子だった。
雲海は真ん中の席に座り、ドリームバックスで一番可愛くて映えるメニューを注文した。そのメニューとは、ふわとろパンケーキが三枚積み重なり、てっぺんにはたくさんのイチゴと生クリームが乗っており、その周りにもたくさんのフルーツやクリームが飾りつけされている。その名も『夢のパンケーキ』である。今まで多くの人がSNSに投稿してバズったこともあり、とても美味しくて可愛いパンケーキである。
雲海がそれを注文すると、速見や他の店員、周りにいた生徒たちがざわつき始めた。雲海がドリームバックスに来たということだけで、周りから注目されていたのに、イメージと最もかけ離れたメニューを注文したら尚更ビックリするだろう。周りの人たちは正常な反応をしているだけである。
夢のパンケーキが届くと、雲海は早速スマホを取り出して写真を撮った。この行動は、国東が事前にメールで言っていたことで、雲海はそれをしっかりと守っていた。本当に真面目な人である。そして雲海は上品な態度でパンケーキを食べ始めた。
雲海は食事を済ませたあと、無意識にいつも通り威厳のある態度に戻り、店員やマスターに労いに言葉を掛けてから店を出た。そして早速スマホを取り出して、夢人にメールを送っていた。
「朝の犬の散歩とカフェでパンケーキを食べる作戦を決行しました」と雲海からメールが届いた。
「お疲れさまです。この調子で明日からも頑張りましょう!」
「はい」
国東は、正直上手くいっているのかまったくわからなかったが、とりあえず雲海のやる気があるうちにいろんなことを試そうと考えていたため、明日からも『雲海イメージ戦略』を続けることにした。
それから雲海はいろんなことを試してくれた。あるときは道端に咲いている花を見て微笑んだり、またあるときは一人で学園内のゴミ拾いをしたり、そしてまたあるときは姫島響歌の歌をカバーしたりした。雲海は忙しい身でありながら、空いた時間で作戦を決行し、国東もいろんな作戦を考えるのに忙しかった。そのため、国東は雲海以外のメッセージを後回しにしていた。途中、中津からメッセージが届いていたが、当然後回しである。
そして二人の努力は少しずつ報われ始めたのである。
ある日の放課後、国東がSNSを見ていると、雲海のイメージが変わったというコメントがいくつかあり、その中に「話してみたい」「相談したい」という興味を抱いた生徒のコメントもあった。
国東はそのコメントを見つけてテンションが上がり、早速雲海に教えようと理事長室に向かった。向かっている途中自分の名前を呼ぶ声が聴こえた気がしたが、今はそれよりも早く雲海に教えたいという気持ちが強かったので気にしなかった。
教員棟の最上階に着いてエレベーターを降りると、女子生徒二人が理事長室のドアの前に立っていた。国東は身を隠して二人の様子を見ることにした。女子生徒の一人が「準備はいい?」と言い、もう一人が「うん。いいよ!」と言って深呼吸していた。どうやら、二人は雲海と話をしに来たようだった。そしてドアをノックするかと思いきや、一人が「ちょっと待って!」と言って躊躇っていた。二人は何度も深呼吸して落ち着こうとし、ドアをノックしようとしては躊躇っていた。それを何度か繰り返していると、ドアがガチャとゆっくり開いて、雲海が姿を現した。女子生徒二人は心の準備ができていなかったらしく、雲海を見て怯えているようだったが、雲海が陽気な声で「やあ。いらっしゃい。どうぞ中に入って」と言ったことで少し緊張が解けたようだった。女子生徒二人はリラックスした様子で理事長室に入って行った。
国東は、雲海の嬉しそうな顔を見て、自分の仕事を完了したと判断し、この場を後にした。
結構大変な案件だと思ったが、終わってみればあっという間に感じた。振り返ると、夢乃森学園のトップである雲海にいろんな恥ずかしいことをさせてしまったのは申し訳ないと思い、メールで謝ろうとしたが、逆に感謝のメールが届いていた。
「夢人様のおかげで生徒たちと話す機会が増えました。本当にありがとうございます」
国東は、雲海から感謝されたことがとても嬉しくて、部屋で飛び跳ねた。
このメールを交わして、今回の国東と雲海の交流は終わった。
これが国東の本来の仕事の仕方である。国東は直接ドリーマーと接触することなく、陰から支えることに長けている。そのツールとしてメールを使ったり、ドリーマーの友達に働きかけたりして支えるのである。天瀬のときのようにガッツリかかわることは稀である。
雲海の件が落ち着いたことでようやく、国東は中津から着信とメッセージが届いていることに気を回すことができた。メッセージは一週間前に届いており、一緒にカフェに行きたいというお誘いだった。
国東はテンションが高かったので、あとでオーケーするつもりでスマホを机に置き、先に風呂に入ることにした。
脱衣所で服を脱いでいたとき、リビングから音が聴こえた気がしたので見に行くと、部屋の真ん中に中津が立っていた。国東は「えっ…どうしてキミがここに…!?」と思わず言葉を漏らしてしまったため、中津が振り返った。そのときの中津の様子がおかしかったので、一瞬どうしてだろうと思ったが、自分が下着姿であることがすぐにわかって、急に恥ずかしくなり、勢いで中津を思いっきり引っ叩いてしまった。「あっ、ごめん」と咄嗟に謝ったが、時すでに遅し。中津はビンタをもろに食らって吹っ飛び、気を失ってしまった。
国東は、中津が気を失っている間に部屋着を着た。そして中津がどうしてここにいるのか考えたが、答えはすでにわかっていた。中津が本の中を通って来たということだ。
まさか中津くんが本を通ってここまで来るなんて! ここに来たってことは、もうあたしの正体に気づいて……。
本来、試験中に正体がバレた場合一発で不合格だが、今回は相手が中津だったのでギリギリセーフだった。中津自身、自分では気づいてないが、中津はすでに夢人になるための試験に参加している。なので、同じ夢人を目指す仲間と判断されるため、正体がバレても問題ないのである。
国東は赤く腫れている中津に頬にそっと触れながら昔一緒に遊んでいたことを思い出していた。そのとき、中津が意識を取り戻しそうになったので、国東は咄嗟に触れていた手を引いて、キッチンにお茶を取りに行った。その間に中津が目を覚ました。
それから中津と会話をしていると、案の定、中津に正体がバレていたので、国東は潔く認めた。そして前に約束していた通り、夢人の秘密を教えていると、そこにくじゅうがやって来た。中津は最初くじゅうのことを不審者だと思って警戒しており、そのときのやりとりがコントみたいだったので、面白くてしばらく見守っていた。
誤解が解けてからも中津とくじゅうの会話は続き、その流れでなぜか国東と中津がバディを組むことになってしまった。突然のことで最初は意味がわからず反対したのだが、中津夢翔がどうしてくじゅうのお気に入りなのか気になったので、受け入れることにした。というより、くじゅうに何を言っても考えを変えない気がしたので、諦めたと言った方が正しかった。くじゅうの言っていることも一理あったので、国東は気持ちを切り替えた。どうせバディを組まされるのなら、自分の力を見せつけるとともに、中津夢翔という人物を知ろうと思った。
国東は、中津を部屋から追い出したあと、ようやく風呂に浸かって癒された。風呂で溜まっていた疲れを汗と一緒に洗い流したあと、しっかりスキンケアをしてからキッチンに向かい、冷蔵庫から牛乳を取り出して一杯飲んだ。そのとき、リビングの机に一冊の本が現れたのが視界に入った。その本はビブリオテーカにある本だった。早速くじゅうから課題が送られて来たのである。
国東が課題を受け取るのは久しぶりだった。夢人見習いになったばかりの頃は、くじゅうが選んだ比較的簡単な課題をこなしていたが、ある程度慣れたところでそれがなくなり、ドリーマーは自分で探すことになっていた。今回はバディを組んで最初だったので、くじゅうが選んだのだろう。
国東はその本を読みこんでしっかりと情報を把握しようとしたが、本の内容を見てすぐには信じられなかった。
今回のドリーマーは、臼杵白馬という一年生の男子生徒だった。本によると彼の身長は二メートル三センチ、体重は一〇三キロらしい。それだけでもすでに高校生離れしているのだが、彼の将来の可能性の方がもっとすごかった。彼は運動能力に長けているらしく、将来どんなスポーツでも超一流の選手になれる可能性があったのだった。
本に書かれていることはすべて事実であるため、信じるのに少し時間が掛かったが、どうにか受け入れることができたのだった。世の中には不思議なことがあると改めて知るいい機会だった。そして、国東はやる気に満ちていた。
先輩がこんな大物を課題に選ぶなんて、あたしたちに期待しているってこと!? だったら、その期待以上に成果をあげないとね!
国東ははやる気持ちを抑えて明日に備えて寝た。
次の日の朝、国東は中津にメッセージを送り、早速ドリーマーの情報を共有することにした。朝早くからドリームバックスに呼び出したので、もしかしたら中津の機嫌が悪いかもしれないと少し心配していたが、予想に反して中津はウキウキしているようだった。
「昨日は眠れた?」と国東が言った。
「あ、はい。よく眠れました。今までわからなかったことが一気に解消されたので、ぐっすり眠ることができました!」
「そっか。ならよかった」
「国東さんは眠れましたか?」
「うん。眠れたよ」
「そうですか。よかったです」
それから国東は改めて夢人のことを説明した。途中わからないことがあれば質問に答えるという形式で一方的に説明したのだが、特に中津からの質問はなく、スムーズに話は進んだ。さすが学年首席だけあって理解力と柔軟な思考を兼ね備えていた。
そして早速バディを組んで最初のドリーマーである臼杵白馬の情報を共有した。案の定、中津も信じられないと言っているような顔をして驚いていたが、口で説明するよりも実際に見た方が早いと判断し、臼杵が登校してくる時間にベンチに座って確認することにした。
数秒後、二メートルを超える巨体の臼杵が現れたが、彼の姿を見た中津の感想が少しおかしかったので尋ねると、彼の隣を歩いている龍原寺風連と勘違いしているようだった。おそらく、白馬という名前からイケメンだと思い込んだのだろうが、勘違いしたままだと仕事にならないので、国東はすぐに訂正した。すると、予想通り中津はとても驚いていた。
「キミ、名前だけでイケメンだと思い込んでいたでしょ?」
「……すみません」
中津は図星をつかれてシュンとしていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
感想、お待ちしております。